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神が悪戯したこの毒の国で異能戦争  作者: 真鍋棒
3章「8人の刺客」
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25話「合流」

「く、ゥ……殺すなら、やりなさいよ……殺すなら、一思いに、殺しなさいよ!」



「その前に、能力を解いて貰いましょうかね……私は4人も要らないわ、姦しいどころの騒ぎじゃないもの」



「そんなことできないわ、私は何が何でも貴方を殺す、それがカイン様からの命、果たせないなら死ぬまで……」



「その手に持ってる本は何? あら、でもだいぶ焦げちゃってるわね」



いつの間にやら、ミカルナが持つ本を取り上げて見練りまわした。



「そ、んなッ……焦げ……」



「あー……この本」



「お、オオ、お前ェェェ!!」



渾身。渾身の力でミカルナは短剣片手に飛び上がり激昂とともにレイカの胸に狙いをつけ突っ込んだ。全身の火傷など意に介してる場合ではないほどの絶望。私がずっと知りたかった秘密が、本の結末を読むことなく、あのメイドの手がかりを知ることなく水の泡、もとい消し炭になって消えたのだ。



「そんなに大事なの、この本が」



「ガフ、ぐ……くッ」



短剣を避け、ミカルナの体ごと抱き寄せ、腕でミカルナの首を絞めた。言ったはずだが護身術くらいの心得はある。短剣を力なく地面にカランと落とし、ミカルナは涙をぼろぼろ零した。歯を食いしばり呻いた。



「ウゥゥ返せぇぇ、返せよぉ……私のぉ、私のぉぉ……」



「これ、幸せにしたい人が居る人が読むって本なのよ、誰が書いたか、わかる?」



「……U・ツヴァイ……!」



言い切らないうちにミカルナは締め上げられ意識を失って力なくぐったりと地面に落ちた。



「あら、戻ったみたいね」



気づけばレイカは1人に戻っていた。他の3人のレイカは消えており、宿のロビーには人が点々と居た。元の世界に戻ってこれたのだ。ミカルナの能力は終わったのだ。


されどレイカは、勝利した喜びでも、生還できた安堵感とも違うような表情をしていた。母が子を見つめるような慈愛に満ちた表情、哀愁も感じられる深妙な表情。レイカは思い出していた。数年前のことを。



「あなただったのね」



ミカルナのメイドが読んだ本は、レイカが執筆したものである。救いの本。人が人にしてあげられる助けの本。メイドはあの日の夜、レイカに会うために家を飛び出したのだ。ミカルナを心の底から救いたいという一心で。

レイカはメイドに会っていた。盲目の少女が居るから助けてあげたいのだと、そう相談を受けた。そしてレイカは医者を紹介したのだ、盲目をも治せるかもしれない医者を。その報を聞いたメイドは大喜びで帰っていった。だが町に着いたその日その瞬間……運悪くメイドは殺されてしまった。

レイカは今、なんとなく察しがついた。あの時あのメイドはミカルナのもとに帰れなかったのだと。



「ごめんなさい、貴方を幸せに出来なくて」



その事実を知った時、ミカルナは激昂するだろう。レイカのせいでメイドは死んだんだと、きっとそう思うに違いない。あのメイドを返せと。怒りのもと、さらなる殺戮を繰り返すに違いない。あのメイドが望まない、悲しむ生涯を送るに違いない。



「少しでも助けになるなら今、私が……!」



5日後。レイカは無事にノドカ達の居る町『スカイドラ』へと到着した。



「レイカァァァァお前無事だったのかよぉぉぉ!!」



町へと到着したレイカを目撃して奇声をあげたのはトウカ。1週間以上も待ちに待ったのだ。半ばレイカの安否を諦めかけたりもしたもの。無事が確信できてはしゃぐように喜んだ。



「ごめんね待たせちゃって、何ともないわ、無事よ」



お互いに軽いハグをして打ち解けたあと、トウカの背後から駆け寄るノドカとウツリを見てニコリと微笑む。



「良かった……! 久しぶりですレイカさん、無事なようで」



「心強くなったよこれで! トウカさんなんて落ち着かなさ過ぎて私大変だったもん、良かったよ!」



「え、何トウカ、あなたウツリちゃんに何かしたの?」



「それがよォ、待ってる間心が落ち着かないから糸でウツリちゃん用の服作って遊んでたんだよ」



「なにしてんのほんとに」



「あれ、レイカさん何か落としましたよ……写真? ツーショット……?」



ノドカは拾い上げた写真を見つめ、複雑な顔に変わる……この写真、ひとつ前の町で撮られたものだ。



「レイカさん……前の町で、遊んでました? この写真、随分楽しそうですが」



「え? あぁそれ、友達。ここにくる途中に作った友達よ、ふふ」



「おぁ、可愛い! レイカさんも美人だけどこの女の人も可愛いぞ、なぁノドカ可愛くない?」



「そう?」



あんまり興味なさそうなノドカに話を振り、ノドカは顔の端正不端正よりこの女性の傷だらけの服とか顔が気になった。一体どんな痛烈な遊びに興じていたのかノドカは気になったが考えるのはやめた。



「……レイカお前さぁ、相変わらずマイペースだよなぁ、なんていう子だよ名前教えて、ていうか紹介して」



「トウカ貴方もだいぶマイペースしてるわよ? 名前ね、ミカルナっていうのよ」



その写真に写っていたのは、病院の一室で撮られたレイカとミカルナの2人。レイカはミカルナを助けることを選んだ。そしてミカルナは、渇望していたメイドの最期の真相を知り得ることで、肩の荷がひとつ降りたようだ。レイカを恨むどころか、感謝した。愛する人は最後まで私を愛してくれていたのだと知れた。決して楽ではない生活に苦しんでいたあのメイドを救っていたのはあの本だったから。ミカルナはレイカに紹介されるまま、医者の元へと治療を受けに行くことにし、この写真を撮った直後に旅に出て行った。カインに殺される危険性もあるが、そうなっても仕方のないことだと、そう言って消えていった。



「さぁ、ご飯にしましょうか」



レイカは大きく息を吸って吐き、ノドカ達の背中をばんばんと叩いて食堂へと案内させた。戦いはまだ始まったばかりなのだ。



「しくじったか……ミカルナの奴は、奴ら一行を1人も殺せんまま交戦終了とは」



港と隣接した町の一角。そう呟いたのは男。町の末端の一角、暗がりの裏通りでそう呟いた。



「『エリー・アイヴヘル』から聞くところによれば、レイカ・バギーニャと和気藹々としていただと……まぁいい、ミカルナを抹殺するのは他の刺客が引き受けるはずだ、俺以外の6人がな」



帽子を深く被り、紺色と青の厚着で身を覆っていた。目の下のクマと常に食いしばったような歯が表情として特徴的なこいつの名は『コレク・シオン』



「オィ、ニイちゃんよ……この裏通りがどういう所か分かってるのか?」



そんなコレクの肩を後ろからグイッと掴み、顔を近づける男。その背後には5.6人の男も居た。



「ン……なんだ、お前らは……」



ふと下の方に視線を移せば、背後の男達は大きな袋を持っていた。血に滲んだ縦長の袋。中に入っているのは恐らく人間だろうか。こいつらは恐らく……。



「殺し屋か、お前ら」



「あ?何流暢に会話してんだァ、この死体を海に捨てる現場を見られちまったんじゃお前も生かしてはおけねえ、悪いが死にな」



「そのナイフで俺を殺すつもりか、やめておけ、それは怖い」



「ハハァ! 怖いだァ!? 何言ってやがる、あ? なんだ、こいつァ?」



突然その男のナイフの握る方の腕が、真っ白な布で覆われた。



「なんだこりゃ、ウェディングドレスじゃねぇか。こんなもんどっから取り出しやがった、この変態がァ!」



腕を振り上げコレクの首目掛けてナイフを全力で突き出す男。しかしそのナイフが到達するより先に、ウェディングドレスからおぞましい量の血液が噴き出し、男は背後に仰け反る。



「ぎぃやぁぁぁあァァァァ!! 痛ェッ! ウデが、俺のウデがぁぁぁぁあ!!」



ハラリと地面に落ちた真っ赤なウェディングドレス。その瞬間、男は自分の腕が、肘より先が無くなり『切断』されている事実に気づき、そしてそれと同等の驚愕がまた彼を襲う。



「なッ……あっ、じっ、地面からサメが生えてッ……うわあァァア助け」



バツン! 巨大ザメが地面から生えており、地面を自在に泳いでいたのだ。男は真下から食われ、顔の上半分だけを残しサメの胃袋に丸く収まった。その背後では彼の取り巻き5、6名が慌てふためいて逃げ出す。



「うわァァアッな、なんだこいつ! ウウ゛!ガ!」



走り逃げようとする彼らは突然頭部をいくつもの針で突き刺され、全員死亡した。何もなかったはずの裏通りで、コレクの無双がここに終結したのだ。



「能力の名は『テラーマリン』……アンヴィーに名付けて貰い授かったこの能力。全員一瞬で殺せた。この能力で、トウカとレイカそしてその一味を殺す、俺なら殺すことができる。奴らは必ずカイン様の居る国王の城を目指し『この町を通る』はずだ」



一方、レイカとノドカとウツリとトウカは町から町への道中を歩いていた。



「なるほどね……スペリィは行方不明になってしまったと、血塗れの手帳を残して」



「ああ、もしかすっとカインとかいう奴にやられちまったのかもしれねぇ、まぁ死んではいねぇと思うがな」



「トウカ、よく分かってるわね、あの子は根性だけはあるんだから、夢中になったものには犬みたいに食らいついて放さないの」



「この手帳は俺たちへのメッセージだとすれば、あいつは独自にカインとアンヴィーの後を追いかけたのかもしれねえ」



前を歩くレイカとトウカ、その距離感はピタリくっつくレベルでお互い安心しきったような表情でお話していらっしゃる。後を歩くノドカとウツリはたじろいでおり、ウツリがノドカに耳打ちした。



「あの2人が実際に会ってるとこ初めて見たけど、まず、近いね……あれかな、恋人、なのかな」



「うん、どうだろう、でもレイカさんは本の力で色々な能力者と会っているが、信用できて味方につけて行動させてるのはトウカだけ……となれば、やはり特別な関係なのだろう、か」



「じゃ、じゃあ必然的に私とノドカが、こう、あれになるよね……」



「必然的に……?」



「恋び……だ、いや! せ、戦友に! なるね!」



「そだね」



ウツリが素っ頓狂に甲高い声をあげるものだから、トウカとレイカは立ち止まって、振り向いた。



「どうしたの? ウツリちゃん」



「あ、いや! そうだ、今私たちどこへ向かっているんでしたっけ!」



「あぁ、ミカルナからいくつか話を聞いたからね、カインという名の男はこの国の公爵。そしてアンヴィーを匿っていると聞く……であれば私達は国王の居る城に行くしか無いわ、だからまずはこの先にある港町の『フーチンジュ』を通ってそこから船を走らせてもらうことにしたの」



「なるほど、しかしレイカさん、俺が聞いた話では敵の数は……」



「ええノドカ、さっき話した通りよ。アンヴィーが産み出した能力者の数は9。うち1人はカイン公爵、そして1人はミカルナ。敵の数は少なくとも7人という事になるわね」



「……ゾッとしますね」



「そして何故か私の素性も能力も分かっていた……私達がどこに居るのかも、ね」



「ということはあれか、奴ら能力者の中には遠隔的に人を探して特定できる能力でも持ってる奴が居るかもしれねえな」



「そうなるわね。この先行く先々で先手を打たれて待ち伏せされてる可能性も否定できないわ」



そうしているうちに港町フーチンジュに着き、宿をとる4名。



「とりあえず手続きは私とトウカでやっておくから、ねぇトウカちょっと小銭ある?」



「あるけど、なんで? レイカお前お金は?」



「財布無くしちゃった」



トウカとレイカが宿を取る手続きをするのを尻目に、ウツリはノドカを引っ張って、耳打ちをした。



「ねぇノドカ、話があるんだけど……私の、話」



「なんだ?」



「私って記憶喪失ってやつだよね、私、いい加減知りたいの、私のこと、ノドカと会う前の私のこと……」



「……そうだな、だが俺に期待はしないでくれ、俺はウツリの事はまだ分かっていない、俺の町の戸籍にもウツリと思われる人も、ウツリの親と思われる人間も居なかったからな、気づけばそこに居た。それがウツリなんだ」



耳打ちを繰り返す二人に、突然レイカがずいっと顔を近づける。にこやかな反面、小馬鹿にしたような含み笑いもしている。



「あら〜? なんか大事そうな話みたいね、トウカ、私たちは先に上の部屋にあがっておきましょう、ノドカとウツリちゃんの邪魔をしちゃ悪いし」



「邪魔……って、そんな、ノ、ノドカ、ちょっと、来て!」



「えっ、なにっ」



顔真っ赤にしてウツリはノドカの腕を引っ張って宿を飛び出した。勢いのまま早足でぶつぶつと『違うもん』『まだそういう関係じゃない』『その話はいずれ』とかなんとか言いながらグイグイ宿から離れていく。

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