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神が悪戯したこの毒の国で異能戦争  作者: 真鍋棒
3章「8人の刺客」
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23話「ドレスアップマイワールド その4」


レイカは地面の床を発火炎上させ、脆くなったところを蹴破り、この二階の部屋から一階まですぐさま降り立つ。



「うぉっとォ!」



「ご対面」



二階の階段から降り、玄関へと向かうミカルナに丁度鉢合わせた。



「宿屋に穴開けるとは、無茶しますね!」



「その正確な太刀の振り、貴方やはり……盲目は嘘ね!」



「それはノーですよォ」



「なんですって……?」



「私が見えているのはレイカ、貴方の世界……私の能力『ドレスアップマイワールド』で作り出された、貴方だけが存在する世界は、私の目に映るのですよ、この能力は私に光を灯してくれる……貴方を殺しちゃえばまた盲目に戻るのが惜しいのですけどね」



「自分の光の為に……人を殺しても構わないと?」



「しようがないじゃないですか、人に灯る光に犠牲は欠かせませんからねぇ!」



またひとつ剣を振るい、逃げ道を塞ぐレイカを退けようと必死のミカルナ。



「そんな攻撃……!」



杖のリーチは脅威だが、見切れない動きではない。長物を扱っている以上、懐に飛び込めさえすれば抑え付けることも可能なはず。



「うッ……!?」



「まだ気づいてなかったか……この世界の変化に」



「ぐ……グフッ、おかし、い……息が」



剣を避けようと体を動かそうとした一瞬、レイカはフラついた。ドジではない、明らかに運動に支障をきたす事象が起きていた。酸素。明らかに薄い。息が苦しい。大して運動もしていないはず、負傷の身であることを考慮しても異常なのが身に分かった。



「今頃上の階の二人もォ! 痛みに悶えてるだろうね!」



剣はレイカの右肩を貫いている! その剣をぐりぐりと動かしどんどん突き刺して、ミカルナはニヤつく。



「もっと見せなさいな、痛みに滲み上がるツラを私にィ! もう貴方は死ぬ! この剣を引き抜けば出血で体は更に重くなる! 貴方の世界だけ酸素は薄くなっていくからな、同じ人間が何人も居るという『ギャップ』に『貴方の世界』が耐えられなくなるからなァ!」



「……フゥー、痛みに滲み上がる顔……見せてあげるわよ、存分に『焼き付けな』」



肩に刺さる剣とミカルナの腕をガッシリ掴み固定し、レイカは顔を上げミカルナの目を見る。



「なッ……離せ」



まだ力が残っているとは、こいつ……! レイカの腕を掴んで引き剥がそうとした瞬間。ミカルナの顔半分左が炎上する!



「コッ、おああぁぁ! レイカお前ェェ!」



あまりの熱と衝撃に、剣を引き抜きざま背後に吹き飛ぶミカルナ。燃える顔を叩き必死に消火する。



「こ、の……イカレ女ァァ……あたしの、顔が、顔ヲ……ぐャあぁぁ……!」



火傷で腫れ上がった顔を押さえ立ち上がるミカルナ。レイカをにじり睨み、何やらブツブツ呟いている。



「スポンテーニアス・コンバッション」



一方のレイカは、血の噴き出す肩を発火で燃やし皮膚を無理やり熱治療し、血を治めた。



「こい、つ……! 殺す……絶対に殺す……!」



レイカの能力の射程範囲に入らないように、距離を測りながら、じりじりと、宿屋の出口を目指す。



「うるっさい!! 近寄るんじゃねぇ!」



剣を振り回し、そう叫び散らすミカルナ。



「私は何も喋ってないけど……」



「どけぇ!」



「あっ……しまった!」



狼狽えた一瞬を突かれ、逃してしまった!



「今の瞬間、彼女は気が狂ったのか……虚空に叫んだだけか……? いや、もしかして、ミカルナには私の世界と、元の世界『両方が同時に見えている』としたら……!?」



レイカは痛む肩を押さえ、階段から駆け下りてくる2人の自分を見つけ、首を横に振った。



「逃してしまったというわけね……でも死ななくて良かったわ、肩は痛いけど」



「ごめんね……ミスったわ、でも彼女の口から『この世界』についてのことをいくつか聞けたわ……」



「負傷は共有するのに記憶は共有出来ないとは、参ったものね」



ミカルナと交戦したレイカは、彼女から聞いた限りの情報を残り2人のレイカに話した。そして、先ほど気がついた仮説『ミカルナは、レイカの世界、元の世界両方に干渉している』ということも。



「ふむ……酸素が薄くなっていくのね、私が増えれば増えるほど」



「ええ、3人で追いましょう……と、それよりあなたたち降りてくるの随分遅かったわね」



「ちょっとね……いや私じゃなくてこっちのレイカがね? 流暢に手紙書いてて」



「は? 手紙?」



「ええ、今しか書けないと思って、ベッドの上に遺書書いて置いといたの」



「縁起でもない! 私はそんな悲壮感に走らないわよ! やっぱり貴方達、私じゃないんじゃあないの?」



「あ、貴方3人目の私だったのね」



「へえ、3人目の私が一番好戦的なのね……」



「関心してないで追うわよ! 酸素薄いから焦らないで、ペース保って行くわ!」



3人のレイカは宿屋から飛び出し、ミカルナを追いかけ走る。



「決して焦ってはいけない、確実に追い詰めるのよ」



「ええ……三手に分かれるのよ、三方向からミカルナを確実に追い込む……決着はそこで付く」



一方のミカルナ。レイカ3人が追いかけていることに気がついており、背後をチラチラと確認しながら駆ける。



「低酸素だから全力で走っては来れない、速度は私が大いに速い、ですねェ……しかしあの女、何も考えずに追ってはいるまい、必ず策を講じてくるはず!」



火傷でジクジクに痛む顔の左半分。歯をギリリ食い縛らせ杖を力強く握りしめる。



「熱イ、よくも私の顔を……よくも、殺してやる……心身共にボロにしてから殺してやる!」



ミカルナ。彼女はこの国の王に仕える大臣の娘であり、裕福な生活と不自由の無い心身に満ち溢れていた。舞踏と歌謡の心得があり、誰からも憧れの存在となる17年を送っていた、が。



「ゲホッ……おぇ、気持ち悪い……吐き気が」



突如訪れた慢性的なだるさ、吐き気、体調不良。ある日自室のカーペットの上に黄土色の嘔吐物を撒き散らしたときに察しはついた。



「子供だ……! 私、孕んでいるんだ、子供を、病院行かなきゃ……いや、その前に」



千鳥足で彼女が会いに行ったのは『父親と思わしき男』だ。彼氏ではない。妊娠したその日から逆算した日辺りにそういう関係をもった覚えのある相手だ。



「……悪いけど。これで勘弁してくれない」



「え。なにこの、お金……待って、私あなたの事が好きなの、私この子を産むわ、私達なら良い夫婦になれる」



言い切らないうちに、男は手に持つお金をミカルナの胸に押し付けた。



「こんなことが親にバレたら、俺は親にぶち殺されちまう……きみの家ほどじゃないけど、うちも名家なんだ、俺は天才騎手の息子なんだ……名家を汚すわけにいかない」



「こんな……ことって……汚すって、なによ」



「すまない、この金持って、消えてくれ……」



「待って……待ってよ! この子は、どうなるのよ! こんな、はした金、なんだっていうのよ!!」



泣きわめきと共にお札をビリビリに破り捨てたのはその直後。そして彼女が拒食症に陥り、子供を流産させた三ヶ月後に、虚弱した体は彼女から視力を奪った。

拒食症と流産の影響だけが原因ではなく、性行為の際に、種以外の良からぬものを貰っていただとか医者が話していた気がするが、自棄に陥ったミカルナの頭では整理できていなかった。


彼女は1人の男が原因で、全てを失った。親からも勘当され質素な街に身を移した。情を煮やしたメイドが1人だけついてきて身の回りの世話をしてくれたが、ある日夜の町に現れた気狂いの盗賊に殺されて死んだ。ミカルナは悟った、自分という人1人のの世界を壊すのはたった1人の人間なのだと、周りの人間もそう、ミカルナが大切に想った人間は、ミカルナの世界の死を背負うことになり死ぬのだ。

彼女はいつしか、目は見えないが周りに沢山の自分が居て、耳元で死ねと囁いてくる幻聴、幻覚を見るようになった。



「私はもう死んだんだ……私の世界の死が、感染してしまうんだ、汚らわしく私を汚して侵食した、あれみたいに……ならいっそ、本当に私が死んでも、何も変わらないよね」



メイドの形見がひとつだけあった。本。分厚い本。杖をつき、これを胸に抱きしめながら、ぼろぼろの服で崖の上に立った時、男の声が耳に響いた。



「君を救おう。私と、この神が、君を救おう」



カインと名乗る男。アンヴィーと名乗る少女が……彼女に力をくれた。

人を殺す能力、しかしそいつが死ぬまでの間ミカルナには世界に光が灯り戻るのだ、視力が戻るのだ。



「私を汚したくそ騎手も、私を見捨てた親も、あのメイドを見捨てた周りのメイドも全員殺した! 全ては私の為、あの人の為、カイン様の為……!」



彼女は人を殺しの能力に陥らせた「1日目」だけは「読書」にふけると決めている。あのメイドが残したあの本、読みたいと思い続けたこの本。敵を殺す前の1日目だけは読書をする。そう決めている。



「レイカを殺し、次はトウカとノドカとかいうガキを殺す……そのときには読み終えるはず、そうしたら分かる、あなたの事が。本を読み終わったあの日の夜、なぜあなたは家を飛び出して消えたのか、その5日後に町に戻ってきたあなたは殺された……家を出なければ盗賊に殺されることも無かったのに……あなたのことを、私はようやく知れる!」



「おっと待ちなさい、そこまでよ」



「レイカ……! 回り込んでやって来たか、ならこっちに行くしか無いですね……!」



「あーっと! こっちも逃げ場は無いわよ」



「ちっ、少し背後から消えたと思ったら、抜け目ない……!」



両脇の道から現れるレイカを避け、正面を突っ切るミカルナ。酸素の薄い状態のレイカではまず追いつけない。



「うっ……待てよ、この先の道は……まずい!」



「今頃気づいたようね、この道の向こうは町の出口、その門がある……『私の世界ではただそれだけ』だがミカルナ、あなたの見えてる世界では違うんじゃないの?」



「3人目のレイカは、私の真後ろから走って追ってきているわけですね……引き返せないように。門は開いている、町の外へ逃げれば広大な草原だ、追いつかれることがまず無くなる……だが」



「む、なんだ君は一体、そんなに焦って街の外に行く必要もあるまい、止まれ、止まりなさい!」



門番。そう、町の門には門番が居る。魔物と怪しいものの侵入と逃走を防ぐ役目の門番、屈強な男! それが2人も立ち塞がる……!



「これが、狙いか……! レイカ、あなたの世界には誰も人が居ないから門番も居ない……であれば門番に立ち塞がれることもなく私だけを追い、攻撃できるという狙いですか!」



「待ちなさい、よく分からんが独り言を言いながら走ってくるとは怪しい、ちょっと止まれ!」



「少しでも立ち止まれば……私はレイカに焼き殺される!」



「おい! 止まれ! 止ま、あれ止まった」



2人の屈強な門番をやり過ごして行くのは無理だと察したミカルナは走る足を止め、クルッと振り返り杖を地面に突き立てる。



「観念したようね、必要以上に手荒にはしないわ……この能力を!」



「解いてもらう!」



「貴方の真後ろには門番! 両サイドからは私! 正面からも私! 逃げ場は全方向に無しの包囲網!」

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