21話「ドレスアップマイワールド その2」
「くたびれてきたわ、この町で一泊するとしましょうか。ノドカ達、ちゃんと待っててくれてるかしら?」
レイカはミカルナと別れ、そして町に着いた。結構な道のりを進み、空は夕暮れ。夜通しまで歩くのは悪くないが、疲れ倒してしまっては困る。力になる為に彼らと合流するのだ。
「あっ……とごめんなさい」
「ア、いえ、こちらこ、そ……」
さて神を見失った今、ノドカ達と合流したあとどうしよう?なんて考えながら歩いていたら、前をしっかり見てなかったせいで人にぶつかりかけた。白髪で緑のロングコートの青年に。
「め、女神だ」
ケガ人のようで、包帯が所々に。レイカの顔を見つめ女神と呟いたのち、ハッとして俯き、そそくさとその場を去っていった。
「あ! ちょっと、何か落としたわよ」
レイカは彼が落とした小袋を拾い上げる。ほのかに香る匂い、この匂いは……。
「鳥か鼠の餌かしら……? 細かくした木の実ねこれは……」
「いらない、もう鳥は飼ってない故に、あげ、あげよう、では」
慌てるように去っていった。レイカのような美人と話し慣れて無い、そんな感じが出ていた彼は、ノドカ達と先日交戦した『レジェンド・レジ・エンド』ウツリからの言葉を聞き入れ、この町で療養していたのだ。
「……いらないんだけど」
と、いうことはレイカは次の町でノドカ達と合流出来るということ。そんなこと彼女が知る由も無いが、鳥の餌をとりあえずまあ貰い物だからと懐に仕舞い、宿への受付を済ませ……ベッドで横になる。
「貧乏性……直らないわね、なんでも捨てずに持っておいてしまう」
虚ろとした瞳で、ふと昔を思い出した。眠りにつくひと時の瞬間、脱力と共にほんの少し、昔を。
「貧乏で、お母さんも必死で働いてて、飲まず食わずの晩もあったわね……こすけた服しか着れてなくて、友達なんて居なくて、孤独だった……フフ、懐かしい」
「お母さん……私、今良いことをしてると思うの、私、お母さんを救えなかった、だから、その罪を償うの、世界の人達を脅威から救うことで……」
そして暗い、夢の世界へと落ちた。孤独と不足感に塗れた人生はあくまで過去なのだ、傍若無人に本を書いてその日を暮らしているレイカ・バギーニャにはもう終わったはなしだ。
「……? 眩し……朝?」
レイカは目を覚まし、くしゃくしゃの前髪を避け、辺りを見渡す。窓から差す光は朝日。
「妙に、静かね……鳥の一匹や二匹鳴いてても良いのに……う!?」
起床して隣を見てレイカはギョッとした。起きている自分とは別に、もう一人の自分が居る。
「……」
「寝て……る? 何……!? 人形……!?」
服装も顔も全くの同じ、自分がもう一人、ベッドの隣で寝ているのだ。気味がわるい、寝ぼけているのか? 寝ぼけているにしては目はぱっちりで意識も正常だ。ギョッとしたおかげで脳はシャキッとさせられた。
「と、とにかくここを出ましょう、何か、何か変よ……!」
身支度を済ませ、余りに静粛すぎる朝に違和感を覚えながらも、階段を降りロビーに行き着く。そしてレイカは驚きの声を漏らした。
「なんで……!? どうして、誰も居ないの……!?」
飛び出すように宿屋を飛び出し、町の中を息を切らして走り回る、彼女がここまで取り乱すのも無理は無い。
「ハア……ハア……どうして、どうなっているの!」
『誰も居ない』のだ。人だけにとどまらず、動物や鳥さえ全く居ない、この町から一切の生き物が消えた! 肉屋に肉は並んでいるが後ろで捌かれる為に生きている豚や牛も忽然と消えていた。死んだ肉はあり、生きた肉は無い、文字通り生物だけが消えたのだ!
「あなた……誰よ」
「え?」
レイカは振り向く、そこに居たのはもう一人の自分。起きてやってきたのであろう。なんたることか、自分がもう一人、この町にはそれしか居ないと言うのだ。
「貴女こそ……私、なわけないでしょ?」
「なんで私がもう一人居るのよ……! 荷物、その荷物返しなさい、変装の能力ね? さあ、返して!」
もう一人のレイカも錯乱している様子だった、お互いがお互いを疑いもみくちゃに組み合い、そして。
「ゥ熱ッ!」
「う゛あッ!」
両方が無意識のうちに能力を使ってしまった。スポンテーニアスコンバッション。レイカの能力。視界に捉えたものを問答無用に発火させる能力を、お互いが同時に。
お互いが焦げた服を見合い、お互いが戦慄する……同じ、能力。能力はひとりにひとつ。お互いが本物のレイカである証明がここに為されてしまった。
「クフフ……後は貴方が死ぬまで待つだけですね、レイカ」
「ゥ……ゴブ、ゲボ」
ミカルナ。彼女はレイカが宿泊していた宿屋のロビーに居た。レジェンド・レジ・エンドを杖でズタボロにしたのち首根っこを掴んで、レイカを遠くから見つめニヤリと笑む。
窓からレジェンドを投げ捨て、町の人はみな慌ててレジェンドを介抱した、驚愕した、周りの店では絶叫もはびこる。
しかしレイカは、同じ町に居るはずなのに、その騒動を全く感じていない、人を認識できていない、それどころか人はレイカに触れるとすり抜ける。ミカルナ以外は誰もレイカを見ることは出来ず、レイカもまたもう一人の自分以外誰も見ることは……!
「……! 宿屋の、二階……あの子は、確か、ミカルナ! どうして、どうしてここに……!」
「見つかっちゃったーっ」
ミカルナは足早にその場から離れ、宿屋から逃げ出した。二人のレイカは彼女を追いかける。
「私を、見つめて居た……!? 本当は目が見えるの? それより、何故? なぜ私が居るこの町に、私以外が居ないこの町に居るの……!? 待って!」
物陰に隠れ、爪を噛みながら、ミカルナは微笑む。無邪気に微笑んだ。レイカを始末するために繰り出された能力者『ミカルナ』
「『ドレスアップマイワールド』それがアンヴィーに名付け、与えられた能力の名前、私の能力……貴方は一晩ごとに自分が一人増えてゆく、能力は、ただそれだけ……ありえない。そんなことが起こる、それが私の能力、フフ……!」




