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2話『それは旅立ちの夜と朝 その2』


ウツリとの同居生活も1ヶ月の時が流れた。



「ウツリちゃん、見てこれ! またお洋服作ってあげたから着てみて♪」



「あっ、ありがとう、ってスカート短っ!!」



「母さん、ウツリに奇抜な格好をさせるのはやめてくれ。ウツリが周りの人間から変な目で見られるのは嫌だ、というかそのスカートじゃ走れないだろ」



「大丈夫だぞノドカ、このスカートは横に切れ目が入ってるから、運動面でも文句なしだ!」



「というかノドカが地味すぎるのよ~、いつも何の模様の無いシャツに、何の捻りもないズボンよ?」



「服装なんてちゃんと着れれば関係ないんだよって……切れ目って! スリットってやつじゃないか、ミニスカでスリットって、破廉恥だ!」



つい大声を張り上げるノドカ。一方、言われた両親はキョトンとしている。



「珍しいわね、ノドカが大声張り上げるなんて……ちょっと怒ってるし?」



「言われてみれば……ノドカ、お前熱でもあるのか?」



「……外の空気吸ってくる」



居心地が悪くなったので席を立ち、外へ出ていくノドカ。ウツリも慌てて追いかけようと席を立つ。

ちなみに、ウツリの同居についてだが、ウツリの両親が仕事の都合でしばらくの間遠くの土地へ行ってしまいその間、友達であるノドカが彼女を引き取る、という理由で同居を認可してもらっている、勿論ウソだが。



「ウツリちゃん、ありがとね」



「え?」



「ノドカは君と住むようになってから、なんだか感情豊かになった。俺たちと話もするようになったし、ついこの前までは人の目を見て話してなかったんだぞ? ウツリちゃんはもう俺たちの家族も同然だ、お父さんと呼んでも…いいんだよ?」



「そうよ、ありがとねウツリちゃん、ノドカは知識がちょこっとあるだけの頭でっかちだけど、人との付き合い方がヘタクソなの。すぐ難しい言葉使いたがるし……でも、仲良くしてあげてね? 悪い子じゃないから、それに、ウツリちゃんの事好きよ? きっと」



「いっ、いきなり何言って……わ、わたしはその……ノ、ノドカは……えっと、お、追いかけてくるから!」



動揺しまくったウツリは、顔を真っ赤にしながら家から飛び出した。そしてすぐさまノドカと激突。扉のめっちゃ近くに突っ立っていたらしい。



「痛ッ! ってウツリか。どうしたんだいきなり?」



「いや、いききいきなりノドカが家出るから! 追っかけて……ってほんとに外の空気吸ってただけかい!」



「うん、そう言ったじゃないか。ところでウツリ、あの特殊能力の扱いには慣れたか?」



あの、とは例の”手のひらから金属物質を飛ばす”あの力だ。

この3週間でノドカはウツリのことを色々尋問……否、質問し、彼女の力の源や原理を知ろうとした。

が、ウツリには能力が発現したときの記憶が無いため、その真理には辿り着けなかった。

しかし一方で、ノドカの指導や訓練を元に能力を使ううちにウツリの力は進化していた。



「喜べノドカ! 槍を作れるようになった!」



金属の生成、そして形質の変化を一瞬で実行することが可能となったのだ。

つまりは、金属状の物質を瞬時に作り出すことが可能なのだ。

進化、というと語弊がある、正しくは”応用”の範囲だ、ノドカの柔軟な発想を持ってすれば能力の応用の発想など容易かった。



「そうか、それは良かったな」



「な、なんだよその冷たい返事、もしかして……私の力って、もう興味無い?」



「ちがうよ、ちょっと考え事してただけだ。俺の体に関することだが」



「ノドカ……どこか悪いのか?」



「いや、父さんに昔から言われてはいるんだが、俺は特異体質って感じのあれらしい。体から特殊な、フェロモン? みたいなのを出し続けてる、らしい。ウツリは、俺と一緒に居て、何か変なこととか感じなかったか?」



「え……? いや、特には……」



「そうか……まあ、生活には影響はないようだって言われたから気にする必要ないかもな」



「……ノドカと一緒に居ると胸の奥が暖かい感じがするだけだ…」



「なんか言った? 胸?」



「言ってない! さ、戻ろう! 新しい洋服着たいし」



「着るのか! ウツリは恥知らずか! 派手な服装ばかりしていると軽率な大人に……」



何か眉間にシワをよせてうだうだと文句を並べる、堅物のオッサンのようなノドカをよそに、ウツリはノドカの手を引いて自室に帰った。そして、その日の夜。



「母さん父さん、明日はちょっと隣町まで出かけてくるよ、欲しい本があるんだ」



「そうか、気をつけろよ? 町の外には魔物が居る。関わらないようにしろよ、玄関に魔物が寄らなくなるエキスを買い置きしてあるから体に塗ってから行くんだぞ」



「うん、ありがとう」



「ノドカ遠くに行っちゃうのか? わ、私も行っていいか?」



ウツリの頭をぽんと撫でてノドカは言う。



「隣町までは距離もある、疲れるだけだぞ。母さんの手伝いでもしててあげてくれ、なあに、すぐ帰ってくるさ。それにほら、これお守りだ大事に持っておいてくれ」



お守り、というか、よくわからない文字の書かれた御札のようなものを手渡した。どこで調達したものかわからないが、ウツリは貰った御札をぎゅっと握り締める。



「あら、そうねぇウツリちゃんには花壇作るの手伝ってもらおうかしら」



「ノドカ、私、なんか嫌な予感がするんだ。息が苦しくて、その」



「大丈夫、お土産も買ってきてやる。じゃあ、俺は寝てくるぞ」



「……うん」



日が変わり次の日、朝ウツリが目を覚ますと既にノドカは出かけていて居なかった。ぼーっとする頭は寝ぼけてるからだと身を無理やり起こし、少し荒くなってる口と鼻の息に嫌悪感を抱きつつ、階段を降りた。

若干の虚しさを感じながら家を出ると、ノドカの母親が花壇を作る準備をしている。

母親に笑顔で声をかけられた、ここまでは覚えていた、だが、それ以降の記憶は、ウツリの頭には残されていなかった……。



同日の夜、ノドカは隣町から帰ってきた。



「目ぼしい物はおおかた手に入ったな……ウツリ大丈夫だったかな、あんなに心配していたが。早く帰ってやらないとな……もう寝てるかもしれないが」



ふと自宅の方向へと目をやると火が上がっていた。火事……まさか、あの方角は……!




「まさか……俺の、家?」



みんなは無事なのか、そういった不安に一瞬で取り込まれた。



「ウツリ……!」



一目散に全速力で駆け抜ける、自分でも驚くほど力が沸いて、地面をから力がとてつもない。ビリビリと脚が痛むが、これが火事場の馬鹿力というやつなのか。物凄い速さに身を乗せた。



「に、逃げろ! みんなぁ! 化けものだ、町の中にぃ!」



「巨大なバケモンが……!」



「そこのメガネ君! 何をやってるんだ!? あっちに行くと危ない!」



「え…!?」



慌てふためき、町から逃げていく人間たちを見て、一瞬足を止めて自宅の方へと目を凝らす。

”巨大な何かが”火の上がる自宅の真ん中でうごめいているのだ。



「町の中に魔物が侵入してきたのか……? いや、それはありえない、魔物は町に入ってこれない……いや、魔物だろうと……あれは俺の家なんだ!」



制止を振り切り自宅へ走りだす、頭では何も理解していない。何が起こってるのか、あれはなんなのか、理解などいらない、ただ家族が心配だ。



「これは……」



「グギギギ……ギ……」



自宅を押し潰して、3mはあるであろう金属の塊の化け物がそこには居た。

金属で出来た4つの腕で、これまた金属でできた大剣、弓矢、斧、槍を持つ、まるで神話に現る魔王のような。

ノドカの親はソイツの背後で胸に風穴をあけられ、恐らく死亡していた。ノドカは全身から力が抜けるのを感じた、ピクピクと痙攣する自分自身の表情筋に嫌悪感を覚え、そして怒りは湧いて来た。



「なんなんだお前……ウツリはどこだ! 消えろ!」



「グ……ギ」



「ウツリはどこだと言ってるんだ! 無事でなければ承知しないぞ!」



「ゴゴギ……ググギ……」



ノドカの言葉に反応するように、化け物は体をうねらせ、苦しそうにし始めた。武器を全部地面に落とし、ノドカに掴みかかろうとしてくる。



「ッ! 寄るな!!」



咄嗟に化け物の腕に蹴りを食らわせる。化け物の腕は吹き飛んだ、異常な攻撃力……ノドカは、脚力が異常に上昇している。筋力ではない、謎の力で。



「ぐっ……やるしかない! 俺がお前を倒す!」



お次は化け物のボディに一撃くらわそうと、一気に懐に攻め込む。すかさず蹴りを放とうとする。だが、その足を止めた。



「ウツリ……?」



この化け物の中に、ウツリが居る。それが見えた。いや、ウツリが能力でこの化け物を作っている……とも思えるほど中心核にウツリは居た。

一体なぜなんだ、理解が追い付かない、混乱して身動きがとれない。ウツリは目を瞑ったまま、歯をずっと食いしばっている。



「ノ、ノド……カ……」



「と、父さん!? 大丈夫か!」



父親はまだ息があった、必死にノドカに何かを伝えようとしている。ノドカは咄嗟に駆け寄り、父親を抱き起こして顔を見合わせる。

一方化け物……いや、ウツリはどんどん力がよわまり金属で形成していた巨大な外殻は小さくなっていった。



「ウツ、リは……お前が、付いていないと……」



「喋るな! 血は止まってる、大丈夫だ、今俺が病院まで……」



「ゴフッ……聞け、お前の特異体質は……ここに、記されてあるものだ。だがヒトの力では、どうしようも、ウツリから離れるな……」



力なき腕から押し付けられた本を受け取るノドカ。表紙が父親の血で濡れたその本は、ノドカも読んだことがない父親秘蔵の本だった。



「その本の著者に会え……ノドカ……」



「何がなんなんだ! 分からない! ウツリがなんでこんな……! 俺の特異体質ってなんだ!」



気づけば、すでに父親はこと切れていた。出血多量による失血死。ノドカはやりきれない、飲み込めない現実に疲れ果て、涙を流すこともできず、肩をがくりと落としため息をついた。

一方ウツリは完全に能力を停止し、意識を失い倒れている。地面に倒れこむ彼女は、いつもと変わらぬあのウツリだ。

ノドカはただ茫然とするしかなかったが、父親の言葉”この本の著者に会え”ただそれだけを頭に入れた。



……時は進み、三日後の朝。



「うぅ、ん……ここは……あっ、ノドカ、おはよう」



ウツリは三日ぶりに目を覚ました、草原の上で。側にはノドカが座っていた。



「おはようウツリ、体調は大丈夫か」



「え? うん、あれ? なんで外? 私一体何してたんだっけ」



「何も覚えてないのか……?」



「あ、そっか、ノドカのお母さんの手伝いを」



無垢にキョロキョロと辺りを見渡す、変わらないウツリに、ノドカは儚げに笑みを浮かべた。そして、渇いた口を開く。



「……大丈夫、それはもう終わったんだ、両親は遠くの土地に引っ越してしまったから、俺たちは引き取ってくれる親戚の所へ行かなきゃならない……ちょっと遠出になるがな」



「えぇ、そうなんだ……私、随分寝ちゃってたんだな! よ~し、じゃあ行こうノドカ! 今まで寝た分取り戻す!」



「ウツリ、これからは魔物とも出くわすかもしれない、何か武器を作って、慣れておいた方がいいぞ?」



ノドカは怒りも悲しみもしていなかった。いつもと変わらぬ表情で、木に座っていた。ここの道の先には大きな森がある、この中には魔物も生息しているだろう……。



「そっかぁ、よし、じゃあ何にしようかな、槍にしようか、いやここは火力重視で斧を……ハッ、遠距離から安全に弓矢……!? いやオードソッ、オーソドックスに剣!」



「俺はどれも嫌だな……鎌でいいんじゃないか?」



そして彼らの旅は始まった。

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