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神が悪戯したこの毒の国で異能戦争  作者: 真鍋棒
2章『アンヴィー』
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19話「走馬燈」


「しっかし、助かったぜウツリ、君が居なかったら俺たちは全滅だった。俺とノドカはこいつの底しれなさにビビッちまってたからな」



「えへへ、どういたしまして」



「さて、あいつを尋問するとしよう」



ノドカは足早にレジェンドのもとへ歩いて近寄り、しゃがんでみる。気絶はしていないが、こいつもこいつで憑き物が落ちたように項垂れている。



「おい、聞きたいことがある。アンヴィーはじきにスペリィが捕まえてくるから良しとしよう、だからお前はじっくりと尋問するぞ」



「……なん、だ」



「お前はアンヴィーを妖精と呼んでいたな。あれはどういうことだ? 他の能力者は彼女を神と呼んでいた、だがお前は違う」



「あだ名のようなもの、だ、深い意味は無い」



「本当にそうか?」



「じゃあ、貴様はなんだ、妖精が実在すると思っているのか、羽の生えた人間が」



「心が汚くなった大人には見えなくなるというあれだな。本当に居るかどうかは問題ではない、アンヴィーは妖精なのか、それが知りたい」



「それが知りたいなら、彼女を剥いで背中を確かめるといい」



「良いのか? お前が必死こいて守った妖精が俺たちに陵辱されて……」



「いや、それは出来ない……お前たちは妖精を逃したのだ、私は妖精を守りたいが為に妖精を匿おうとした。私が今守らなければ他の者に取られるからだ」



「なに? お前、まだ味方が近くに居るのか!!」



「違う。アンヴィーの味方であって私達野良の能力者にとっては敵だ、そいつは妖精の能力を利用しようとしている」



「アンヴィーの味方であってお前らの敵、だと? デタラメでは無いよな?」



「言ってなんになる……それに、そうだとしてウソだと認めるわけがないだろう」



「……たしかにな」



そう言うとノドカはアンヴィーの逃げて行った方向を見つめながら、ついでにレジェンドの鼻っ面を殴る。



「うげゥ」



「ウツリを傷つけた分だ、さあみんなアンヴィーを追いかけよう。スペリィとも合流しないとな」



「きさま……ぐェア」



トウカもノドカの後を付いて行きついでにレジェンドを蹴って行く。



「今のは俺の分な」



「ぐ、クゥゥ……」



「次はもっとましな人好きになってよ、ね。町も近いから、暮れないうちに帰ってよ、ね」



「はい……」



ウツリはあまりに痛そうにするもんだから、ついレジェンドにあわれみから優しい言葉をかけ、気まずそーにノドカの後を追いかけていった。



レジェンド・レジ・エンド……戦闘不能。

能力者のインコ達……離散。



ノドカ達の戦いはひとまず幕を閉じる。

一方、アンヴィーと相対するスペリィは!



「欲しい能力があるって言ってたけど、それ、当たってるわよ、私、欲しい能力があるの、どうしても。でも私の能力は、無能力者に能力を与えてみないとどんな能力になるかは分からない」



「何を急に調子付いて喋ってるんだ……! お前の私利私欲の為に、レイカ様の手を煩わせ、ウツリの人生もズタボロにしやがって!」



振り上げられた爪に反応し、アンヴィーは瞳孔を開き切り表情が硬直した。そして咄嗟に立ち上がり一目散に走り出す。



「チィ、待てッ!」



「助けてッ、助けて!」



アンヴィーが遠目に見ていたのは旅団、町から町へ馬車で移動している旅団。馬を操る御者、その周りに兵士が5、6人は居るであろうか、カーテンで包み隠された内部には姫か王でも乗っているのかという感じだが、遠くから少女が助けを求め走り寄れば構ってあげるほどの人情もあろうと言うもの。



「御者、止めろ」



男の声、渋く低い声での命を受け御者は馬を止める。兵士たちは走り向かってくる少女に体を向き直し、一応とでも言わんばかりに腰の剣に手を添え警戒する。



「彼女は私の友人である。この私のな」



そう言うとその男は馬車のカーテンを開き、身軽な足取りで地面に降り立ち、兵士たちを退け、前に出てアンヴィーを迎えた。


真っ黒のマントをなびかせ、金色の髪と瞳をした鋭い目つきの男。



「カイン公爵! 危険です!」



「ここはまだフィールド! 魔物や荒くれ暴君がいつ襲ってきても不思議ではありません!」



「あの小娘は得体が知れぬもの、いくらカイン公爵様が『暴食』を司る力をお持ちとはいえ……」



口々にその『カイン公爵』なる人物を静止せんとする兵士たち。カインは兵士たちの方へ振り向き直し、まあまあ。と両手をひらひらとさせ、お茶らける。



「友人だと言っている、数年来の付き合いだ。公爵の友人に向かって怒号や、剣を向けるのはやめてもらおう。さて」



そう言うのならば、と。兵士たちは肩を落とし、息を吐き剣から手を放し、それでも「おいおい公爵に何かあれば罰を被るのは我々だぞ」とそれぞれが思い、近寄るアンヴィーに警戒の視線を向け続ける。



「ハア……! ハア……! どうも、助かったわ、確かあなたは、カイン男爵……」



「今では公爵さ、数年前君に出会ったおかげでね……感謝しているよ。どうだね、またひとつ我々国の為に働いてはみないか」



「悪いけれど、今私にはあまり時間が無いの、あなたのお手伝いをしてる暇は無い」



「この国は君の力を必要としている、対能力者用の騎士団を構成できたのも君のおかげだ、君は力を持て余してやいないのか」



「違うわ、この力は私のためだけにある、私が真実だと確信したものを取り戻すためにあるものなの」



「家族だったか、君が欲しているもの、十数年ずっと探しているとか」



「13年よ」



そう雑談するアンヴィーとカインの背後で、5人の兵士は次々に腰をガクッと落とし地面に倒れ伏せる。



「ぐ、ガ……なん、だ、体がマヒして……動かな」



「カイン様、逃げ……!」



アンヴィーは後退りした、いつの間にかスペリィはすぐ近くまで迫っていたのだ。次はカインが狙われている。



「兵士どももおっさんもアンヴィーに視線を集中してくれてやりやすいよ。安心しろよ麻痺毒だ、じきに動けるようになるから、今はみんな寝てな! おっさん、あんたもな」



毒を仕込んだ爪を振り構え、カインを切り裂くスペリィ。



「な……」



地肌が露わになっている首後部を確実に狙って切り裂いたはず、だが。



「爪が通らな、い? 折れた……爪が……こいつ、能力者!?」



「フゥン!」



「ぅげァ!」



カインは即振り向き、左腕でスペリィの首を掴み上げ、地面に叩きつける。そのまま思い切り蹴り飛ばしスペリィはなすすべなく吹き飛んだ。


カインが蹴った地面、えぐれている。普通では……ありえないパワー!



「ゴ……げは、ハァー、ハァー、ぐ、が……おまえ、なんだ」



爪は全部へし折れ、臓器も一部やられたのか、どす黒い血を口から地面に伝わらせるスペリィ。額から滴る血で片目は霞む。いくつか指も折れたが、気合いで立ち上がる。アンヴィーを守るこの怪力男、一体。



「アンヴィーを狙ってやってきたというわけか、お前のようなゴミ能力者が」



いつの間にかカインはスペリィの目の前に立っており、カインはおもむろに拳を握って、その拳からはいくつものトゲが生える。



「ぐ……ぅ、うあああああ!!」



咄嗟の一撃。スペリィは折れた爪を拾っており、毒の染み込んだそれをカインの目玉を狙い、突く!



「ンー……惜しい」



「ハァ……ハァ、なんなん、だ、おまえ!」



突き刺す方向へ向かうスペリィの腕は、カインの肉体から生えてきたツタ状植物が抑えつけていた。硬質、怪力、植物。こいつも! 幾多の能力を使えるものなのか! スペリィは驚愕した。



「そんな程度で……わたしが震え上がるとでもッ!!」



ツタに絡まれた以上はどうしようもない、使える爪も無い以上は……!

スペリィは地面を強く蹴って跳躍し、カインの真上へと!



「ゴミ能力だとか言ってくれたな! 喰らえッ!」



「フン……!」



空中回転し、落下の勢いのままかかと落としをお見舞いするスペリィ。



「なん、だと!」



カインは慌てる様子もなく右腕を振り上げていた。その腕、焦茶色の剛毛に覆われ、鋭利な爪が五本見える強靭な腕!

カインは即座に右腕を強化変形させたのだ、スペリィの一撃をものともせず右腕を振り上げ、スペリィを空中へ投げ出す。



「こい、つは……強すぎる……! こんな奴にアンヴィーを匿われたら、ノドカ達と力を合わせても、もう辿り着けないかもしれない……!」



「死ぬが良い」



「ぅあッ!?」



ふと気づけば、吹っ飛ぶスペリィにカインは追いついていた、驚くべきはその腕、翼に変容している! 空中を闊歩してこいつはスペリィに追撃を仕掛けに来たのだ!



「こいつ、動物の力を使えるのか!? いや、違う、動物なんてものではない、禍々しい色の翼……どす黒いパワーを感じるこの感覚は」



「ハァッ!!」



「うげァッ!」



カインは突進する勢いのまま足蹴りをスペリィにお見舞いする。腹部を捉えたその足蹴りでスペリィは速度を増して吹き飛び、森林へとぶち込まれる。



「フン……アンヴィーはひとまず私が匿い保護するとしよう、彼女の力を利用して良いのは国を治める使命を持つ我のみだ」



翼をもとの腕へ戻し、静かに地面へ降り立つカイン。静かに歩みを進め、スペリィの状況を確認する。



「木々がクッション代わりとなり死んではいないだろうが、立ち上がって俺を追うことができるか否か……それだけは確認させてもらおう」



その時、カインは足元を取られ、右足が地面に沈みバランスを崩す。



「チ、小さき沼があったか、立地が悪い……追う必要は無さそうだ、な」



「ああ、そのようだ、追わなくて良くなったようだ、私にとってな!」



気づけば背後、スペリィが立っており右手の爪を構えカインを捉えていた。



「私の能力で……沼の存在感を薄くした、お前がハマるようにな、そして私の爪にはスペアがある、油断したな、死ね!」



「何度やろうと……!」



またしても、振り向いた瞬間のカインの首を狙ったその爪の一撃は難なく受け止められる。硬質の皮膚、よく見ればワニだかトカゲかのような皮膚に変貌しているのだ。



「人間では……無いようだな、だが先ほど私は毒を流し込もうとした、殺意が無かったからな。だがお前が敵であるなら、命を狙ってくる者であるのなら手加減は知らん! くらえ! ベヌヴァイブクロウ!」



この一撃! 振動を味方につけた破壊の一撃、極めて剛の威力となる必殺のベヌヴァイブクロウ! どんな硬質であろうと、敵を粉砕し切り裂き断つ!



「グヌォオッ!?」



カインは仰け反り血を吹き出し仰け反る、首を必死に抑え、後ずさりをしながらスペリィを睨みつける。



「お前、その血の色……赤じゃない、緑色だ……やはり人間ではない、お前、魔物だな!!」



「それは違うな……俺は魔物であって魔物でない……言うなれば、魔人!」



カインが首を抑えるその手、その指一本一本が変形し『ヒル』に変形した、ヒル達は出血する血を次々に吸ってゆき、同時にそれが止血作業となる。



「なん、だ、こいつ、やばいぞ、こんな狂ったやつがアンヴィーの味方! 知らせないと、ノドカ達に!」



スペリィは焦った、流石にここまで人間離れしているクレイジーな奴は長々と1人で相手するには危険だと察知した、本能が叫ぶ、脚を動かせと、つまりは逃げろと!



「逃げることは出来ん……血を出させたのだ、この俺に、なァ」



「ぐ!?」



咄嗟に飛び上がり、走りゆくスペリィを無数の何かがおさえつける!



「魔物……!? 一体何処から……!」



昆虫型の魔物、哺乳類型の魔物、それらがスペリィに群がり、爪や棘や、牙で足止めをしてくる。そのさまを見るに、明らかにカインが魔物を操っている!



「ぐく、離れろぉ! 邪魔だ、この!」



片腕のみの爪の攻撃で払うには余る量の魔物達、すぐ背後にはカインが迫っていることに気づいたのは。



「グ……ゥ……!?」



強烈な一撃で頭部を攻撃された、そのあとであった。



「ぁ……レイカ、様……ハッ……ハッ、ハァ、ゥ」



スペリィは。気づけば地面に崩れ落ちていた、地面に密接した頭部から霞んだ景色で、カインとアンヴィーが去っていくのが目に見えた。レイカが与えた使命が果たせなかった実感が心の中に認識でき、ピクリとも動かない体で、どうしようもなかった。



「ウ、ぅ……どおし、て……レイカ、様、たすけて……ゥ」



脳裏に故郷のことが思い浮かんだ。脳裏の中でスペリィはまた本を読んでいた。



「なんだなんだスペリィ、吠えるなよその本がなんだってんだ!?」



「これは凄い本なんだ、私この本の作者に会いたいよ!」



「何言ってんだィ、ていうかおめえ、よくそんな手で本をめくれたもんだな、ったく器用な犬だぜ」



「誰が犬だい! この爪はそれなりに器用に使いこなせば本だってめくれるっつうの、私このUツヴァイ・リピスラズリって人に絶対会うもん!」



「ハハ、よくわかんねーが嬉しそうだなおめえはいつもよ、本はひとまず置いてけ、狩りに行くぞ! ついてきな!」



「おうわかった! 私狩り好きだ、また私の活躍見とけよ、大物仕留めてやる!」



「おめー槍も握れねえのにいっちょまえに声と自信だけはありやがんな、嬉しそうによお、ワハハ!」



みんな、元気かな……。故郷に、一度くらいは帰っておくべきだった、かも。レイカ様、また私を助けて、私、レイカ様に救われてから、みんなと同じ景色が見られるようになった気がしたんだ、救われたんだ。



そして、スペリィは目を閉じ、白黒の夢の世界へと誘われていった。

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