18話「レッツ・バーディ その3」
先ほど迷っていた顔とは打って変わって、自信に満ち切った表情で冷淡な声を出す。そして同時に、レジェンドの前方には氷の塊が複数出現、つららのように尖っており、それを念動力で超速射出!
「ち! 糸で壁を作る、ノドカ達は俺の後ろに隠れろ!」
「ああ!」
トウカは糸を大量放出し、それを瞬時に編み込み強固な壁を生成する! 氷のつららであろうと、突き刺さる瞬間に絡みつき静止する!
「全くの無駄であるが故に」
レジェンドは先を読んでいた、その氷のつららを瞬間移動させトウカの糸の壁を突き抜けさらにその先へ! 慣性はそのままにトウカのすぐ近くにつららは迫る!
「なッ……んだとォ!?」
目の前に現れたものなど避けること自体間に合うワケがなく、腹部に複数本刺さり、トウカは背後に吹き飛ぶ。
「トウカァ!」
「ぐ……あ」
ノドカはすぐさまトウカに駆け寄ろうと走り出すが、またしても。いつの間にか足元が凍っており動けない! 足元だけではない、凍りはどんどん侵食し、すねからひざ、ひざから太ももと、みるみるノドカを飲み込む!
「なん、で、奴は10メートルは離れている、なのに!」
「うああノドカが凍らされる! 止まれ、止まれって! う、く、うわ私の手まで!」
ノドカを氷から引っ張り上げようとノドカを掴むウツリの腕さえも、氷が侵食してゆく! ウツリはすぐに腕を放し、鉄の大鎌を握りしめる。
「あの男を、私が倒すしか無い!」
全速力でレジェンドへ向かうウツリ、レジェンドは相変わらず慌てる様子もなく手をゆっくりと前にかざす。
「うぁあ!?」
斬撃。レジェンドの能力のひとつ、飛ぶ斬撃。かまいたちのようなものに襲われ皮と肉を幾多もパックリ裂かれる。
斬撃にたじろぎ、後ずさりするウツリの側頭部すぐ近くの空中に、氷のつららが出現! 避ける間も無くそのまま、刺さる!
「うグァ!」
「ウツリ!!」
そのまま吹き飛び地面に倒れ、意識は無くなった。右側頭部から血が滴っている。
「お前……レジェンドだとか名乗っていたか、ウツリを傷つけたな……許さんぞ」
「フン……小悪党のようなセリフを……」
ノドカは懐からネジを取り出し、レジェンドを狙う。距離的に当たる保証も、致命傷になることも無いのは分かりきっているが……。
「この氷を、どうにかしてくれなければ困る!」
三個のネジをまとめて撃ち放つ! この攻撃にビビって氷の凍結を鈍らせられれば、脱出の機会はある!
「磁力の能力者であったな……しかし全くの無駄だ、届くことも当たることも叶わない、実力で明らかに私に敵わないゆえに」
「しまっ……た、手がかじかんで、狙いが鈍った!」
「攻撃を外した残念賞として、倒れているその者をとどめるとしよう」
斬撃の能力。空中にカマイタチを起こす能力がトウカに迫っていた。切り傷はすぐに逃げ出せば大したことない威力だが、氷のつららで負傷し動けないトウカにとってその攻撃は、嬲り殺しとなる!
「やめろ……! やめろ!!」
「その男は醜い糸で私の妖精を縛り上げてくれた……即刑に値する、ゆえにな」
表情ひとつ変えることなく、抑揚も声に現れることもなく。怒りに身を任せ、そしてとどめの攻撃をトウカにくれてやろうと瞳のみがギョロリとトウカを見つめた。
「ピギャッ!」
緊迫の空気の中に、素っ頓狂な鳴き声が空中に響く。
その声の主、不明。
「なんだ……!? どこから聞こえた声だ、今のは……!」
ノドカは辺りを見渡し、声のした辺りを視索するが何も見えない、草木と空が広がるのみ。前方にいるレジェンドも視線ひとつ動かすことなく突っ立っている。
「何も、反応する様子が無い……今の鳴き声、お前に関係あるのか、レジェンド!」
「関係は無い。今の声がなんであれ、貴様らが死にゆく結果に変わりが無いゆえに」
空間を進むカマイタチが音を立て、再びトウカに迫る。再び。
「……今の一瞬、カマイタチが止まっていたのか? 何故再び音がなった?」
疑問が生じた。今の一瞬、トウカに向かうカマイタチは一瞬消えたのだ。いや、消えていたかどうかは定かではない、しかしカマイタチの音が先ほど聞こえたということは、カマイタチは何かしらの理由で音を立てない状態になっていたと言える。あの鳴き声。あの鳴き声が何かの鍵のような気がしてノドカは思慮深く構えずには居られなかった。
「凍りつく体さえどうにかなれば! トウカ!」
「く、そ……動け、ねえ」
トウカももがいていた。負傷が大きいというのもある、が。地面を這いずる事すら出来ないほどに、押さえつけられている!
「念動力か! レジェンドが操る能力はカマイタチ、氷、物質転移、水、そして念動力もだ。ソレでトウカを押さえつけているのかッ!」
口角をぐにゃり曲げ、レジェンドは顔で答えた。こいつは冷淡に見えてひしひしと怒りをそのツラの奥に溜め込んでいるのだ、アンヴィーをとらえたこと、喉を乾かせたこと、自分を出し抜きアンヴィーを追ったこと全て!
「やめろォ!!」
叫びがこだました、その声の主はウツリ。つららをぶち込まれた側頭部を押さえながら彼女は静かに立ち上がっていた。側頭部から血は流していたが、致命傷ではない。
「ウツリ、平気なのか? 無事なんだな!?」
「ノドカ、心配かけてごめん。大丈夫! 何もかももう大丈夫!」
血の滲み出す側頭部から手を離すウツリ、血塗りの手のまま大鎌を握りしめる。その側頭部、よく見れば鉄が付着していた。ただの鉄ではない。耳を覆うように円形の鉄が2つ、両耳に装着されている!
「耳に鉄をくっつけていたか、それで私の氷を防いだか、だが無駄であるがゆえに、死ぬからだ」
レジェンドが言い切らぬうちにウツリの真上、そこに巨大な水の塊が出現し、重力のままに落ちてくる!
「水か、このッ!」
鉄の刃を伸ばし真上の水の塊を切り裂き拡散させる。しかしレジェンドはその水に氷の能力を使用!
弾けた水も全て瞬時に凍りつき落下する! その速度は重力よりも異常! 念動力によりさらなる落下速度へと、ウツリの反応速度を超えて落ちてくる!
「まずい! ウツリよけろ、向かうな!」
「大丈夫、安心して……能力は水、念動力、氷、念動力の順で使ったわけだから……氷、三番目に『鳴いた』子を狙えば良いんだ、そこッ!」
「ギピィァ!!」
瞬間。ウツリに覆い被さったのは大量の水だった。氷の能力は解けて、いや溶けている! ウツリはレジェンドの能力において何かしらの確信を得ている!
「俺を蝕んでいた氷もみるみる溶けていく……ウツリ、一体何を!?」
「私の耳に付いたコレ、無意識のうちに装備していたんだけど、凄く良く耳が聞こえるんだ!」
「耳……聴力が高くなっているのか、ウツリ!」
ノドカは溶け切った氷から解放され、自由の身になった喜びもつかの間。ウツリの『新たな力』に驚きを隠せなかった。
少し前、ウツリが暴走したことがあった。鉄の能力を限界限度にまで使い切る殺人形態『メタル・オブ・ノムシグル』である。ソイツは『聴力』を最大限に活かし確実即死級の一撃を放つ。聴力。ソレを今ウツリは利用して戦っている!
「あの暴走のときの力を、意のままにしている……ウツリは、成長しているんだ……!」
トウカを抱き起こし、ノドカはウツリを見つめる。一層強くなったウツリを。
「テツ……鉄の能力で、何故私の能力の虚を突けたのだ、なぜゆえに……!」
レジェンドはここにきて初めて憤怒の表情に変わった、いや焦りか。むしろ後悔。こいつらを相手せずアンヴィーを追いかけて守っているべきだったという。ウツリという能力者をさらなる段階へ飛躍させてしまったという。
「しかし、迷っている暇は無い……!決断は済ませた、鉄の能力者よ」
「なんだい!」
「貴様は音を頼りに私の能力を察しているのは理解した、そのタネを私に聞こえるよう口走ったことを後悔するがよい……」
その言葉の次に、ウツリへ向かって空間を這うカマイタチが迫る! 驚くべきは、空間に複数のカマイタチが同時に発生している! 威力が分散しているということは攻撃的に考えると脅威ではないが、レジェンドが狙っているのは音である。
「く、こうもうるさいと……私の聴力は……!」
「ジャミングというものだ。お前は音を頼りにしなければ私に決定打を与えることは、できない」
そう言うとレジェンドの体はみるみると透けてゆき、完全に透明となった。物を透明にする能力。ここにきてまたしてもレジェンドの新たな能力が判明した!
「ウツリまずいぜ! レジェンドは俺たちと戦う気はもう無ぇ! アンヴィーを守りに、この戦いから逃げる気だぞ!」
「わかってるよトウカさん! でも安心して、私の聴力は潰されてない。ジャミングなんて意味なしだよ!」
ウツリは確信めいたように、1点を目指し大鎌を突き出し刃を突き伸ばした。
「ギャピィ!!」
超速で伸びるその刃はまたしても、虚空の中に手ごたえある一撃を決めた! 瞬間、空間には異変が訪れる、レジェンドの透明化能力が解除され、逃げ行くレジェンドは丸見えになった。
「な……に……?」
その状況に驚き、レジェンドは一瞬歩みを止め即振り返った。同時に、レジェンドに向かって飛んでくるモノが!
「ぐおッ……!?」
鳥。黄色い体毛の鳥。決して大きくはない、手のひらにちょこんと乗せられる程度の鳥が、レジェンドへと吹き飛んで来てぶつかったのだ。
「鳥……!? ウツリは今鳥を攻撃したのだ、それでなぜレジェンドの透明化能力が無くなったんだ……!?」
「ノドカ、レジェンドはどうやら多重能力者なんてものじゃないみたいだよ」
「どういうことだ? 付いていけないぞ」
「レジェンドは鳥を操っていたんだよ、それも複数。6匹かな手持ちは、ほら見て」
透明化能力は消え、レジェンドの周りには4匹の鳥が羽ばたき旋回していた。水色、紫、ピンク、白。カラフルな小さな鳥たちが。はたには青色の鳥が地面で気絶している。こいつはウツリの第一撃目を食らった鳥だ。
「鳥……!? 色は違うがどれも同じ鳥だ、本で見たことはある、あの鳥はみな『インコ』だ」
ノドカは目を疑った。そのインコ達は皆、レジェンドの意のままに飛行しているのだ。
「なぜジャミングも通用しない……!」
「私が聴いてるのは心臓の鼓動だからだよ。鳥たちも生き物なんだから鼓動音はある。そこを私は突いた」
「貴様……!」
レジェンドは言葉を失い、後ずさりし続けた。ウツリをどうにかしなければアンヴィーを救いに行くことは出来ない!
「うおおおおおお! 貴様なんぞにッ! 貴様だけはぁぁぁぁ!!」
手を前に突き出し、残る4匹全てのインコを操りウツリ1人に集中放火を決める。
カマイタチ、念動力、水、それらの攻撃を瞬間移動させ即座にウツリの目の前に! 4匹のインコは全て目を真っ赤に光らせ、レジェンドの総攻撃を完了した!!
「もう、見切った!」
「く!?」
ウツリの体そのものをおさえつける念動力。ウツリは既にどの鳥がどの能力を使えるかは覚えている。能力を扱う瞬間にインコの心拍数や呼吸には変動が起こる。既にウツリはそれを見切って避け、念動力に捕まらなかったということ!
「全ての鳥を私に向かわせたことは、まちがいだ。それ以上に……あんな悪者の味方をすることは、あんたのもっとまちがいだぁぁぁ!!」
念動力を避け動いた方向は正面! 勢いに身を任せ全速力でレジェンドとの距離を詰めながら……大鎌を振りかぶり、振り下ろす!
「ガフッ……!」
伸び続ける鉄の刃。ロングカーマーに斬りつけられ吹き飛ぶレジェンド。はるか遠くの岩石に激突して倒れた。そしてインコたちは憑き物が落ちたかのようにピィピィと鳴きながら思い思いのまま空へと消えていった。
「こいつは、インコを操る事ができる能力者だった。ということか」
ノドカはウツリの頭にポンと手を置き、安堵の笑みを浮かべた。
「そうだね、そしてインコ達は皆『能力者だった』ということだよ」
「能力者のインコって……なんでもアリだなおい」
トウカも脚の怪我を庇いながらウツリに歩み寄る。
レジェンド・レジ・エンド
能力名『レッツ・バーディ』
鳥類の中でも『インコ』のみを意のままに操る能力。他の鳥類は操れない。インコのみ。オウムもダメ。
範囲的に30m圏内のインコを操る事が可能、かなり精密に動いてくれるし、同時に数体のインコを操る事も可能。
レジェンドは世界を練り歩き『能力を持つインコ』を探し出し6匹、持ち歩いている。




