12話「クランクハイト症候群 その3」
「ひぃ!」
次に鳴り響くは地面にネジが被弾する音、ノドカは容赦しないようだ。
「気になるとすれば……一体お前の病気能力……どうやって俺たちに伝染しているのか。発動条件はなんなんだ、ということだな」
「し、視線だぜ、目と目が合ったその瞬間、俺の能力は発動し、人や動物に病気は伝染る。俺が過去患った病気を思い出しながら、そいつの目を見る、目が合うと、そいつは一転病気の体だ……ぜ」
「急に喋り出したな、なるほど視線を通して相手に病気を伝えるのかすごいな。そういえばレイカさんも、視線を通して物を発火させる能力をもっていた、それと同じような発動条件か」
ノドカは関心しつつ地面に落ちたネジを拾いながらザリングの能力を理解した。
なんとも恐ろしい能力だ、思わず目を見たらその瞬間終わりか。
「ノドカよぉ、俺はお前とも一回は目が合ってるんだぜ、俺が多くを語るのは勝ちだからだ! 俺の勝ちだからこそネタバレだぜ、お前の負けだ、すでに病気は……伝染してある!」
「なん……」
そのザリングの勝利の雄叫び、ソレと共に、ノドカの体から一気に力が抜ける。
恐ろしいことに体に力が入らず、手足の先がびりびりと痺れ、ただただ立っていられない、呼吸も苦しくなってきたし、腕もロクに上がらない。
ネジをポケットから取り出す、それが超難問なほどノドカの体はそういう病気に犯された。
「19歳のときだ……ギランバレー症候群という病気を患った……! 全く力が入らなくなる病気だ……じんじんと痺れる手足にむかつきを覚えながらずぅっと床に伏せてたのを覚えてるぜ……俺は思うね、過去の苦しい病気達は、俺を強くする為に現れたイベントだったんだってなぁ! 24歳の今年、彼女は居ねーが能力はあの女から貰った、この能力は、俺を人間的に押し上げてくれた!」
「ぐぅ……やめろ、治せ……呼吸が、ままならない……力が、入らな、い」
「うるせーぞ既に負けた雑魚が! いいか、俺は普通なんだよ常識なんだよ、普通の人間は異能の力を手にした時、喜ぶぜ! 自分に現れた能力を愛するぜ、それが普通なんだ、元の、能力の無い生活に戻るなんて普通は望まねぇ、お前らが神だって呼んでるあいつはよ、本当に神だと思うぜ。俺達みたいに、恵まれねぇ救われねぇ人間に救済を与えて、いるぜ!」
「違う、お前は……現実に対応出来なかっただけだ……非現実に溺れている、だけ。だから動物にも手をかける、自分さえよければ……そういう人間だ、お前にも町があったんだろう、親が居たろう、それを捨ててお前は逃げたんだ……」
「なにをう? 煽ってんのか?」
「……お前はまだマシ、だ、過去を思い出して人に病気をうつせるからな、だがウツリは、その神のせいで、思い出せるはずの過去を失った、苦しんだ」
「おーん? 遺言かそれは、体に力が入らないからって口は達者に動かしやがるなぁ。さて、俺も長々と説教を聞いてやるつもりはない、トドメ刺すぜ、お前ら三人全員に」
そう言うとザリングは腰にかけてあったポーチのようなものを開け、中から袋を取り出す。
何か音がしているその袋、とても耳障りな音。
「俺は人を直接殺めるのは怖ぇ、そして間接的に殺せる銃も持ってない、のでぇ」
ザリングはおもむろにその袋を開封する! 中から現れたのは、無数の虫、大きな羽虫だ!
ノドカは目を凝らしてそれらをよーく見る、その正体は、蜂! 無数の蜂がザリングから放たれた!
「ひひひ、俺の体は防虫加工、虫はよりつかねぇ! そしてそしてぇ、お前らには高熱、ギランバレー症候群だけじゃねぇ、もう一種類の病気を伝染しておいた……分かるかな? アナフィラキシーショック! 俺は一度、スズメバチにぶっさされた事がある、めちゃくちゃ痛かったぜ、でも経験した、俺の体は覚えてるぜ、ハチに刺されたその瞬間をな」
「アナフィラキシー……ショックだと……! 本で見た、あれか、その作られた免疫のせいで、二度目に刺されたとき、死に至る事があるという……ま、まずい!」
ザリングはその「病気」をうつしていた、それもノドカ一行全員に!
相手の手の内が分かったところで、ノドカの体は動かない、能力は発動出来たが、力は強くない。
ラッキーなことにウツリの大鎌が近くにあるが、手を目いっぱい伸ばさなければ届きはしない。
「無駄だぜノドカ何をしたって終わりだ! やれぇ蜂ども!」
「ぐ、蜂が、防虫している…ザリングを避け、こちらにやって、くる、ウツリ、の、鉄の鎌に触れなくては……攻撃、しなく、ては」
「なるほど、磁力を利用し、その鉄の鎌で何かしようってわけか! だが無駄だ、スズメバチの包囲攻撃、どんな攻撃をしようと虫は合間をくぐってやってくるぜ! 近くにはお前の仲間も居るだろォ、無茶すると巻き込んじまうぜ!」
ノドカは渾身の力で、手を伸ばす。
ウツリが手放したその大鎌、柄も刀身も全て鉄製なので、さわれさえすればノドカの磁力能力でどうにかできる。
さて飛ばすのか、振り回すのか、しかし例え一撃でザリングを殺したりできたとして、このスズメバチは攻撃をやめないだろう。
袋に閉じ込められたストレス、それが攻撃性を高めている、これはザリングの命令や能力ではない、スズメバチの独断。
スズメバチ達が自分たちで考え、自分たちでイラつき、自分たちで攻撃しているのだ。
「うぅ……!」
ノドカの手はウツリの大鎌に触れた!
すかさず磁力を送り込む、その力は決して強くはない、息苦しさ、力の入らない手足、その状態では磁力パワーも弱まっているというもの。
「本で知っている、彼ら蜂の、弱点は知っている……! 虫や動物には、苦手な、音がある……人間には耐え切れる程の音……だがこの蜂にとっては肉体的苦痛を及ぼす……攻撃なんてしてる程の悠長さも無くなるほどに……」
ノドカは、鉄に磁力を起こすそのパワー、それを「低周波」として発動させていた。
磁力エネルギーが鉄を流れるその微々たる振動を、絶え間ない音として利用したのだ。
蜂にとって苦しみ、脱力感を覚えるこの音は、彼らの攻撃を、離散退散という形で幕を閉じさせた。
「なんだとォ~! 蜂が、蜂が去る! おいせっかく集めた蜂だぞ、畜生どこ行きやがるんだ~!」
「蜂がどこに逃げて行くのか、それは分からないが、ザリング、お前の行く先は地獄だ、案内付きで丁寧に送り込んでやるぜ」
ザリングの背後、全く気がつかなかったそこには、スペリィ! 忘れてるかもしれないが彼女の能力は気配を消すこと。
いつの間にか復活していた、病み上がりだが丸腰の人間をブチ殺すには充分な体力だ、鼻水をすすりながら爪をたて、ザリングに攻撃!
「うぎゃああァァア!!」
彼の胸を切り裂いた! あいにく致命傷ではない。
スペリィは血に濡れた爪を舐めながら言葉を続ける。
「なんてな、地獄行きは言い過ぎたぜ……だが血を垂らしながら必死で町を目指すんだな、最寄りの町まで一時間徒歩コースだ。走らんかい、失血死するぞザリング・アバンチ・ナイテッド、山猫ちゃんに謝りながら駆けな」
「ぎゃあァっ、血が、うわウワアアすいませんごめんなさぁァい! 死ぬ、死んじまうよこんな血ィ! 助けて、助けてくれよおぉ」
「人にスズメバチ投げておいて命乞いかよ、イイよ、助けてやらんでもない。私の神経毒でお前の傷口を痙攣させれば止血にはなる、血液の循環が悪くなるからな。私が気になったのはお前の「俺たち」という発言だ、お前らは徒党を組んでるのか、団体か?」
「うっぐ……何人かに会ったことはあるんだ、俺と同じ、神から能力を授かった奴らを……だが、別に組織ってわけじゃねぇ、名前も知らない奴らだし、そういや、お前らが目指してるトウカとかいう奴も狙われているぜ、能力者の女になァ……性格の荒れたやべー女だ……」
なんということだろう、まだ合流できていない、恐らく単身であろうトウカは既に狙われているというのだ!
レイカの話を聞くに、彼の能力は情報伝達……戦闘特化とは思えない、これは非常に不味い。
ノドカは少しずつ回復していく体を慣らせながら、やっとのことで立ち上がる。
「まずい、な……スペリィ、ウツリ、急ごう……! 早くしないと、トウカという人が、危ない……!」
「おう、そのようだな、オラ、毒を分けてやる、傷口に塗って町を目指しな!」
スペリィは毒の塗ってある爪を一つ取り外し、ザリングに向かって投げる。
慌ててキャッチし、それを抱えザリングはヨタヨタと走りノドカ達の元から立ち去って行った。
スペリィはウツリを抱きかかえ、ふらふらと歩きノドカと共に次の町を目指す、そこに居る「トウカ」という人物に会わなければならない。
「あの異常な攻撃性をもつザリングと同じような人間だと、したら、不味い……! 女の能力者……性格も荒れ果てときたか、もしかしたらザリングよりも攻撃的かもしれない、急げ、急ぐんだ……!」
病気は少しずつ治ってはいくが、急げ、間に合わなければ神への手立てが無くなってしまう。
だがノドカはふらふらと歩きながら、一つの驚きを持っている。
ザリングは、神のことを女だと呼んだ。
神は……女なのだ。
キ ャ ラ ク タ ー 紹 介
ザリング・A・K
人に自分の体験した病気を感染す能力『クランクハイト症候群』




