11話「クランクハイト症候群 その2」
「レイカ様の話を盗み聞きとは、失礼にも程があるぞ! それにあたしら三人が能力者だって知ってるんだろ? わざわざ喧嘩を売りにくる理由もわからない、自分がぶっ殺されるビジョンも沸かないほどアホの自己中か!?」
息を荒げて前のめりになりながらザリングAKに叫びを散らすスペリィ。
「お、落ち着いてよスペリィ、なんかスペリィもヘンだよ? クールにいこうよクールに」
スペリィの腕を掴み、なんとか制止するウツリ。
どうも様子が変だ、スペリィはそりゃたしかに、少しイラつくと声を荒げることもあるが、ここまであからさまに興奮した様子は、今までに無い……!
「俺からしてみればザリングAK、お前の言ってることの方が分からない。何故その、神とやらの肩をもつ? 神のおかげで困ってる人間が多く居るんだ、それは分かっているのか?」
「おいおい兄ちゃんお前メガネの割りには理解力マイナス以下か? だぁからよ、俺は神から能力をもらって面白おかしく快適に生活できてんのよ。神が殺されでもしたら、俺の能力が無くなって、俺は晴れて哀れな一般市民に逆戻りするかもしれねぇじゃあねえか? あ?」
彼の主張は常に余すところ無く自分本位のようだ。
能力者として楽しく暮らせているんだから、それを脅かすかもしれないことはするな、そう言いたいらしい。
「スペリィどうしたの? 顔が、顔が真っ青だよ!? ノドカ、大変だよスペリィが変!」
「なんだと? まさか魔物たちの病気が伝染ったのか? しかし何故スペリィだけが……(この中で一番薄着とはいえ)」
突如スペリィは顔色が悪くなり、凄い量の汗をかいている。
息も荒いしこれは、病気だ、見ればすぐ分かるが、遂には立っていられなくなったらしい。
「おーんおいおい何ハテナマークしてんだメガネ野郎よォ、ちょっと考えればわからねぇ? 俺の能力が既にお前らに牙を向けている、とかよ~、俺はその昔40度の高熱で寝込んだ事があるぜ”顔が真っ青で冷や汗だくになって動けないくらいの苦しみ”だったぜ、しかも吐きまくったな、13歳の時の話だぜ」
「なんだ? また過去の話か……なぜお前の病気がスペリィと一致している。何をした? 病気にさせる能力か、いつ攻撃した? 遠距離攻撃か?」
「うぜー、俺に質問すんな、質問は相手の言葉を拘束する縄だぜ。質問するとしたら俺からだ、お前は質問すんな、まあでも教えてやる、俺の能力は「俺自身が過去に患った事のある病気を伝染す能力」だぜ、どうだ分かったか?」
ウツリは高熱でハァハァ唸ってるスペリィをひとまず近くの岩場の影にそっと寝かせておく。
そして、鎌を構えてノドカのそばに駆け寄り、やや自慢げに口を開く。
「ノドカ、こいつ頭わるいぞ! 自分の能力をあっさりばらしたんだ! あいつの能力は病気だ! 今までに見た魔物や動物達の弱りはこいつの仕業だった、こいつの病気能力に気を付けて戦えば勝てる! ねっ!?」
「いやしかしウツリ」
ウツリのやや張り上げた声に、ザリングはややにやけつつ、眉間にしわをよせつつ応える。
「分かったか? って聞いてんだろうが質問聞こえねーのかお前ら、会話してんじゃねーよ。まあそれはいいとして、俺が頭悪いとか言ったか、おん? 俺の能力が分かったところでお前らに対抗策はあんのか? 攻撃方法分かるのか? 俺が過去に患った事のある病気とか分かるのか? あ~ん?」
「あっ、そっか……分からない、なにも分からないや……」
「いやウツリ、少しだけ分かることはあるかもしれない、ザリングがわざわざ俺たちの前に現れたということ。何か病気を伝染すなにかがあるはずだ、そこを分かれば……」
「くどいよ、あいつの能力は病気! ならば直接攻撃の能力ではない! だったら私の能力で、病気にされる前にぶっとばす!」
ウツリの能力、それは手に持つ大鎌! ウツリの能力は鉄を生成し形成する、その能力で作られたのがこの大鎌。驚くべきはその刀身! ウツリが力を込めることでその刀身は伸びる、変幻自在!
「うおわぁぁあ! 急になんだやめろ!」
「急にしかけてきたのはお前だろ!」
ウツリの容赦ない攻撃を跳ねて避けるザリングだが、反応が遅れて避けきれず脚に一撃。無論殺すつもりなど一切ないウツリ、優しめの斬撃で血を噴き出すザリング。バランスを崩し地面にこけた。
「ぎゃあぁあ! 痛ぇぇ、血だ、血が出たぁうわあァァ!」
「な、なんだこいつ一体、そ、そんなに痛かったか?」
「そうだよ痛ェ~よ! 鬼か、心が痛まねーのか人を傷つけてよ。ひでぇ、スネを裂かれたもんで、もうしばらく正常に歩けねぇ、お前のせいで俺は地面を引きずってこれから歩くハメになったんだぞ!」
「う、う、なんだよ自分が攻撃されたときだけ! そっちが先に仕掛けたくせに! な、なぁノドカ、私悪くないよな? せ、せいとうぼうえいだよな?」
「大丈夫、大丈夫だから安心しろ、あまり奴の話を聞きすぎるな。罪悪感を持たせるのがうまいらしい、いや被害者のマネかな、だがこれでどちらが優勢なのか、分かってくれたか。俺たちも会うべき人が居るし、暇ではないんだ」
うろたえるウツリを優しくなだめつつ、ザリングに目を合わせ、戦いに終止符を……という魂胆のノドカ。
争いごとなどしてる暇もないし、彼らにはれっきとした目的がある、無駄に何も考えずに歩いてるわけではない。
「スペリィが問題だな……なぁザリング、お前は病気を治すことはできるのか? そうじゃなければ困るが……」
「な、なに勝ち誇って、んだてめぇ……! 見ろよお前の連れをよォなぁ、へへ」
ノドカに重みがのしかかる、荷物ではない、ウツリだ。
ウツリが力なくノドカの体にもたれかかっていた、甘えているのではない、病気だ。
ウツリも病気を伝染されていた、一体いつの間に……なんにせよ超高熱、戦闘不能は免れない。
「ハァハァ、う、ノドカ、ごめ、ごめん……私……」
「ぐ、いつの間に病気を移したんだ!? ウツリ! あまり喋るな、ゆっくり休め、大丈夫だ、俺がやる」
「よし二人脱落かぁ、やったぜ後はてめー1人か、クク勝ったな。確かお前は磁力を使うんだっけか? 聞いていたぜ病院でよ、ええと、磁力といえばなんだ、鉄をどうにかするちからだよな。ただっぴろいこの草原、金属要素皆無だぜ……勝てると思ってんのか俺にッグペア!?」
瞬間、喋りまくるザリングの右手の指に何かが激突。
弾丸とまではいかないが、骨にヒビが入ったか、痛烈な痛み、衝撃、冷や汗ダラダラと化すザリング。
「なッ、痛ぇエ! なんだなんだ俺の指が! イテェェ、こいつネジだ! ネジをぶっ飛ばして俺の指に当てやがった!」
「おお、当たった、良かった」
これぞノドカの磁力的新技、ネジ飛ばし。病院にて椅子やベッドからネジを一部拝借してポケットに詰めていた。
まずネジを手に持ちます、次に磁力の反発の力を込めます、ネジは鉄なので反発の作用で吹き飛んで行きますという仕組み。
「命中精度に期待できない技だが、命中してくれて良かった。さて、俺はあと何本ネジを持っているだろう、ザリング、お前はあと何回今の痛みを味わうだろう、血ではなく痛みだ、命に危害は加えない、しかしな、俺たちのような一般人にとって痛みとは、戦意喪失に直結するには何の理屈も要らないほど大きなものだとは思わないか?」
どうやらノドカ、脅しているつもりらしい。
これ以上ふざけた真似をしているとお前に痛いことするぞ、ということらしいのだ。
「やめろ、やめろって分かったよ痛いんだよォ!
スネも切り裂かれて、右手もペンが握れなくなっちまった、日記も書けねぇ、思い出がつづれねぇ俺は一生今日を思い出せなくなるんだ、酷くはねぇかよ!? ええ?」
罪悪感攻撃、しかし無二の親友ウツリを病気に犯されたとあっては、そんな人物に罪悪感など持つ必要なし。
ノドカは、必要でないことは理由がなければやらない人間、今ここで罪悪感を持つ必要は、無い。




