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1話『それは旅立ちの夜と朝 その1』

季節は冬。12月に差し掛かり、寒気と一年の終わりが近づいてやってくる今。ここは森、外の世界を照らしている日の光は、木々や林にせき止められ、この森は昼でも暗くなる。



しかし、森の中心は何故だか明るい。

この不思議な光をもたらしているのが魔物の焔か、妖怪の妖術か、螢の光かはわからないが……。


その明るいスペースの中心にある、大木が切り倒された後の丸太。そこに青年は座っていた。



「さて……もうこの森に用はないな。飽きたし」



青年はなにか用事があってこの森を訪れたのだろう。

その用事も済んでか済まずか”飽きた”との言葉と共にすっくと立ち上がり、辺りを見渡す。

挿絵(By みてみん)




そして、そんな青年に近づく少女が1人。軽快に近づいて来るのを見るに、同行者であろう。



「ノドカ、なんか食べ物とか見つかった?」



彼女は青年を『ノドカ』と呼んだ。この黒髪でメガネ、白無地のシャツに黒の長ズボンを着けた変哲の無い格好の青年はノドカという名のようだ。



「……食料になる木の実やキノコもあんまり無いようだな、ウツリ。この森は」



そしてノドカは少女を『ウツリ』と呼ぶ。水色に光る水晶のような髪色で、檸檬色のデニムシャツ、黒のミニスカートといった格好。そんなウツリは、やや落胆した顔を浮かべた。

挿絵(By みてみん)




「ふうん、ならこの森はさっさと抜けようか

 夜を森で過ごすのは危なっかしいしね」



「分かってる、それはそうとウツリの方は何をしてたんだ? この森に入ってからしばらく姿が見えなかったけど」



「んー、まあちょっと修行をね……この鎌の扱いにも慣れないと」



小柄な少女が修行などと似つかわしくない言葉を言いだした。そして右手にはまるで髑髏頭の死神が携えてるのがお似合い、といったような大鎌を持っている。

それより堂々と鎌を担いでいるのにまだ使い慣れていないとは何事だろうか。

もっと使いやすい武器や鈍器もあるだろうに、いや、武器を持つ必要性はどこに? などと疑問は尽きないだろう。



「まあ、無理はしないようにな? この森を抜けられるくらいの体力は温存しておけよ」



「そこは大丈夫、私はタフガイなんだから」



「ウツリがタフなのは知ってるよ、だがタフガイだとお前男だってことになるぞ」



「……うるさいなぁ、そこはどうでもいいんだよ! 私はタフ!」



そんな微笑ましいやりとりをする彼等の背後に魔物の影が……3体。

薄暗い森道を進んでいく”彼ら”の後ろから、耳に心地よくない不気味な羽音を鳴らしながら近づいてゆく……。



ノドカとウツリは、出口を目指していた。この暗い森でもうっすらと夕日が差し込むのがちらほらと見える、急がなくては暗闇の森、それを抜けても広大な草原にポツリと取り残されてしまう。

特に話に華を咲かせることもなく、足下に気を付けつつ歩いている2人。そんな2人の背後から虫の羽音が聞こえてきた、音の異常な大きさから察するに一般的な虫のサイズではないだろう。



「ウツリ気をつけろ、魔物が来てるぞ」



先に音に気付き振り向いたのはノドカだ。おおよそ60cm近くはある巨大な蜂の魔物が3匹そこには居た。

ウツリとノドカは立ち止まり、蜂の魔物の方を見て話し出す。



「すぐには襲ってこないか、まだ威嚇をしているに過ぎないな

 だが、あの耳障りで大きな羽音から察するに、ここいらは奴らのなわばりということかな」



「でもノドカ、この大きな道以外に道はないよ、ここを進むしかない」



「確かに、つまり次の行動は1択しかないわけだな」



それならばとばかりに、ウツリが蜂の魔物たちの前に出た。

大きな鎌を魔物に向け、いわゆる戦闘体勢というやつに入る。

一方で蜂の魔物たちも「なんだおまえ、やるのか」とばかりに羽音をより一層大きく立て威嚇する。



「さぁ、かかってこい!」



一歩も退かぬウツリの態度に蜂の魔物たちは「そうか、それなら……」とでも言うように一拍の間をあける。

そして先ほどまで固まって飛んでいた三匹はそれぞれバラバラになり、大きなトライアングルを描くような形になった、これが彼らの本格的"戦闘体勢"だろう。

この戦法から名付けられる彼ら魔物の名は”トライアングルビー”といったところだろうか。



「なんだ、攻めてこないのか! よおし……」



蜂の魔物たちとの距離はウツリの攻撃のリーチに充分入っているようだ。

先手必勝を狙い早速攻撃に出ようとするウツリであったが、ノドカからの制止が入った。



「待てウツリ、気をつけろ!」



「なんだノドカ? 早いうちに蹴散らして森を抜けようよ、な?」



「まてまて、相手は虫の魔物、そして複数だ。やつらの昆虫独特の戦いかたに気を付けろ」



「昆虫独特の戦いかた?」



「昆虫の戦闘方法は大多数が集団戦法だ、そして奴らは蜂、一撃必殺の毒を持つ生物。要は一発当てることに重きをおいている……そして奴らの陣形を見ろ、それぞれができる限り離れている」



見れば確かに結構な距離を取って、しかし三角形のままじりじりと迫って来ている。体を大きく見せる工夫だとでも言うのか。



「あれは一網打尽にされない為だろう、ウツリ、お前が一匹を倒そうと動けば、その一匹は倒せるだろうが、他の二匹がウツリの攻撃の隙をついて毒ばりを刺しにやってくるだろう」



なんと的確で冷静な分析だろうか、しかしくどい、はやく森を抜けたいウツリにはあまりにもくどい言い回しである。



「わかった!わかったから、じゃあどうすればいいんだぁ?」



「全員まとめて仕留めろ、お前の能力なら充分にできる。虫の魔物の弱点、それは耐久力の低さだからな」



「言われなくても全員まとめて倒すっての!」



そう言うと鎌を振りかざし前方に素早く振る、すると信じられないことに鎌の刃の部分が凄い速度で伸びていくではないか。

ウツリの特殊能力、金属を生成し形成できる彼女の能力。刃物の刃の部分をすごく伸ばしてあやつれるといった代物なのだ。そのような戦闘スキルが無ければそもそもこんな化け物蜂と出くわすような森を訪れるわけは無いのだから、力を持っているのは当然と言えるが。

そのままバッサリと3匹の蜂を切り倒す。ここまではノドカの指示通り……だが、あまりにも鎌の刃の

範囲を広くしたため、辺りの木々も切り倒してしまい、悲鳴をあげた木々の枝や固い実が落下してきた。



「しまった!」



「いかん、あぶない!」



するとノドカは人間とは思えない超スピードでウツリを引っ張り持ち上げ、安全な所まで疾走した。次の瞬間には遥か背後で木々達がなだれ落ちる音が聞こえ、土煙が巻き上がる。



「いやあ、すんません……」



「生きていればあんな失敗たまにはあるさ……やれ、あんまり速く走ったからなんか町の前に着いてしまったな。ここで休憩させてもらうか、ウツリもつかれてるだろう?」



「うん!まずは腹ごしらえからだな!」



そんなこんなで町に着いたノドカとウツリ。石の高い塀で囲まれた広大な敷地、町の入り口とされるところには門が付いており、近くには門番が居た。門番とやりとりをして町へ入れてもらったその町は、木造の建物が多く、食堂、宿、万屋などがあり、門の近くには旅人がひとまず置いていったものであろう馬車がいくつか置いてあり、餌をムシャムシャと咀嚼している。



「そうだな……食堂は、あっちだ」



ノドカは門番から「よくこんな夕暮れを徒歩で来たな」とか「2人だけが、馬車も兵も雇わないでよく無事だったな、魔物に襲われなかったのか? 気をつけろよ」などの言葉がやって来たが、軽く無視をして食堂へと歩き出す。腰についた茶色の巾着の小銭入れを握りしめ、そして、目線は少しばかり下に俯き、思い出す。


この旅を始めた、そのきっかけを。無邪気に笑みを浮かべる可愛らしいウツリを横目で見ながら。



「父さん、町のふもとまで買い物に行ってくるよ」



秋の暮れ、10月の末に時は遡る。冬が訪れる少し前のこの季節。じりじりとした日照りが恋しくなり、寒気に備えるそんな季節。ノドカは家の玄関で父にそう告げ、扉を開けた。



「おう、暗くならないうちに帰るんだぞ」



ここは町にある大きな図書館、遠くの町や都市からも図鑑や書籍などを取り寄せており、この町一番の知識の宝庫と言っても良い。

その図書館を経営するのがノドカの父親だ。コーヒーを飲みながら、ノドカを見送る。



「うん。あ、それと父さん、また本を入荷しておいてよ、趣味の本はもう全部読んでしまったから、読むものが無くてさ」



そう言うとノドカは外へ歩いていった。ノドカは本の虫であった、この図書館にある本をいくらか読んで、入荷が追いつかないほどぽんぽんと読破していく。



「すごいなノドカは、あの若さで本が好きとは博識になるぞ……将来は学者、先生かな? フッフ」



「あらあら、あなたったらノドカに期待しちゃって♪ 私はそれよりあの子に友達が少ないのが考え物だわ」



「大丈夫だろう、誰にだって気の合う友人はできる…恋人もな。俺だって昔はひとりぼっちの時間があったもんだ、まあ今はお前が……な」



「あなたったらっ」



照れて父親の背中をバシバシと叩くノドカの母親、父親もむせながらまんざらでも無いニッコリ笑みを浮かべている。



「仲がよろしいようで、なんだったら隣町まででかけてやってもいいけど……」



いつの間にやらそれを見てたノドカの視線を浴びて、ハッとたるんだ表情を直す両親。両親が口を開くより先に、ノドカはそそくさと出かけて行った。



「フッ、無邪気な息子よ…」


「あはは、あ、そうだわ、そういえばノドカったら大人の人に敬語1つも使えないのよ? 誰にでもため口で、もう16なのよ。流石にそろそろ今度叱ってやりなさいよ、あなた」



「俺がか?」



「あなたしか居ないでしょ」



~町のふもと、野菜市場~


「確か図鑑に書いてあったな……この野菜とこの野菜の茎を調合すると熱中症の特効薬に……それはそれとして味も良いと聞くし作ってみたいな、買っておくか、ん?」



自慢のメガネをクイッとやりながら、野菜を吟味するノドカ。ふと横に目をやると、青白い髪の少女がコソコソと市場に入り、真っ赤なトマトを手に取り、くすねて逃げて行った。



「あっ…」



人ごみもそこそこあった為、ノドカ以外誰も気づいていないようだ。とりあえず、盗みはいけないことなので、注意しに彼女を追いかけた。少女は草木の生い茂った地帯に逃げ込んだが、あっけなくノドカに見つかってしまう。



「だめだぞ盗んだら、返してこい」



彼女はビクッと体を震わせ、すぐ振り向きノドカを睨みつける。彼女の服装は、ぼろぼろですだれており、元の色もわからないようなこすけ色の服を着ていた。

頬や腕を見ると土汚れなどがあり、とても貧困な生活を送っているか、住む家が無いのか、それらの推測は安易にできた。



「なにさ、あんた私に指図するっていうの?」



「指図…? まあそうだな、とりあえず、売り物盗んだらダメだ。親に教えてもらわなかったのか?」



「うるさい、生きるためには仕方ないんだよ!」



すると彼女は右手を突き出し、ぐっと力を込める。

するとどうだろう、彼女の手のひらから小さな金属片が複数飛び出し、ノドカを襲うのだ。



「ぐッ……これは!?」



「私に逆らったらひどい目に遭うぞ!? ゴタク並べてないでさっさと消えろよ愚痴メガネ!」



咄嗟に腕で防御したため、頬を切る程度のケガで済んだが、彼女は明らかに異能の力を持っている、本で読み聞いたことはある、特殊能力者、異世界人。

そんな突拍子も無い話が好きで、そんな本ばかり優先して読んで来た。だが現物を見たことはない、ノドカの関心は最高潮に高まった。



「お前、今のは一体どうやったんだ? トリックには見えなかったが、もしかして、まさか、特殊能力者ってやつかお前は!」



「へ…へ? 何寄って来てんだよ! 消えろって!」



「頼む、お前に興味がある調べさせてくれ知りたいんだお前のことが!」



「変態!!!!」



彼女はノドカの顔面に思いっきりパンチを入れた。自慢のメガネは大破。ノドカは伊達メガネなので正直言ってメガネは必要ではないが、それはそれとして平静を取り戻したノドカは、落ち着いた口調で彼女に詰め寄る。



「お前名前は? 俺はノドカだ」



「無い……名前なんて、わかんない……」



「名前がわからない? ふむ、記憶喪失か?」



「親もわからない、きっと捨てられたんだ、私。気づいたら、ここの近くに居たんだ、頼る人も居ない、名前も住処もない私なんて、いつも虐めの対象だ! 誰も味方は居ない! 生きていく為には、盗むしかないだろ!」



「ふ~ん、そっか。で、その鉄くず飛ばす能力はいつどこで手に入れたんだ?」



「知るか! 気づいたら使えたんだよ! もういい! 邪魔だから帰れ!」



「俺の家にくるか?」



「え?」



「いや、住む宿と食べる飯、それがなんとかなればいいんだろう? 俺としては、君を手放したくないし、そばに居てほしい、もっとよく知りたい。どうだ? いいか?」



ノドカの意外な提案に、困惑を隠しきれない彼女であったが、良い条件ではある。ノドカのまるでプロポーズのような言葉に引いたが、無言でこくっと頷いて見せた。



「それはよかった、いろいろ話を聞かせてくれ。俺は久しぶりだよ、こうやって他人に興味を持つって事はさ、一緒に来てくれ、帰るぞ」



「はは、それはよかった……あ、メガネ……割って悪かったな」



「気にするな、替えはいくらでもあるしな」



そんなこんなで突然の出会いを果たしたこの二人。いきなり同居人になるなんて、進展の速さったらすごい(ちなみにトマトはきちんと返しました)



「ノ、ノドカ、誰だその女の子は!?」



家に帰れば案の定、親がわたわたと慌てて声を荒げた。



「ずいぶん服が汚れてるけど、もしかしてノドカが……!?」



「ちがうよ、この子は……え~っと……友達の……

 ツ……ウツリだ、ウツリ」



「えっ……?」



「ともだち!? 母さん! 今ノドカともだちって言ったよな!?」



「ええ! ノドカ偉いじゃない! 友達作るなんて! ママうれしい!」



飛び上がってはしゃぐ両親をよそに、ノドカは彼女を自分の部屋へと連れ込んだ。部屋のベッドに腰掛け、ノドカの昼食のあまりであるパンケーキ的なものを頬張りながらウツリは口を開く。



「ウツリって……私の名前か?」



「ああ、友達なのに名前も知らないとなると面倒なことになりそうだから。嫌だったか? 別の名前にするか? ステファニーとか」



「い、いや、なんで、ウツリなんだ?」



「俺が尊敬する本の著者のU・ツヴァイ・リピスラズリから取った。博識である上、ユーモアに長けている可愛らしい文章を書く感情溢れる著者だ。ひとまずお前の本当の名前を知るまでの仮称としておこう」



「へへ、そっか。ウツリか……なあもう一回呼んでみてくれよ」



「ん……? ウツリ」



「えへへ」



「何赤くなってるんだ、お前」



「うるさいぞノドカ! 私はウツリだ! ウツリと呼ばなきゃだめだぞ!」



自分の名前など知らぬ彼女にとって、即興で作ってくれたこの”呼び名”が何より嬉しかった。そして内心、複雑な境遇である自分を、何の偏見もなく受け入れてくれたノドカがありがたかった。気のせいだとは思うが、ノドカの傍に居ると、得体のしれない安心感に包まれる感触があったのだ。

これが、ノドカとウツリの出会いだった。



1話を読んで頂き誠にありがとうございます。


この小説は『必ず完結させます』し『失踪も決してしません』のでご安心ください。

当たり前のことをわざわざ言うアホな宣言ですが、連載したからには未完となることは読者への冒涜に他ならない事は重々承知しております。ということで。

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