(未知なる世界への招待)01
僕なんて、生きていても価値のない人間だ・・・。
僕の立つその場所は手を伸ばせば届きそうな天空に限りなく近い場所にも関わらず、辺りはこれからの自身の未来を暗示しているかのように、果てしなく暗闇が支配する先の見えない世界。大都会の一角にあるビルの屋上で、僕はこれからこの先の見えない闇へ我が身を投じようとしている。
僕の育った環境は官僚一家の家庭で、常に凛とした厳格な父親の下に生まれた僕を含めた3人の兄弟は、親同様に国を代表する官僚として進む道が唯一親に認められる方法であった。
その期待に答える為に必死に勉学に励んだ僕ら兄弟は親の期待に応えるように有名な進学校へ駒を進め、年の離れた長男【古城 英樹】は一流大学へ進み、長女の【古城 秀美】は有名進学校でエリート街道を進んでいる。
高校受験で失敗しエリートのレールから外れた次男の僕は、兄弟で一番気が弱く引っ込み思案な性格もあり学校ではイジメのターゲットにされ、落ちこぼれのレッテルを貼られた僕は、とうとう家庭はおろか学校にも居場所を失った。
「今日は、特に夜風が寒いなぁ・・・。だけど、ここから飛び降りればその寒さも感じなくなるんだ・・・」
深夜のビルに吹き付ける風は僕が立っている建物を吹き飛ばしそうな勢いで襲い掛かり、バランスを崩しそうになるその強烈に吹き付ける風の音さえも、己に死ねと発しているような錯覚にさえ襲われる。
もう嫌だ・・・。
人は、学力や経歴だけで評価されるのか?
たった一度の失敗で家庭からも追い出される僕の住む世界は、例えそれが他の家庭から見れば考えられない事だとしても、帰る場所を無くした僕から見れば、それが現実だ。
他人から言われても見返す根性などない自分を含めたすべてが嫌になり、まるで吸い込まれるようにここへ辿り着いた僕は、めまいが起こりそうな高低差を感じる下界へ一瞬目を向けたがすぐに瞳を閉じ小さく呟く。
「・・・もう、楽になりたい」
・・・そしてこの夜、僕は空を舞う鳥となった。