第六話 戦闘と言うより駆除である。
ハルア達が塩と砂糖を売りに行ってから3時間程で、二人はホクホク笑顔で帰ってきた。
丁度布団の取替も終わったしミシュの身嗜みも終わっていたので良いタイミングと言える。
「御覧下さい旦那様、ご満足頂ける成果だと思います」
ハルアが差し出した契約書と金貨が入った袋、ソーマが売った時より遥かに量が多い。
「……知らない商家だな、探したのか」
「はい、旦那様が取引していた商家は論外ですので、いくつか商家や商隊を回ってきました。その中でこちらが気持ちよく商売したくなる商家を選んで交渉して売り払いました」
同行したヒュリアが少し疲れた様子で「凄かったですよ…」と呟く。
ハルアはその足で幾つかの商家や街に着ている商人、商隊を巡り、実際に塩と砂糖を見せて売り込みを行い、競売のような形式に持ち込んでその中で高値を付けた商人や交渉が上手い商人を選んで商売した。
高値を付けた商人は兎も角、交渉が上手いと思った商人とは今後も商売を続けたいと考え、定期的な購入を条件に値段を少し下げて提供。
これで次からは一定の稼ぎが生み出せる様になった。
「それと、街に滞在していた貴族様が是非買い取りたいと仰ったので、少し割安で提供致しました。良い商売の伝手になるかと思います」
「やり手だなお前…」
ちゃんと正規の値段での取引と競売状態での売上、さらに貴族への伝手の構築までこなしてきたハルアに、死んだ目を見開くソーマ。
高値で売れればと思っていたが、まさかここまでの売上と流通手段を作ってくるとは思っても居なかった。
「両親がやり手でしたので、その模倣です。とは言え、両親はやり過ぎて恨みを買っていましたが…」
苦笑するハルア、どうやらその関係で借金を背負ったらしい。
深くは触れず、良くやったと褒めて、褒美としてベッドの上に並べ直した下着類を見せる。
「ミシュやヒュリアが身につけている下着と衣類だ。俺の国製で性能は下手な鎧や魔法具より強度が高い」
サイズを確かめて選べと告げて、後をミシュとヒュリアに任せる。
窓際の椅子に座って、ワイワイ楽しそうなミシュとヒュリア、戸惑うハルアを眺める。
傍から見れば、楽しそうに衣類を選ぶ女子学生という光景だ。
実際ミシュは数えで16歳、ヒュリアとハルアは15歳だという。
年下と同い年であの格差か…と考えた瞬間、ミシュとヒュリアがジロリとソーマを睨む。
なんでこういう時は鋭いのかとソーマはそっと視線を逸らす。
「ハルアの胸が好きなご主人様ー、スポーツブラは一番大きいのなら入るみたいだよー」
「大きなハルアの胸が好きなマスター、なんとなくですがぶらじゃーの方の付け方が分かって来ました」
「あ、あの、私の胸がお好きでしたら、いつでもご自由に…あと、この下着は素晴らしいです、胸が痛くありません!」
刺々しい言葉のミシュとヒュリア、真っ赤になって恥ずかしそうだが、下着の効果に喜びを弾ませるハルア、ぷるんぷるん。
何せこの世界の下着は、紐パン風の皮か麻のパンツ、ブラジャーという物は無く、さらしのような布を巻くか、ビキニアーマーのブラ部分のような硬い皮か麻の物しか無い。
ノーブラが基本なので、女性は擦れて大変らしく、女性冒険者は革製の胸当てを服の下に付けているのが一般的。
とは言えこれは苦しいし硬いので、肌触りが良くて柔らかい上にボッチが擦れるのを防いでくれるブラジャーやスポーツブラは画期的なのだろう。
下着も肌触りが良い上に、生理用品というこの時代の女性が血眼になって求める物まで存在している。
「サイズが合えばこれも売れるか…」
「売れるなんて話ではありません、貴族だって欲しがりますよ!」
ブラジャーの付け心地を確かめているハルアの熱弁に、やっぱり売れるのかと納得するソーマ。
他に売れそうな物と言えば、インスタント食品全般、鍋や包丁などのキッチン用品、大工道具に資材。
それと大量生産のインテリアや食器類。
「これらも売れると思うか、ハルア」
テーブルの上に並べてみるのはお菓子や小物類、石鹸や食器類などのホームセンターで売られている品々だ。
「あ、私このお菓子好きー、ちよこれいとだっけ」
「ヒュリアはこのせんべえと言う焼き菓子が好きですね」
「綺麗な食器ですね…しかもどれも作りが均一…旦那様の国の生産性の高さには驚くばかりです」
早速お菓子に目が行くミシュとヒュリア、逆に食器やインテリア小物へ目が向くハルア。
全員下着姿なので非常に眼福なのだが、相変わらずソーマの目は死んでいた、ハイライトさん帰ってきて。
「いくつかサンプルとして取引したい商家に持っていけ、数が必要ならその都度相談してくれれば良い」
いくら魔力で何個でも出せるとは言え、取り出す度に魔力を消費するので無限にとは言えない。
一応魔力は休憩したり瞑想したり寝たりで回復するが、正確な魔力の数値が分からないので安請け合いは出来ない。
今現在、魔力の消費が激しい大工道具や資材などの大きな物や複雑な物を大量に出すと魔力切れになるレベル。
パワーレベリングによるレベルアップで魔力が大幅に増えた今は良いが、この世界に送られてきた時は大変だった。
魔力も一般人並しかなくて、出せる品物も水や携帯食品程度。
ドラム缶風呂や噴霧器なんて出せる訳がなく、最初は苦労した物だ。
その中で、魔物や盗賊を殺すことで魔力と言う名の経験値を獲得してレベルアップ出来る事を体感。
普通の冒険者はやらない、群棲魔物を殲滅するパワーレベリングの開始である。
この世界の最弱の魔物であるシーフラビット、見た目ウサギだが角が2本生えてて縄張り意識が強くて畑を荒らすわ人に襲いかかるわという凶暴な大型のウサギ、棍棒があれば退治出来るレベルだが、このシーフラビットですら村人が一生で10匹も倒せば多い方なのである。
逆に猟師など獲物として狩る人は村人なのに冒険者並に強かったりする。
では毎日何百匹ものギガントターマイトや群れのロックシープ、山間部に住む羊みたいな魔物なんかを狩ったらどうなるか。
半年足らずで上級冒険者の仲間入りである。
駆除剤や罠、毒餌などで効率的に狩る事が出来、さらに魔力に余裕があれば食料やキャンプ道具などをその場で調達出来るソーマだからこそ出来た偉業だ。
とは言え、便利な道具があっても戦うのは基本ソーマ。
その辺の武器より頑丈で切れ味の良い、ホームセンターの鉈や斧、鋏や鋸を武器に戦い、場合によっては資材を加工して槍や弓を作ったりして対応してきた。
森の死神、ブラッドウルフを殺した時は、大量の刃物と資材で罠を作って弱らせ、首を切り落として勝利した。
死神と言われるだけあって、この辺りで地竜に次いで危険とされる魔物であり、ブラッドウルフを倒せる冒険者なんて各国に数人居るか居ないかと言われている。
そんなブラッドウルフを殺したソーマを騙して報奨金をポッケナイナイしたのだから、ある意味凄い度胸のクズ受付である。
「旦那様、こちらのグラスなどは貴族の方に高く売れると思います」
ワイングラスやタンブラーグラスなどを丁寧に扱い、装飾も見事ですと感嘆しているハルア。
ソーマには言えなかった、その大事に扱っているグラスが500円もしない、こちらの世界で銅貨10枚程で買える品物だなんて。
因みにこの世界、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨一枚である。
銀貨一枚が一万円の価値に近いらしく、金貨なら百万の価値となる。
金貨以上になると延べ棒状の棒貨に変わる。
「ご主人様、カレーとかは売らないの?」
爆発的人気になると思うけどと勝手にチョコを食べながら問い掛けてくるミシュ、今だに下着姿のままである、サービス精神旺盛な子だ。
「あれは調理に手順があるからな、間違った食べ方されて腹壊したとか文句言われても困るから売らん」
下手に売るとミシュみたいなカレー狂いを生み出しそうだし、とは言わない。
ミシュはカレーが好き過ぎて3食+おやつもレトルトカレーでも良いと明言する程だ。
流石にカレーだけじゃソーマが飽きるので、他のレトルト食品、親子丼やビーフシチュー、中華丼など色々食べさせたが、やはり最初に食べたカレーのインパクトが忘れられないのか、カレーに拘る。
ソーマが出せるカレーのレトルトをほぼ全種食べ尽くしたのは伊達ではない、だいたい30種類は食べている。
レトルト食品を大量に扱っているお店で良かったと、ソーマは思った。
「では旦那様、行ってまいります」
「あぁ、気をつけてな」
今日の分の塩と砂糖、それに貴族や金持ち向けのグラス類を台車に乗せて、宿の前で別れるハルアとミシュ。
ハルアの手伝いとして交代でついて行っており、今日はヒュリアがソーマと一緒に冒険者家業である。
二人を見送ると、冒険者ギルドへ直行。
「ギガントターマイトの目撃は無しか…」
「マスター、本当にギガントターマイトが好きですね」
「好きな訳あるか、(経験値的な)稼ぎにならなきゃ見たくもない」
「まぁ、確かに(巣一つで銀貨50枚の)稼ぎが無ければ相手したくないですね」
微妙にズレた認識の会話をしつつ今日の仕事を探す二人。
ギガントターマイト絶対殲滅するマンとして悪名が広まっているソーマと、ナンパしてきた冒険者の腕を圧し折った事で有名なヒュリアの二人組。
皆関わりたくないとばかりに近寄らない。
それを良い状態だと内心ほくそ笑むソーマ、前の糞ギルドでは下手に馴れ合おうとして色々被害を受けたから積極的に関わる気が無いのだ。
ヒュリアもそれを良く知っているし、あの糞ギルド経験者なのでソーマに習え状態である。
「ん…ブラッドベアの目撃情報…討伐者には金貨6枚、詳細な情報には銀貨8枚か…」
「この周辺でも出るようになりましたか…」
ブラッドベア、ブラッドウルフと並ぶ上位魔物であり、森の荒神と言われる巨大な熊形の魔物だ。
ブラッドウルフのように広範囲には出没しないが、一度縄張りを作られると危険極まりない。
素早さと殺傷力のブラッドウルフ、体力とパワーのブラッドベアとして冒険者に恐れられている。
情報料が指定されているのは、下手な冒険者では狩れないと分かっているからだ。
討伐出来れば金貨6枚も出す魔物だ、仕方がない事だろう。
詳細な情報があれば、領軍へ出動要請を出せるから情報を求めているのだろう。
「行ってみるか…久しぶりに」
「ミシュとハルアを呼び戻しますか?」
「問題ないだろう、俺とお前なら」
戦力として仲間を呼び戻すかと提案するヒュリアだが、ソーマの言葉に身体が固まる。
ソーマの無茶な発言に驚いたからではない、ソーマが自分と二人ならあのブラッドベアを倒せると確信している、つまりそれだけ自分の力を買ってくれていると言う事実。
それが、ヒュリアの冒険者としてのプライドと、女のとしての感情を最大限に刺激した。
「はい、ヒュリアとマスターなら、敵ではありません」
腰の愛剣を撫でならが笑うヒュリアは、間違いなく美少女だった。
「さて、後は待つだけだな…」
ギルドで依頼を受け、最初の目撃情報があった森へやってきたソーマとヒュリア。
先ずソーマは森の手前でシーフラビットや、たまたまそこに居たフォレストベアを狩ると、首を切り落として高めに木に括り付けた。
血抜きにも見えるが、目的はそちらではない。
ブラッドベアとブラッドウルフ、別の魔物なのにブラッドという共通の名前が付いている理由。
それは、共に血の臭いに敏感であり、新鮮な血の臭いを嗅ぎ分けて襲ってくるという習性。
ブラッドウルフほど鼻は強くないが、それでも小さな森なら奥地に居ても嗅ぎ付けてくると言われている。
その習性を利用して、目撃されたブラッドベアを誘き出す作戦。
ソーマたちは脚立を出すと高い木の枝へと登り、ブラッドベアがやってくるのを待つ。
臭いに敏感なブラッドベアだ、草むらで待っていて後ろから襲ってくる可能性も高い。
だが5mを超える木の上なら周囲360度見渡せる。
暫く待つと、草むらがガサガサと揺れて複数の影が出てくる。
「シーフドッグか…餌の臭いに釣られて来たか」
この辺りに多い犬型の魔物で、現実世界で言う野良犬に近い。
主に残飯や死骸を食らう森の掃除人であり、生きている獲物は率先しては襲わない魔物でもある。
こういった魔物対策に、首を切った魔物達を高めに吊るしてある。
なんとか木の枝から吊るされたシーフラビットを取ろうとするシーフドッグを眺める二人。
なんだか気分は動物実験の様子を見守るタレントの気分だ。
一匹が飛び上がってなんとか死骸に噛みつき、骨まで砕く顎で強引に引っ張り落とす。
「マスター…」
「一匹位構わん、それにあいつらが食事すれば余計に血の匂いが広がって誘き寄せやすい」
落とした一匹に群がる複数のシーフドッグ、森の掃除人だけあって骨まで美味しそうに食べている。
が、突然一匹が顔を上げて周囲を警戒、耳を立ててキョロキョロし始める。
他のも食事をやめて周囲を警戒し始めると、慌ててその場から逃げ出していく。
「来たみたいだな…」
「はい、大きいのが来ますね…」
森の奥から、バキバキと枝葉を折りながら進んでくる巨体が見える。
フォレストベアが成人男性程度だが、明らかにそれより二回りは大きい。
やがて草むらを突き破って現れたのは、赤い毛並みの巨体、ブラッドベア。
フォレストベアより更に大きく、おまけに口も横に広く巨大。
体長3mはあるかという巨大な魔物。
そのブラッドベアは、木に吊るされた死骸を鼻で嗅ぐと、後ろ足で立ち上がり吊るされたシーフラビットを一口で丸呑みにする。
そして食事をしながらも鼻を鳴らし、ギロリとその凶暴な視線をソーマ達が居る木の方へ向けてくる。
「まぁ気付くよな…準備は良いかヒュリア」
「いつでも」
5mほどの木の上から飛び降りて着地するソーマとヒュリア。
元の世界では骨折間違い無しな高さだが、今のソーマの身体能力と頑強さにはちょっとした段差程度でしかない。
腰に差していた斧を両手にそれぞれ持ち、身構えるソーマと、片手剣とソーマに貰ったマチェットを構えるヒュリア。
そんな二人を前に、悠然とした態度で向き直り、血肉で染まった巨大な口を開くブラッドベア。
『ゴアアアアアアアア!!』
聞いた者が戦慄して動けなくなると言われるブラッドベアの咆哮。
だがソーマはどこ吹く風、ヒュリアは喉を鳴らすが身体は硬直していない。
「ブラッドウルフよりタフだが素早くない、焦らず援護しろ」
「はい、任せて下さい」
ヒュリアの返答を聞いて、両手の斧を構えて走り出すソーマ。
いきなりトップスピードで加速するソーマに、ブラッドベアは上体を起こして右足を振り上げる。
鋼鉄の鎧すら切り裂く爪と、地面を抉るパワー、当たれば致命傷どころか絶命必須の一撃。
だがその一撃を、ソーマは身体を捻りながら斧で掬い上げる様に迎え撃ち。
『ゴアアアッ!?』
手斧の刃が、手首に当たる部分に刃の根本まで突き刺さる。
腕を振り下ろすパワーと斧の切れ味を利用しての、右腕への致命傷。
しかもソーマが使う手斧は、薪割り用の手斧だ。
普通の斧より、刃から後ろが横に広がっており、薪が割れやすい構造をしている。
その為、ブラッドベアの手首はそのパワーのせいで皮一枚レベルまで裂けており、もう使い物にならない。
鋼鉄の剣でも中々切れない自慢の毛皮を突破した上に、骨まで断ち切られた、その痛みは魔物でも壮絶だろう。
だがソーマは一切躊躇も油断もしない、自由な上体の反対の斧を振り上げ、どんな生物でも脆い部分…関節を狙って振り下ろす。
『ゴアアアアアッ!!』
右腕を肘から先を切り落とされ、もがき苦しむブラッドベア。
だが流石は森の主、痛みの襲われながらも反対の腕を振り上げてソーマを狙う。
が、その振り上げた左手に突然の重みと鈍い痛み。
視線を向ければ、ヒュリアが腕へと片手剣を突き刺して自分を重りにして左手を振り下ろすのを引き止めていた。
「まだですっ!」
そして、片手剣を腕に差した勢いのまま、マチェットを逆手に持ってそれを肩に該当する部分へ突き刺す。
『ゴガアアッ!?』
肩の部分に根本まで突き刺さった、ソーマが生み出した頑丈なマチェットタイプの鉈。
本来切れ味は鉈故にそこまで高くないのだが、ここで生きてくるのが認識による概念付与。
ソーマの元の世界での鉈に認識に、多数の「女の子が武器として使った・戦いに使える・切れ味が良い」という情報が入り込み、結果ソーマが具現化したソレはバットと殴り合える頑丈さで人体を切断可能な切れ味を持つ武器へと変化して具現化してしまった。
その切れ味とヒュリアの身体能力が加わり、あっさりとブラッドベアの分厚く硬い皮と肉を貫く。
町で買った片手剣ですら突き刺さっているのだ、ソーマ製の物は根本まであっさり貫いている。
その腕に取り付いているヒュリアを噛み殺そうと巨大な口を開け首を伸ばすブラッドベアだが、ヒュリアはあっさりと武器を手放して胴体を蹴って飛び退く。
空振りした頭を戻す頃には、ソーマの3撃目が、その巨大な胴体へ叩き込まれていた。
鈍い斬撃音と共に胴体に突き刺さる手斧2本。
だがそれでもまだ死なないブラッドベアは刺さったマチェットと片手剣をそのままに左腕を振り回す。
「タフさだけはブラッドウルフ以上だな」
武器を手放し、後ろに下がるソーマ。
ブラッドウルフは鮮血をボタボタと足らしながら怒りに狂った瞳でソーマを狙う。
「お前、森の荒神とも言われてるんだってな!」
牙や爪の攻撃を避けながら、そんな事を叫ぶソーマ。
そして次の瞬間、ソーマの右手には手斧ではない、この世界では異質極まりない物体が握られていた。
その物体の一部を操作し、黒い紐が付いた物体を勢い良く引っ張ると、キュルルルという音の後に、ドルルルルルと響く、この世界ではあり得ないエンジン音。
それは、鎖鋸と呼ばれる現代の機械。
本来は林業などで使われる木工道具。
しかし、ソーマの世界の認識には、違う側面が混ざる、それは鉈やマチェットと同じイメージから来る認識。
ソレは、怪人が使い、人々を惨殺する武器。
ソレは、ゲームにおいて、神すら殺した武器。
ソレは、この世界で、人と神を殺すという概念が付与された最悪の魔剣。
「こいつが効けば、お前は間違いなく神扱いだ!」
神を殺すという概念が付いた武器、チェーンソー。
例え魔物とは言え、森の荒神として恐れられるブラッドベアも、その概念の威力からは逃れられない。
故に、分厚い毛皮は簡単に切り裂かれ、肉は抉り取られ、骨は切断される。
『ゴガガアアア…ッ!?』
今まで感じたこともない痛みとダメージに、胴体を斜めに切り裂かれたブラッドベアは目を見開いて苦痛の声を上げる。
「終わりだ」
そして、まるで咆哮を上げるかのようなエンジン音と轟かせるチェーンソーの一撃に、首を切り落とされる。
神を殺したという概念には勝てず、森の荒神、ブラッドベアは地面に沈む。
「お見事ですマスター!…しかし、凄い武器ですねそれは…咆哮を上げるだなんて、まるで伝説に聞く魔剣のようです…」
駆け寄ってくるヒュリアが、少しソーマが手にしたチェーンソーに恐れを視線を向けてくる。
それはそうだろう、森の荒神たるブラッドベアを簡単に殺したのだから。
「まぁ、伝説じゃ神すら殺したらしいからなぁ…本当かどうか知らないが」
「神を…!?本当に伝説の武器とは…流石ですマスター」
ゲームの中の話だけど、と内心苦笑いするソーマに、感動の視線を向けてくるヒュリア。
ほんとに忠犬だなぁこいつはと内心ホッコリしつつ、倒したブラッドベアを油断なく見る。
首を切り落としても動く可能性すらあるのが、ブラッドベアという魔物だ。
だが流石にチェーンソーで首と落とされたからか、完全に絶命しており、動く事は無かった。
「さて、血抜きをしてから持ち帰るか。確かブラッドベアの肉や肝は高く売れるんだったな」
「はい、肝や心臓は長寿の秘薬にも使われると言われていますね」
テキパキと血抜きの準備をする二人、3mを超える獲物はかなり大変だが、日頃から2mを超えるアルトボアなんかを狩っている二人には慣れた作業だ。
時間はかかったが作業を終え、台車と大型カートを取り出して肉や毛皮を載せる。
荒れ地なので台車でも運ぶのは大変だが、無いよりは遥かにマシだろう。
汗や返り血で臭うが、早く町に運ばないと肉が肝が腐ってしまうし、血の匂いを嗅ぎ付けて他の魔物がやってくる可能性もある。
運搬的な意味でやはりミシュとハルアが居たほうが良かったとどうでもいい事を考えながら、町へ辿り着く二人。
町の衛兵も出入りしている人々も、巨大な魔物を狩ってきたソーマとヒュリアに目を丸くして驚いている。
利便性などの理由で入り口近くにあるギルドへ運び込むと、ギルド内が大騒ぎ。
登録冒険者総出の依頼になる可能性か、領軍が出る可能性もあったブラッドベアを、たった二人で討伐してきたのだから。
「報酬の用意よろしく、買い取り所に運んで来るから」
「わ、分かりましたっ」
受付嬢に証拠のブラッドベアの頭を見せながらの言葉、頭だけで大人の胴体位ある物を見せられて真っ青になる受付嬢。
ギルド内に居た冒険者達も、初めて見るのだろう、ブラッドベアの巨大さと凶悪さに唖然としている。
ギルドの隣に併設された買い取り所、討伐した魔物や動物を買い取り・解体などをしてくれる場所だ。
こちらもブラッドベアの持ち込みに大騒ぎになっており、何せ普段は大きくてもアルトボアやフォレストベアが良い所である。
解体担当が「フォレストベアと同じで良いのかな…」と自信なさげに呟いている、解体経験が無いのだろう。
解体と買い取り査定に時間がかかると言われ、後で取りに来る事にしたソーマとヒュリア。
「今夜は熊鍋だな」
「ナベ…ですか、興味あります」
煮込み料理はあっても鍋という概念が無いのか、夕飯に多大な興味を示すヒュリア。
そんな彼女に苦笑して、鍋用の野菜を買いに市場へ来ると、目を疑う光景が広がっていた。
「だ、旦那様…!」
「ご主人様ぁ…!」
「どういう状況だこれ…」
なんと、ハルアとミシュが、衛兵に囲まれていた。
あまりの光景に死んだ目が遠くを見るソーマであった。




