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88の星座精鋭(メテオ・プラネット)  作者: 果実夢想
Prologue――2人の因果
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流星~その名は絶望~

「にぃ! はやく、はやくこっちです!」


 少女が俺の腕を引き、はしゃいだような声をあげる。

 周りには多数の緑が生い茂っていて、歩きにくい道のりを俺たちは歩いていた。

 尚、少女だけは我慢できないとばかりに、今すぐにでも駆け出してしまいそうだったが。


 家からここまでに、数十分は経っただろうか。

 それでもまだ、目的地には到着していない。


「ハル、あんまり急ぐと危ないぞ」


「だいじょぶです! それよりほら、にぃも急いでください!」


 のんびりと歩く俺の腕を、少女は引っ張って早くするようにと急かしてくる。

 実のところ、どこに向かっているのか、何をしに行くのかすら俺は知らない。

 ただ、見せたいものがあると言って、ここまで連れて来られてしまったのだ。


「まだ着かないのか?」


「もうちょっとで――あっ、見えてきましたっ!」


 そこは、街の中に切り立つ崖だった。崖の上は、開けた草原になっている。

 今は夜中だ。下を見下ろせば、家の灯りや電飾などで綺麗な街が見渡せる。

 しかし――俺たちの目線は、下ではなく上に向けられていた。


 そう、空だ。

 夜空には、満天の星が美しく瞬いている。ここからだと、綺麗な月も全貌を(あらわ)にしていて――まさに、絶景だった。


「もしかして、これを見せるために?」


「はいっ! どうですか、綺麗ですよね」


「ああ……そうだな」


 正直、今まで星なんかに興味はなかった。

 だけど、こんな絶景を見せられてしまったら、そんなことも言えなくなってくる。

 本当に綺麗な、星空だった。


「……あ」


 不意に、どっちからともなく声が漏れた。

 さっきまで、ただの星を見ていたはずなのに。

 突然、一筋の光が空を流れていったのだ。


「にぃ! な、流れ星ですよっ! 何を願ったらいいんでしょう!?」


「お、落ち着け。とりあえず願い事を三回だな……ッ」


 流れ星を見たのは初めてで、俺たちはつい慌ててしまう。

 いきなり願い事だなんて思いつくはずもなくて、何も願うことができなかった。

 そうこうしているうちに、流れ星は消え――。


「……あれ?」


 ――なかった。

 それどころかむしろ、徐々に大きくなっている気がする。


「……なあ。あれ、だんだん近づいてきてないか?」


 そう。流れ星は、大きくなっているのではない。

 ――物凄い速度で、ここに向かっているのだ。

 それはさながら、流れ星というよりは隕石のように。


「そ、そんなわけ――っ」


 未だ信じられないという様子で、少女は上を見上げたまま立ち尽くす。

 その脚は、生まれたての小鹿みたいに小刻みに震えていた。

 怖くて当然だ。だから、俺は少女の腕を掴んで叫ぶ。


「おい、危ないって! 早く離れるぞ!」


 しかし、少女は何も答えない。脚が震えるだけでその場から動こうとせず、視点は真っ直ぐ流星いんせきに注がれている。


 昔から星が好きだった少女は、よほどショックだったのだろうか。

 それとも、何か別の理由があって動けないのだろうか。


 残念ながら、そんなことを考えている余裕などうになかった。


「おい、ハル――」


 名前を呼びながら、少女の華奢な腕を引っ張る。

 猛烈に、嫌な予感がした。


 早く逃げないと、大変なことになってしまう。取り返しのつかない運命を辿ってしまう。

 何故だかは分からないが、そんな不確かな未来に対する危惧を抱いていた。

 だから、無理矢理にでも逃げようと、力ずくで少女の腕を引っ張ったのだ。


 だが――俺のそんな行動は、突如聞こえてきた轟音によって制止された。


 ゴゴゴゴゴ……と、耳を劈くような噪音そうおん

 思わず足を止め、ふと上を見る。

 先ほどの流星いんせきが、もうすぐそこまで接近していた。


 しかも、驚くべきなのはそれだけじゃなくて。

 落ちてきた星は、一つや二つどころか複数存在していたのだ。

 まるで、複数の星が連なった星座のように。

 まるで、複数の星が落下する流星群のように。


「……な……ぁ……ッ」


 驚愕と恐怖が心の中を支配し、俺は声にならない声を漏らす。

 足が竦んで、その場から動くことができなくなってしまう。


 一秒……十秒……どれくらいの時間が経ったのかは分からないが、俺には一瞬に感じられた。

 徐々に、その絶望いんせきは迫ってきて――。


 俺――狭雲さくも吹雪ふぶきと、妹――狭雲さくも小春こはるは。

 あっけないほどに、あっさりと。

 その全ての星に、直撃した。

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