はっきりとした切片
天蓋を支える巨大な亀ほどに
背中は強くないから
きっと全てを背負うなんて
誰にも出来はしないから
水溜りに映る
夕焼け雲と空ほどに
溶けあえない
そんな諦めばかりだけれど
空が荒れ
暴風雨があたり一面を
爽快に横殴りすれば
わたしの甘さも吹き飛ばすみたいで
今なら何だか
あなたへ届きそう
何だか
わくわくしてしまう
低気圧の肌寒さ
騒めく大気のアンバランス
強まる風の唸り声
……
でも去ってしまった
風は静まり
雨は止み
どんよりとした
嵐の残滓が
漂っているばかり
また届かなかった
無駄に過ごした日々の繰り返し
わたしは何のために生きるのか
あしたはまた来るだろう
そこにまた
あしたは来るだろうなんて
何時まで繰り返して
結局は終わってしまうのだろうか
人並みでありたいと願い
その遥かな高さを知り
ありふれたいと願い
その果ての無い深さを知り
わたしは
晴天の十年を生きるなら
嵐の三時間を生きたい
狂風となって
巨木を倒し
豪雨となって
大海を黒く染め
唸り怒鳴り空を支配する
大地はただ平伏して
濁流を成し
全ての屈託を押し流す
そして
晴天になれば
煌びやかな新鮮なる大気
雲の生まれる前の空
わたしのいなくなった後の空に
新しい風が吹くだろう
それは
晴ればかりの空からの
甘く爽やかな
詩の魂の風
魅入られたなら
孤独な白さを知るだろう
言葉の奔流を感じ
美しさだけを追うだろう
それは
格別な痺れを伴い
日常からの乖離をもたらす
真っ青な天の
何処までも高いところに
びょうびょうと風吹き止まず
冷たく凍えて
嘘や曖昧は死に絶えて
ただ
はっきりとした切片だけが
きらきらと陽に輝いている




