この夜は本当である
俺は世界中の女たちと
仲直りをしているのさ
遊び人の男は嘯く
(仲直りなんて
千年生きても出来やしない
だから男と女だろ)
もう後なんか何にもないんだから
好きなようにやるだけよ
流れ流れて女は言った
(ふと前を向いたら
面白き快楽が楽しくて
まだまだ
待ってる世界が新しいんだろ)
夜の底
静まり返った
家たちの横顔は
見知らぬはずの誰かの寝顔を
見ているようで
なんだか新鮮な気分で
夜の街を歩いた
でも
やっぱり失礼なようで
じっと見つめていると
気恥ずかしくなってしまう
この眠る人が
どんな生きざまを背負って
いるのか知らない
しかし
男か女かどちらかで
止まっているか
流れそうなのか
流れてしまっているのか
それとも
稀に進んでいるのか
そんな戯言を
月の見えない夜に
呟いてみたら
遠く犬が啼く
悲しく夜を泣く
救急車のサイレンは赤く散らばり
青信号は雨に溶けて沁みていく
(夜道に全ての人生が落ちている)
若い男の上気した喜びが
水たまりの明るいネオンの反射になって
なりたての女のおずおずとした喜びが
静かに広がる無数の波紋になって
くたびれたおっさんの取り戻せない後悔が
ひび割れたアスファルトの蛇行する裂け目になって
崩れていくおばはんの捨てきれない女が
光の当たらない隅の暗闇に蹲り
夜よ
明日の残酷までの暫くよ
お前の深い味を嗜むには
随分と苦汁を舐めなければならない
これは、当たり前の出来事だ!
ありふれた日常だ!
時代だよ、なんて言い訳は知らず
いつも今だから
この夜は本当である
そして
朝になれば
全ては、すっかりと隠されて
「夜なんて遠い先のことさ」
なんて
明るさに甘えて
忘れたふりをしてる




