私と貴方と彼女と
目の前で1人の青年がめそめそと涙を流している。
「ねえ、どうして貴方は泣いているの?」
私は青年に訊いた。
「大切な人がいなくなってしまったんだ。」
青年はそう言って、また泣き始めてしまう。
「どこか遠くへ行ってしまったの?」
青年は「違うよ。」と答えた。
「違う人の所へ行ってしまったの?」
青年は「それも違う。」と答えた。
「解ったわ。死んでしまったのね。ご愁傷様でございます。」
私がそう言うと、青年はワッと泣き始めてしまって、手が付けられない。どうやら図星だったようだ。
「ねえ、輪廻転生という言葉を貴方は知っている?死んであの世に還った魂が、この世に何度も生まれ変わってくることを言うのよ。知っていた?」
青年は「よくは知らなかった。」と答えた。
「貴方の大切な人も、転成しているかもしれないよ。」
青年は「そうだといいけど。」と捻くれたようにそう答えた。
「貴方にそんなに想われているのだもの。きっとすぐに転成して、すぐに貴方の近くへ来ているハズよ。」
青年は「そんな訳ないじゃないか。」と答えると、またまた目にお水を溜めて流し始めてしまった。
「最近、新しい生命が産まれてくるとかはなかったの?もしくは、何か大切にしているモノはない?」
青年は「僕は犬が好きで、1匹家で飼っているよ。彼女と一緒に選んだ犬さ。すごく可愛いんだ。」と答えた。
「じゃあ、その可愛い犬に貴方の大切な彼女の霊が乗り移っているかもしれないね。」
私がそう言うと、遠くから1匹の犬が駆け寄ってきて、青年に飛びついた。
「ほら。やっぱり彼女なのよ。迎えが来たのだから、さっさと帰りなさい。」
しっしっと、猫を追い払うようにすると、青年は笑顔で犬を抱きしめ、いなくなってしまった。
「いやだわ、私も早く仕事に戻らないと。」
私はそう言うと、暗闇の中に姿を消した。