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夜半に降り出した雪は眠るように横たわる一人の女の上へ、まるで薄衣を掛けたようにうっすらと積もった。
一面の白に反射した光が彼女の黒髪を照らしている。
音すらも包み込む静かな雪の中、一人の男が近づきそのまま彼女の脇に屈み込んだ。それに合わせ装身具が冷たい音をかすかに鳴らす。
男は剣をしまうと目を閉じたままの女の息を確認し、彼女を抱え上げた。青白い頬に血の気はないが、少なくとも生きている。急がなければ――。
力強く雪を踏みしめ、男は足早に来た道を戻っていった。
「何故、こんなことを」
腕に伝わる筈の重量すら儚い彼女へ、思わず責めるような声が漏れた。
彼女は目を覚まさない。その瞳の色は窺えない。
焦燥はそのまま動かす足を速めた。
何故、此処に居るのか。何故、こんなにも軽いのか。
何故、まるで埋葬を待つ死者のように穏やかに眠っているのか。
何故、どれだけ声をかけても目覚める気配もないのか。
疑問はまるで腕の中の存在を更に不確かにしていく錯覚すら覚え、抱える両手に力が籠る。
だから、男は気づかない。
雪の温度にも、彼女が眠っていた場所に雪の跡が無いことも。
雪が、止むことなどないように勢いを烈しくしたことも。
それは、まるで、祝うように。
その再会を、寿ぐ様に。
夜に閉じた森の中、白く呪いの雪が舞う。
――――それとも、何かを嘆くように?