終
どれくらい時間が経ったのだろう。
待てとは言われたが、大人しく待っているのは心配でつらかった。
考えが頭の中でうずめき、焦りを加速させる。小花が犯人と出て行ったからには、何か策があったからだろうが、それがわからない僕は、ひたすらに心配だった。
もう待っていられない、探しに行こうと決意して、椅子から立ち上がる瞬間だった。
「泰都君、おまたせ!」
満面の笑みで彼女が現れた。僕の心配など何処吹く風、むしろ楽しいことがあったかのような、晴れ晴れとした笑顔だった。
やっぱり彼女に似合う表情はあれだな……いやいや、ストーカーはどうなった。
「泰都君、もう何も心配いらないよ」
小花は笑顔のままでそう告げる。
「気にかけてくれてたんだよね、ありがとう。でもさっき解決したから、泰都君はこのことについてもう考えなくて大丈夫だよ」
色々と思うことはあった。訊きたいこともあった。だけれども、被害者であるところの小花がそう言うのだ。
僕には、それならいいんだ、と言う他になかった。それに、自らの誓いも破らずにすむ。
それから僕らは、もう一度、先ほどと同じ注文をして、他愛のない話をするのだった。
翌日、月曜日。
僕は小花に言われて、校門で彼女を待っている。少なくとも事件が解決したのは事実のようで、僕も小花も何を気にするともなく一日をすごした。
じっとりと暑い日は続くが、この日は、動かない限りはまだましな一日だった。
これから迎える本格的な夏。
暑さには参るが、僕にさえ、確かに何かを期待させるものだった。先のことに思いを馳せていると、ふいに名前を呼ばれた。
「結城、泰都君、だよね」
「え、はい、そうですが……」
すらりとした体躯、長い髪。緑色のリボンを着けたこの人を、僕は見たことがある。何故僕の名前を知っているのだろうと、僕が驚いている姿を横目に、ふっと笑った後、彼女は言った。
「……なるほど、小花君の言った通りだ」
その言葉の意味もわからなかったのだが、それを尋ねる前に彼女は続ける。
「実は、小花君を介して、君のことを教えてもらったんだよ。君が私と同じ道を帰るのを見たことがあってね。良かったら一緒に帰らない?」
僕は戸惑っていたが、そこに小花がやってきた。
「泰都君、お待たせ! あ、香菜実先輩も! 一緒に帰りましょうよ!」
こうして、僕ら三人は、下校を共にするようになったのだ。