序
これは初めて書いた小説です。
稚拙な部分もあるでしょうが、お付き合いいただければ幸いです。
小分けにしたいので、連載といたしました。
短い物語ですので読んでいただければ幸いです。
気が利くね、だとか、そんなことによく気がついたな、だとか。
そういった言葉は、よく耳にした言葉だ。
そう言われるようになったのがいつ頃だったか、それは覚えていないが、僕は自他共に認める、色んなことに気がつく人、だった。
例えば穏便でない空気に素早く気がつき、足早にその場を離れたり、例えば誰かのなくし物を、傍目で見た光景に捉えていたり、例えば何かしらの問題の糸口になるようなことを言い得てみたり。
気がつく、といった点で、僕は人より秀でていた。
だけれど、今の僕は、この体質に有難味など感じてはいない。
中学二年の頃だ。
その頃の僕は、自分の特技を自慢だとすら思っていた。なくし物がある度に助言をしたりしていた。
ある日に、生徒の一人が財布をなくしたと言う。
僕には見覚えがあった。
それは教室の後ろ、ロッカーと壁の隙間に落ちていた。なくした財布の見た目を聞いたときに思い出したのだ。
僕は、脳という入れ物の中に、映像や感情を雑多に保存する。そして、何かしらの情報を耳にしたとき、その入れ物の中を探してみる。探した結果、その物品はどこどこで見たものだとか、今の雰囲気は以前に痛い思いをしたものだなどを見つけ、結論を出すのだ。
それが仇になった。
「結城、前から思ってたけど、なんでそんなになくなった物の場所がわかるんだよ! お前が隠してるんじゃないか!」
今思えば、そう考えられても無理はない。
当時の僕は、自分ができる精一杯をしていた。己が精神も満たされ、更にそれによって誰かが助かるなら、と。けれど違った。これは自己満足でしかなかった。どれだけ誠心誠意語ったところで、相手が重んじるのは、感情ではなく現状なのだ。
何々がなくなった、それを悉く見つける奴がいる。これは、疑うに足りる理由だろう。
誰かの為にも、自分の為にも成り得ること。けれど、解釈が違えば、ただの問題行動に成り得ること。
それを僕は、このときに知った。
そして誓うのだ。
誰かの為に、何かを成すことはしない、と。
そう、誓ったはずだった。