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黎明の光と若返った家族 異世界再誕録  作者: たま


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四話 滅びの獣と家族の円舞曲(ロンド)

数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。

拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。

四話 滅びの獣と家族の円舞曲ロンド


開拓村を飲み込もうとしていたのは、単なる魔物の群れではなかった。それは「深淵の泥」とでも呼ぶべき、実体を持たない不定形の魔力塊。森の奥底で数百年眠っていた怨念が、何らかの拍子に溢れ出したものだ。

「あれは……物理攻撃が効きにくいタイプか」

大樹兄さんが拳を握りしめ、舌打ちする。強化された筋力で叩いても、泥のように衝撃を吸収されてしまうのだ。

村の入り口では、数人の警備兵が絶望的な表情で腰を抜かしていた。巨大な黒い波が、家々を飲み込もうと迫っている。

「大樹、真央、左右から村人を救出。父さんは正面で敵の進行を食い止めてください!」

僕の声に、家族が即座に動く。

「了解だ。拓海、お前の『計算』に合わせるぞ!」

父さんが魔剣を抜き放ち、炎の壁を展開する。しかし、深淵の泥は蒸発しながらも、その質量で火を押し潰そうとしていた。

僕は地面に膝をつき、掌を湿った土に押し当てた。

思考加速が火花を散らす。ターゲットの分子構造を解析。不定形ゆえの結合の弱さを突く。

(ただの冷気じゃ足りない。必要なのは、物質の構造そのものを破壊する『共振』だ)

「姉さん、風の周波数を変えて! 僕が流す振動に同調させて!」

「任せて、拓海……っ!」

真央姉さんが空中に描いた緑の魔法陣から、高周波のうなりが上がる。

僕は地面を通じて、深淵の泥のコアへと「超音波」に近い振動を叩き込んだ。

「――共振破砕・水鏡の陣」

ドォォォォォォン!

黒い泥が、まるで見えない爆弾を内蔵していたかのように、内側から弾け飛んだ。液状だった肉体が、瞬時に細かい飛沫へと分解され、大気に霧散していく。

前世で学んだ、超音波洗浄機の原理。それを魔力によって数万倍のスケールで再現したのだ。

「すげえ……一撃かよ」

救助を終えた大樹兄さんが、感心したように声を漏らす。

しかし、僕の「指輪」はまだ警報を止めていなかった。

「……違う。本体はまだ地面の下だ」

地鳴りが響く。

村の中央広場が陥没し、そこから巨大な「目」を持った黒い竜のようなものが這い出してきた。森の主が、深淵の泥に取り込まれた成れの果てだ。

「グルゥァァァァァァッ!」

その咆哮だけで、周囲の建物のガラスが粉砕される。

父さんが魔剣を構え直すが、その表情には厳しさが滲んでいた。相手の魔力量は、父さん一人で抱えきれるレベルを遥かに超えている。

「みんな、僕に魔力を集めて。家族全員の回路を直列で繋ぐんだ!」

「直列!? そんな無茶な……お前の体が持たないぞ!」

父さんが叫ぶが、僕は首を振った。

「僕の『十五歳』の精神なら、制御できる。この幼い体のキャパシティを、指輪の演算で補完するんだ。父さんの火、兄さんの力、姉さんの風……全部僕が『翻訳』して、一つの現象に変える!」

家族が僕の背後に並び、それぞれの掌を僕の背や肩に置いた。

奔流のような魔力が僕の中に流れ込む。

熱い。痛い。視界が白く染まりかける。

けれど、背中から伝わる家族の温もりが、僕をこの世界に繋ぎ止めていた。

(父さんの情熱、兄さんの勇気、姉さんの優しさ。……全部、最高の素材だ!)

僕は右手を高く掲げた。

アステリアの夜空に、巨大な魔法陣が何重にも展開される。

それは、前世の科学の粋を集めた「究極のエネルギー変換」のイメージ。

「集え、万物の源。螺旋を描き、極点へ至れ」

指先に集束したのは、一粒の小さな、けれど太陽よりも眩い光球。

火が風に煽られて超高温となり、身体強化の圧力がそれを極限まで圧縮し、僕の水魔法が「プラズマ」を安定させるための磁場を形成する。

「……プロミネンス・ランス!」

放たれた光の槍は、黒い竜の心臓を寸狂いなく貫いた。

叫び声すら上がらない。

一瞬の静寂の後、黒い竜は光の粒子となって霧散し、汚染されていた大地には、奇跡のように青々とした草花が芽吹き始めた。

戦いが終わり、開拓村には静かな朝の光が差し込んでいた。

村人たちは涙を流しながら僕たちに感謝を捧げたが、父さんはそれを丁重に断り、夜明けの街へと帰路を急いだ。

「拓海、大丈夫か?」

大樹兄さんが、魔力切れでふらつく僕を背負ってくれる。

「……うん。ちょっと、眠いだけ」

僕は兄さんの広い背中で、心地よい揺れに身を任せていた。

前世では、こんなふうに兄さんの背中に乗った記憶なんて一度もなかった。

中学生だった僕は、いつの間にか家族との距離を測り、自分の殻に閉じこもっていた。

けれど、この世界で五歳の体に戻り、命懸けで互いを守り合った今。

僕たちは、血の繋がり以上の「魂の結束」を手に入れたのだ。

アステリアの自宅に戻ると、母さんが玄関先で待っていた。

「おかえりなさい。……みんな、無事でよかった」

母さんは僕たちの汚れを魔法で清め、一人ずつ抱きしめてくれた。

その温かさは、どんな最強の魔法よりも僕の心を癒やしてくれた。

リビングのソファに倒れ込みながら、僕はぼんやりと窓の外を見た。

昇り始めた太陽が、黄金の街を照らしている。

「父さん。僕、この世界に来てよかったって思ってるよ」

僕の独り言に、父さんは優しく僕の髪を撫でた。

「ああ。俺もだ。前の世界では見失っていたものが、ここには全部ある」

僕たちは決めた。

この最強の家族の力は、誰かの野望のために使うのではない。

ただ、自分たちが自分たちらしく、この新しい世界を楽しみ尽くすために使うのだと。

十五歳の魂を持つ五歳の天才魔術師。

身体強化を極めた脳筋の兄。

精霊の声を聞く風の姉。

そして、彼らを支え導く若き両親。

僕たち「再誕一家」の伝説は、まだ序章を書き終えたばかり。

明日にはまた新しい魔法の数式を解き、美味しい料理を食べ、笑い合いながら、この広い世界を冒険していこう。

「さあ、拓海。寝る前に温かいミルクを飲みなさい。明日からは、魔法大学の図書館へ行くんでしょう?」

「うん。楽しみだな、母さん」

僕は目を閉じ、家族の気配に包まれながら、深い眠りへと落ちていった。

夢の中で、僕はまた一つ、新しい魔法の理論を組み立てていた。

それは――家族全員で空を飛ぶための、自由の魔法だ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

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