二話 それぞれの能力
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
二話 それぞれの能力
黄金の街アステリアと「規格外」の証明
アステリアの街を囲む巨大な白亜の壁は、夕陽を浴びて神々しいほどに輝いていた。
門を潜る際、僕たちは父さんを筆頭に「森で遭難し、記憶の一部を失った貴族の端くれ」という設定で通した。母さんが書庫で見つけた古い紋章学の知識と、父さんの立ち居振る舞い、そして何より僕たちの身に纏う「上質な魔力の衣」が、門衛たちに有無を言わせぬ説得力を与えていた。
「まずはギルドへ行こう。この世界での『身分』と『通貨』を手に入れるのが先決だ」
父さんの言葉に、僕たちは頷いた。十五歳の僕から見ても、今の父さんの決断力はかつての「疲れた会社員」時代とは比較にならないほど鋭い。
ギルドの扉を開けると、そこには熱気と、酒と、鉄の匂いが混ざり合った独特の空間が広がっていた。
「……おい、見ろよ。ガキ連れの若夫婦か?」
「いや、あの魔力……ただの家族じゃねえぞ」
冒険者たちの視線が突き刺さるが、大樹兄さんが一歩前に出て軽く周囲を睨むと、彼らは気圧されたように視線を逸らした。十歳に満たない子供の放つ威圧感ではないのだ。
受付には、眼鏡をかけた知的な女性が座っていた。
「ギルドへの登録ですね。では、こちらの魔力測定器に手をかざしてください。これで属性と適正ランクを判別します」
まずは父さんが手をかざした。
水晶が激しく燃え上がり、深紅の光を放つ。
「火属性、出力……Aランク!? い、いきなり……」
続けて大樹兄さん。水晶は光ることなく、しかしミシミシと音を立ててひび割れそうになった。
「身体強化、測定不能……物理圧力が強すぎます!」
真央姉さんは風の旋律を奏で、受付の書類を優雅に躍らせた。
そして、僕の番。
僕は思考加速の指輪を意識し、ごくわずかな魔力だけを流そうとした。けれど、十五歳の精神が構築した「高度な魔力構造」は、測定器にとって未知の劇物だったらしい。
パリンッ!
涼やかな音と共に、高価な水晶が粉々に砕け散った。
「え……」
「あ、すみません。壊すつもりじゃ……」
受付の女性は呆然とした後、震える手で奥の部屋へ走り去った。
「ギ、ギルドマスター! 『特異個体』の家族です! 至急、特級鑑定をお願いします!」
結局、僕たちはギルドマスター直々の面談を受けることになった。
出てきたのは、傷だらけの顔に温和な笑みを浮かべた初老の男性、ガレオスだった。彼は僕たちの事情を察したのか、深く追求することなく「有望な新人の登録」として処理してくれた。
「あんたたちのような家族は初めてだ。だが、その力、隠し通せるもんじゃない。街の北側にある屋敷を一つ安く回してやろう。その代わり、街に危機が訪れた時は力を貸してくれ」
こうして、僕たちはアステリアの高級住宅街に拠点を構えることになった。
前世では35年ローンの建売住宅だったけれど、今度は魔法の噴水がある白亜の豪邸だ。
「さあ、今日はお祝いよ」
母さんが腕を振るい、ギルドで換金したばかりの金貨を使って、この世界の最高級食材を買い込んできた。
「拓海、この『虹色マスのムニエル』、熱伝導を均一にするために少し手伝ってくれる?」
「了解。表面温度を180℃で固定するね」
僕は指先から微細な熱魔法を放ち、フライパンの温度を完璧に制御する。
「贅沢な魔法の使い方だな……」
大樹兄さんが笑いながら、庭で重力魔法の訓練をしていた重石を置いた。
食卓を囲む五人の顔には、前世にはなかった「充足感」があった。
「父さん、これからどうするの? ただの冒険者で終わるつもりはないんでしょ」
僕の問いに、父さんはワイングラス(中身は母さんの特製果実ジュースだ)を置き、真剣な目をした。
「ああ。この世界には『魔導技術』と『科学』のミッシングリンクがある。母さんが書庫で調べたところによると、この国は隣国との魔導兵器開発競争に晒されているらしい。僕たちは、誰の味方にもならない。ただ、この家族が静かに、そして最強でいられるための『居場所』を確立する」
平和な夕食の最中、僕の「思考加速」が警報を鳴らした。
窓の外、アステリアの街を包む夜の闇の向こう側。
精霊の森の方角から、あの狼の群れとは比較にならないほど巨大で、禍々しい「負の魔力」が立ち上るのを感じた。
「拓海、お前も感じたか」
大樹兄さんが立ち上がる。真央姉さんも風の耳を澄ませ、顔を凍りつかせた。
「……悲鳴が聞こえる。森の入り口にある開拓村が、何かに飲み込まれてる」
父さんが静かに立ち上がり、壁に掛けた魔剣を手に取った。
「恵、拓海を連れて地下の防衛ラインを確認してくれ。大樹、真央、行くぞ」
「待って、父さん。僕も行く」
僕は父さんの服の裾を掴んだ。
「僕の魔法なら、広範囲の防御と浄化ができる。前世の知識……『飽和蒸気による滅菌』と『高周波振動』の応用なら、あの大質量を削れるはずだ」
父さんは僕の目を見て、ふっと微笑んだ。
「そうだったな。お前はもう、守られるだけの五歳児じゃない。……健一、大樹、真央、拓海。そして家を守る恵。これが僕たちの初陣だ」
家を飛び出した僕たちの頭上には、二つの月が冷たく輝いていた。
街の平和な灯火を背に、僕たち「再誕した家族」は、夜の闇へと駆け出した。
前世で失ったはずの絆は、今、異世界の戦場を照らす最強の炎となる。
僕の右手の指輪が、主の戦意に応えるように青白い光を放ち始めた。
「計算完了。……一匹も、家族の領域には入れさせない」
十五歳の冷徹な計算と、五歳の純粋な魔力。
それが混ざり合った時、異世界の夜に、誰も見たことのない「奇跡」が吹き荒れることになる。
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