1-6 挨拶周り
今日は会社へ出社して退社を伝える。
社長には大事な話があると匂わせてある。
まずは【認識阻害】を弱めにかけて顔の印象を曖昧にしようとしたら、スキルが【認識変化】にクリエイトされた。
「お、なんだこれ」
なんと顔と体型をアレンジできるようになった。
性別も変更できるというチートぶりである。
もはやなんでもありだな。
でもこれは助かる。
さっそく前の私へと認識変化をかけた。
ウチの姫たちを驚かそうとして変化した顔で登場したのだが、まったく驚いてくれなかった。
どうやら彼女たちは私のことを容姿ではなく魂で認識しているらしく、見た目は言われてみればくらいのものらしい。
不思議なものだな。
それよりもお留守番に拗ねていた。
さすがに会社には連れていけないので、お昼ごはんには帰るからねと伝えて我慢してもらった。
――――――
出社するとその足で社長室へ。
そのままストレートに退職の意を伝えたが全力で慰留された。
たしかに急すぎるからな。
役員は退任させてもらい、顧問として引き続きお手伝いはすることで折り合いをつけた。
こちらのわがままなのでギャラは不要とした。
代わりに形式的ではあるが、個人会社を設立させてもらい、成立した案件が出した利益から30%を報酬として受け取るという形で話をまとめた。
今日はちょうど出版部の管理職会議だったので、部長と編集長たちにその旨を告げたらみんなひっくり返っていた。
「これからは基本的に出社はしない。だが、君たちへの支援は惜しまないからなにか相談や困ったことがあればいつでも連絡をしてくれ」
個人の携帯番号とPCアドレスを伝えておく。
とりあえず置き土産でも用意しておくか。
私はそのまま渋谷へ向かった。
特に旧知のプロダクションにはこれから挨拶をしなければならない。
今日はアーティストが多く所属する太陽プロへ。
私が新人時代から30年来の付き合いとなる恩人がいるプロダクションである。
「田城社長、当日アポですみません」
「なに言ってるんだ。シシならいつでも歓迎するよ」
応接室に案内されてさっそく事の次第を伝える。
「田城社長には新人からお世話になってここまで育てていただきました。ありがとうございます」
「シシが抜けて会社は大丈夫なのか?」
「いや、形式的に新会社も立ち上げますが、個人的な都合なので顧問として会社に席は残してます。これまで通りどうか弊社とは変わらぬお付き合いをお願いします」
「この業界は人のつながりが全てだ。勘違いしてるヤツも多いがブランドじゃない。シシがいないならウチに限らず相応の付き合いになってしまうと思うぞ」
「わかっていると思うのですが……なにか行き違いがあればいつでも連絡ください。で、さっそくお願いごとがあるのですが」
「もちろんだ。何でも言ってくれ」
「ACEの写真集、もらえませんか?」
ACEはいま日本で最も人気のある男性3人のアイドルグループだ。
「すごいところ突いてくるな」
「私が直接プロデュースします。それが会社に残す最後の作品になります」
「ならOKだ。願ってもない」
即答だった。
本当にありがたい。
「ありがとうございます」
「もうひとつ条件がある」
「なんでしょう」
「アオイの写真集も頼む」
アオイとはACEを凌ぐ歌姫だ。
この流れは売り込み中の後輩でもバーターが付くのかと思ったが逆だった。
「……アオイですか」
「シシが直接プロデュースするなら喜ぶよ」
「そんなことないでしょう」
「アオイはずっとシシに会いたがってるよ。もう何年も会ってないだろ」
「それはまあ、気軽に会うのもどうかと思いますから」
「本人が会いたいって言ってるんだ。今回はいい機会だよ。しっかり向き合ってやってくれ」
「……わかりました。そのつもりでいます」
具体的なスケジュールは改めてとなる。
彼らはこれまで公式写真集は出したことがない。
全てを断ってきたという。
それをいきなり解禁するのだからそれなりな根回しは必要だろう。
私にとっても集大成。
覚悟をもってやらせてもらう。
久しぶりの現場仕事も楽しみだ。
田城社長に感謝を伝えて退室しようとすると、最後に声がかかる。
「いつでも話は聞くからな。なにかあったら連絡してくれ」
「……ご心配いただくようなことはありませんから大丈夫ですよ」
「そうか。まあまたメシでもいこう」
「ぜひお願いします」
事務所を出て川沿いを歩く。
何かを察したんだろうな。
いつかこの人には本当のことを伝えたい。
この業界は人のつながりか。
それは間違いないだろうな。
田城社長への感謝を形にしよう。
さて帰って女神たちとランチを楽しもう!




