晧の章 ボーイズ、放課後を駆ける(3)
放課後、リュカのもの言いたげな視線を振り切って、僕は学校を出た。後ろからそっと袖を引かれているような変な後ろめたさはあったけど、改めて謝られるのも誘われるのもいやだった。
いつものようにモノレールの高架下を走り抜けて、いくつもの信号を越えていく。おそらく私有地であろう裏道もあって、誰にも見とがめられないタイミングで駆け込む。
五つめの信号を越えたあたりに来ると、一戸建ての住宅がなくなり、ちいさな工場とアパートが増えてくる。この街の造成初期、建築に携わっていた人たちが大勢住んでいたなごりらしい。
トランペットの音がしないので有太はいないのかと思ったら、瀬戸もいない。
工場は天井が高いので、誰もいないとひどくがらんとして見える。真ん中に置かれた作りかけのスタージェットが、惑星の地表に取り残された探査機のようだ。
瀬戸はきっと奥にいるだろうと思い、僕は工場を縦断して作業室へ向かった。薄いベニヤ板の扉を開くと、作業室のデスクに突っ伏して瀬戸が眠っていた。
ペンを握ったまま腕を投げ出して、横顔がこちらを向いているので僕はどきりとした。あまり見ると瀬戸はいやがるんじゃないかと思ったけど、つい見てしまう。
あの鋭いまなざしがないと、瀬戸は年齢以上に幼く見える。元々小柄だし、痩せてもいるので、そこだけ見ると僕と同い年には見えない。ただ、手だけは職人らしくごつごつしていて大きい。
これ以上凝視するのは気が引けて揺り起こそうとすると、瀬戸は気配を感じたのか目を開けた。まどろむ様子を見せることなく、いきなり上半身を起こす。
「……寝てた。悪い」
「謝らなくていいよ。……昨日、遅かったの?」
デスクには図面が散らばっている。スタージェットのものではない。
「ああ。集中してたから、気づいたら明け方になってた」
瀬戸は手早く図面をまとめると引き出しに放り込み、立ち上がった。「ちょっと顔洗ってくる」
瀬戸が作業室から出て行くので、僕も続いて出た。洗面所は工場の片隅にある。水音を聞きながら、僕はスタージェットに近づいた。