晧の章 ボーイズ、放課後を駆ける(1)
学校は好きだ。
運動をするのは楽しいし、実のところ、勉強もきらいじゃない。知らないことを知るのは面白い。興味のある分野ならなおさらだ。
「晧、今日もサッカー来ないのか?」
二時間目と三時間目の合間、工作室に向かう途中でリュカに声をかけられた。僕は考えるまでもなく即答する。「うん、今日は行かない」
「なんかあるのか?」
いつもは深く訊いてこないリュカが、珍しく食い下がってきた。
言葉を選んでいると、照れたように笑って「今日はちょっと、人数が足りないからさ」と僕をのぞきこんでくる。
わずかにためらったけど、僕はやっぱり首を横に振った。もう、工場へ行くと二人には言ってある。機体づくりも大詰めで、行かないわけにはいかない。
「ま、しょうがないか」
リュカは根に持たないたちなので、あっさりそう言って僕と並んだ。
「でもさ、いつもどこ行ってんの? よく走って帰ってるけどさ」
訊かれて、僕は答えに窮した。「えーと、それはあれだよ。塾とかさ……ピアノもあるし、妹の面倒も見なきゃいけないし」
「ふうん、晧も忙しいんだな」
しどろもどろの僕に気づかないのか、リュカは軽く言って工作室の扉に手をかけた。
三、四時間目の授業は木の板を彫刻刀で彫るというものだった。題材は何でもいいらしい。
デザインを思いつかない人のために、ホワイトボードにはいくつか見本が貼ってある。犬とか花とか、お城だとか。
僕は見本をそのまま使いたくはなかったので、テーマをしばらく考えることにした。
二人は今ごろ、何をしているのだろう。僕は貼られたゴールデンレトリーバーの絵を漫然と眺めた。
まだ午前中だから、有太は眠っているだろう。有太は夜遅くバーで演奏するパパについて行くから、就寝時間は遅い。
瀬戸は……そろそろ仕事の準備を始めているだろうか。
あのコバルトブルーを翼にする。強く明るい青が見たい。僕たちの夢がかなうところが。