瀬戸の章 ボーイズと流星の夜(6)
「何でエンジン、動かなくなったんだろうな」
「分からない……急に接続が切れて」
晧の言葉に、有太は修羅場の後とは思えない、のんびりした声で言った。「電波塔が消えたからか?」
「え?」
二人の間で会話を聞いていた俺は面食らったが、思い出してはっとした。そうだ、墜落しそうになる寸前、遊園地の明かりがすべて消えた。
「増幅器からエンジンへの接続は、あの電波塔を介してたんだ」
晧は喘ぐように呟いた。「この辺のネットワークはみんな、あの電波塔を中継にしてるんだ」
俺たちは転がったまま、山の上の遊園地を仰ぎ見た。煌々と明るいはずの遊園地は暗く、山はしんとしていた。
「流星群を見るために明かりを全部消したのかもな」
有太が言うと、晧は少し身を起こして俺を見た。
「それかな」
「どうだろうな」
あれこれ推測したり、考えたりする力は残っておらず、俺はまともな返事ができない。
「じゃ、僕のせいだ」
「まさか」
深刻になる晧に、有太は朗らかな声を出した。「全員のせいに決まってるだろ」
「とりあえず、星、見ようぜ」
俺は言って、痛む身体をそろそろと動かすと仰向けになった。二人もそうした。
流星群は上空にいた頃より遠い。
数も少なくなっていた。光の束というほどではなくなっている。だが途切れることなく流れてゆく星にはやはり、静けさを感じた。
「よく無事だったなあ、おれたち」
大の字になった有太が、ひときわ大きな流星を目で追いながら言った。
「一生分の衝撃を味わったよ」
「僕も」
晧が大きく息を吐きだした。
「僕一人だったら絶対、無理だった」
俺は上空で、二人が死ぬのは嫌だ、と強く思ったのを思い出した。それが叶ってよかった。
まだ内臓があるべき場所にないようなおかしな感覚があって、息がしにくい。身体に入った力が緩まない。何だ、生きていたいんじゃないか、と再び思い、俺はみぞおちのあたりにわきあがるものを感じた。
「瀬戸?」
笑い出した俺を、有太が不安そうにのぞきこんでくる。気が変になったと思われたのかも知れない。
晧も様子を見ようとしてか、触れるほど近くまで寄ってくる。その泥と傷だらけの二人に、俺は今まで一度もしたことがないことをした。腕を伸ばして、それぞれの首に手を回したのだ。
腕の長さが足りず、自分が救護される側みたいな格好になって、俺は苦笑いした。
「何だよもう」
有太が言って、俺の腕が届くように屈んだ。晧はいたた、と言いながらも更にそばまで来る。
「晧の言う通りだな」
俺は二人を見上げた。「痛いけど、生きてる」
二人の身体は熱くて、俺の冷えた手のひらがじんとした。
「ねえ、僕が何を考えてるか分かる?」
晧は何故か得意げに言った。
「スタージェット二号計画だよ。今度は墜落しないやつ」
「いいけど、別の名前をつけようぜ」
こだわるところはそこなのか。俺は呆れて有太に目をやった。相変わらず本気なのか冗談なのか分からない。
じゃあ何にする? と問う晧に、有太は至極真面目な顔で思案し始める。
「そうだな、それじゃ……薄荷ボーイズ号」
「だせえ」
俺が即座に却下すると、有太は嘘だろ、と心外そうにこちらを見るので、どうやら本気らしい。俺は思わず吹き出してしまう。晧も声を出して笑う。
有太が次から次へと名前を挙げていくのを聞き流しながら、俺は明け方の空に目をやる。またひとつ、星が流れていった。




