晧の章 ボーイズ、計画を立てる(3)
僕の住むここは自然と生まれ、栄えたわけではなくて、人工的に作られた街だ。
最初は大学の工学研究機関が、次に大企業のプラントが来て、山野だった一帯を変えた。
今では工学だけではなく、芸術や運動などを学ぶ大学もある。こういうのを学術都市と言うらしい。これらは主に街の西にある。
僕の通う学校は、高速モノレールの終着駅から少し歩いたところにある。街の最東端に近い、街外れと言われる場所だ。
瀬戸の工場はその外れからもさらに外れたところにあって、モノレールもバスも歩く歩道も通っていない。だから僕は自分の足で行く。
夕食までには家に帰らなきゃいけないから、工場から駅までの遠さはもどかしい。そこからモノレールに乗って自宅に帰るにはさらに三十分はかかる。
だから、僕はエンジン付きキックボードの完成を楽しみにしていた。それがあれば、僕はもう少し二人といられる。
でも、まさか……空を飛べるかも知れない、なんて。
それは僕にとって、幼いころからのひそかな夢だった。
憧れのヒーロー、ジェットブラックが乗っていた、一人乗りのちいさな飛行機。幼い僕はあれに乗りたくて仕方なかった。
その飛行機はキャノピーが申し訳程度の大きさしかなく、天井は覆われていない。ジェットブラックは風を受けてコクピットに座っている。
コクピットと言えるのかどうか、というくらいの狭さで、操縦桿と数本のレバー類の他は、ピアノの鍵盤をカラフルにしたような操作パネルしかない。
機体はスノーホワイトで、翼の先だけインディゴブルーだった。主翼にしようと瀬戸がもらってきたあのホバーカーのコバルトブルーを見て、僕はあの白地に青の翼がどれほど好きだったかを思い出していた。
ジェットブラックは、大抵のヒーローがそうであるように普段は正体を隠している。
彼の表向きの顔は、ちいさな遊園地のアクションショーに出演する俳優だ。いつもは悪役を演じている。そして、ひとたび危機が迫れば使われていない倉庫に隠してあるスタージェットに乗って、敵を迎え撃つ。
僕は彼がスタージェットで空に飛び出していき、今さっきまでいた遊園地が急速にちいさくなっていくシーンがとても好きだった。
自分の目でそれを見てみたいとずっと思っていた。空を飛ぶ機械を作れるんじゃないかという話になった時、まっさきに思い出したのはそのことだった。
でももちろん、三人の作業のことは秘密だ。僕は誰にも明かしていない。二人もきっとそうだろう。
ただ、実はパパにだけは打ち明けようか、と悩んだことはある。
僕のパパはエアカー開発の技師だからだ。僕たちがうまくできないでいる部分に、パパならいいアドバイスをくれるんじゃないかと思ったんだ。