瀬戸の章 ボーイズ、過去と未来に出会う(5)
「息子が不良とつるんでるんじゃないかって、心配して来たのか?」
言いながら、俺は違うような気がした。育ちのよさそうな、こんな場所には明らかに似つかわしくない佇まいではあったが、物事は自分の目で見て判断するタイプに見えた。
(それともそうあってほしいってだけか?)
自分に対する皮肉な考えも浮かんだが、彼はあっさり首を横に振った。そして意外なことを言った。
「どちらかと言うと自分自身のために来たんだ。僕が、君に会いたかった」
「俺?」
晧の父親が俺に会いたがる理由など、全く思いつかない。
戸惑う俺に向き合い、彼は穏やかな声で言った。「友達に似てるんだ」
友達。
中年に差し掛かった男にそぐわない単語だ。俺はどういう反応をしていいものか迷った。
「この工場、僕が君たちくらいの年だった頃からあるんだよ」
彼は、人なつっこいと言ってもいいような目をした。
「その頃、ここには家のない子どもたちが集まって住んでいた。友達もその一人だった」
あの共同体は、そんなに前からあったのだろうか。俺は目で続きを促した。
「僕はよくここに遊びに来ていた。気の合う親友が一人いてね。彼も機械に強くて、家電の修理やバイクの改造なんかを引き受けていたよ」
「…そいつと俺、何か関係あんのか」
どちらかと言えば淡々とした口調の語るその先を知りたい気もしたが、俺はそれをぶっきらぼうに遮った。大人の自己満足に付き合う義理はない。
彼は俺に気を悪くした様子もなく、それどころかどことなく面白がる顔つきになった。
「ないよ。でも君の話を晧から聞いて、当時のことを思い出したんだ。聞けば聞くほど、君は友達に似てるなあ、と思ってね。それで会いに来た。付き合わされる君には申し訳ないが」
どうやら嫌味ではないらしい。その反応は俺にとって新鮮だった。
大抵の大人たちは、俺がこんな口を利くと怒り出す。俺の言い分の正しさに関わらず、生意気だの何だの言って黙らせようとする。
だから俺は自分の要求を通す時は正論以外の策もいくつか用意しないといけないが、彼にはそれは必要なさそうだった。
「…そいつ、今どうしてんの」
ふと尋ねてみる。友達に似ている。現在形だ。
彼は口をつぐみ、片頬だけで微笑んだ。
沈黙。俺はそれ以上問うのをやめた。
多分、俺は余計なことを聞いたんだと思う。だからそれがせめてもの礼儀である気がした。
「晧がここに出入りしていると知った時、僕は嬉しくてね。心が弾んだよ」
「変わってんな、あんた。普通の親は止めるだろ」
「そうかな」
真面目に首を傾げる。そういう仕草をすると、ますます晧に似ていた。