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瀬戸の章 ボーイズ、過去と未来に出会う(4)

 あれから、晧はふさぎ込むのをやめたようだ。


 きっと、間に合わないと三人とも分かっている。でも刻限が来るまでは、それについて考えるのはやめて、手を動かすことにした。言葉には出さないが、それぞれがそう決めた。


 俺たちは三人で食事をする機会が増えた。


 工場にはダイニングテーブルなどないから、床に直座りして食べる。有太いわく、ピクニックのようで楽しいらしい。

 そんなもの、今までしたことがあるのかと思ったが口に出すのはやめた。


 俺は食べるものに頓着がない、と言うよりえり好みできる生活ではないだけだが、晧が持ってくるものが凝っていて美味いということは分かった。


 有太はバーのマスターからの差し入れを持ってくる。これも売り物だけあって美味い。


 俺が出すものだけが明らかにみすぼらしいが、二人がそれをとやかく言うことはない。


 それより俺は、二人が食べるものにはひと手間かけるのが当たり前だと思っているらしいことに驚いた。


 俺の常食である固くなったパンも、ミルクと玉子に浸して焼いたり、炙ってから溶けたチーズをかけると美味くなった。そういう工夫があることを、今まで俺は知らなかった。


 流星群まで一週間を切ったある夜、俺は前日からの徹夜がたたって疲れていた。


 まだ夕方をいくらか過ぎたくらいの時間だというのに、もう目を空けておくことができない。何度も工具を取り落としてしまう。


 今日はもう眠ろう、明日の朝でも間に合うはずだと床から立ち上がった時、かすかに物音がした。


 そして、それと同時に扉が少しだけ開いた。注視していると、誰かがそこから顔を出した。


(誰だ?)


 男だ。まだ若そうに見える。


「すみません。お邪魔してもいいかな」


 落ち着いた、丁寧な口調。俺は近付いていって、扉を開けた。スーツ姿の男が立っていた。


「ありがとう。約束もなく来てきてすまないね」


 この界隈の住人でないことはすぐ分かった。西エリアに住むエリート組に違いない。


 見た目が若く、一見学生かとも思ったが、それにしては物腰が柔らかく、スーツの仕立てもよすぎる。三十代くらいだろうかと俺は見当をつけた。


「仕事の依頼?」


 俺の問いにゆっくり首を振って、男はこちらをじっと見つめた。


「でも、君に用があって来た」


 その目に既視感があった。俺は男の目を見つめ返した。あたたかみのある紅茶色の瞳。どこかで見た気がする。だが思い出せない。


 手振りで中に入るよう示すと、男は静かな足取りで歩いて来た。スタージェットを前に立ち止まり、興味深げに見上げる。


「これか。立派なものだ。君はとても腕のいい技師だと聞いたが、確かにそのようだ」


 俺が何か言う前に、男はこちらを見てわずかに首を傾げるようにした。その動きで分かった。この男は、晧の父親だ。目がそっくりだ。


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