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瀬戸の章 ボーイズ、過去と未来に出会う(2)

「他の皆はどうしてるんだろね」


 ニナが足を投げ出し、天井を仰いだ。「死んでるかなあ」


「普通、そこは生きてるかな、だろ」


 ユーランは呆れたように口をはさんだ。「お前の言うことはいちいち物騒なんだよ」


「育ちが悪いからしょうがないわな」


 ニナはそう言って体を起こし、あぐらをかいた。


「にしても、あんたに商売ができるとは思わなかったわ。上手くいってるみたいじゃない」


 この状態が「上手くいってる」のかどうか、他で働いたことがない俺には分からない。境遇から言って、今生きているだけでもよしとすべきだとは思うが。


 ユーランとニナが居た頃のことを、俺は細かく覚えていない。


 ただ、何人もいる中で特にこの二人が年少者の世話を焼いていたのはうっすら記憶にある。きょうだいと思うにはそれぞれの容姿が違い過ぎたが、兄姉がいたらこんな感じなのか、と思ったことも。


 二人は近況を語ることなく、俺に聞いてくるでもなく、取り留めもない話をしながら珈琲を飲んだ。俺は何かを問われない限り、それを黙って聞いていた。


 しばらくすると二人は腰を上げ、まるで毎日の動作のように慣れた動きで扉に向かった。ニナが「美人で優しい姉貴が来て、嬉しかっただろ」と言うので首を横に振る。


 生意気なやつ、と口調を荒くするニナに取り合わないでいたら、ユーランが振り返ってスタージェットを見た。


「あの飛行機で空を飛んだら、どんなだったか教えてくれよ」


 束の間、ユーランはスタージェットではなく、別の何かを見ているような目をした。


 俺はとっさに晧を思い出した。晧は話の途中で想像の世界に入り込んでしまうと、よくそんな目をする。俺は分かった、と答えた。


 二人がいなくなると、工場がいつもより静かに感じられる。


 かき乱された空気の中にはまだ声の粒子が漂っているが、だんだんそれも鎮まってくる。俺は作業室へ行き、奥にあるベッドに寝転がった。


 二人は幸せなんだろうか。と俺は考え、思わず頬が熱くなった。傲慢な発想だ。誰であっても、それを俺に言われたくはないだろう。


 初めて一人で夜を過ごした時、心細くなったことを俺は思い出した。それまで誰もいない夜を経験したことがなく、人の気配がないということがこんなに建物をがらんとさせるということを知らなかったのだ。

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