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瀬戸の章 ボーイズ、夏に集う(4)

 八月になった。


 流星群は十五日の夜半らしい。晧は目に見えてそわそわしてきた。


 何度試運転しても、スタージェットを浮かすのは地上数メートルがせいぜいだ。工場の外に出る必要がないくらい、高度が出ない。


 表情が硬い晧を目の当たりにすると、普段は飄々とした有太の軽口も減った。俺は元々喋る方ではないから、工場内には重い沈黙が増えた。


「ごめん」


 ある日の夕方、突然、晧がぽつりと言った。うつむいた晧の瞳は、今にも泣き出しそうに揺れて見えた。


「薄々気付いてたんだ、この規模の反重力エンジンでスタージェットを支えるのは難しいってこと。でも……」


 晧がわずかに顔を上げると、目の端が小さく光ったのが分かった。


「僕が流星群を見たいって言いださなければ、こんなに急ぐことはなかったんだ。負担かけてごめん」


 俺は晧がちらっと作業室に目を走らせたのに気付いた。何だか胃をぎゅっと掴まれたようで、動けなかった。


「泣くなよ、薄荷ボーイズ。……何かこれ、前にも言ったな」


 有太が晧のそばにやって来て、その肩に手を回した。


「気にするなよ。駄目元だって言っただろ? とりあえずやってみるってことだっただろ? その通りやってるだけだよ、負担なんか誰も感じてないぜ」


「泣いてないよ」


 晧はゆっくりまばたきをして、ほんの少し口元を綻ばせた。「前にも言ったけど」


 それでわずかに場は和んだが、晧がやっぱり思い詰めた顔をするので、それ以上有太も何も言えなかった。俺は気が進まなかったが、口を開いた。


「お前が流星群を見たいって言い出した時、俺も有太も反対しなかったんだから、これは三人の総意だろ。誰かが謝る話じゃない」


 有太がそうだな、と相槌を打つ。晧は黙って俺の顔を見ている。俺は続けて言った。


「俺はぎりぎりまで粘るって決めた。だから決めた通りやる。……手伝ってくれよ」


「ううん」


 晧の表情はまだ強張っていたが、目元が少し柔らかくなった。「手伝うんじゃなくて、一緒にやるって言わせて」


「おれも」


 空いた片方の手を伸ばしたかと思うと、有太は俺の肩を掴んで自分に引き寄せた。「おれも一緒にやるって言いたい」


「分かった、分かったから放せよ」


 痛い、と抗議しても、有太は俺と晧を両手で抱え込んで離さなかった。


 晧が、有太いつもこれやるよね、と笑った。その笑みは普段と同じに衒いのないものだったので、俺は締め付けてくるものが緩むのを感じた。


 できないことをできるとは言わないように生きてきた。正直、あと半月でスタージェットが飛べるようになるとも思えない。


 でも、俺はどうしても今ここで、できないとは言いたくなかった。


 もしかしたら、ほんのわずか延命したに過ぎないのかも知れない。やっぱり駄目だった、と晧や有太が悲しそうにしているのを見るのが、半月後に伸びただけのことになるかも知れないと思いつつも、それでも言いたくなかった。


 ようやく有太の気が済んだ頃には俺と晧はもみくちゃになっていたが、何となく心が晴れた。もう何も考えず、あと半月スタージェットに取り組もうと思った。


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