晧の章 ボーイズ、計画を立てる(2)
四年前にゴミ捨て場で知り合って以来、僕らはこうして工場に集まっては何かを作っている。
反重力システムを拾うまではエンジン付きキックボードを開発していた。すぐにパワーダウンするので、解決策を話し合っていたところだった。
今は三人とも、スタージェットをどう飛ばすかに夢中だ。
瀬戸はこの工場に一人で住んでいる。
機械に強い瀬戸は、持ち込まれる機械修理で生計を立てている技術者だ。合間に、車やバイクの改造を請け負うこともある。瀬戸の作るターボは、走り屋に人気だ。
滅多に笑顔を見せない瀬戸は、仕事を持ち込む大人たちと対等以上に渡りあっている。
そういう場面に遭遇したら、僕はなるべく息を潜めている。僕みたいな子どもが瀬戸と友達だとわかったら、瀬戸を商談相手と見なしている大人たちに付け入る隙を与えるかも知れないからだ。
僕は瀬戸の交渉の助けにはなれないけど、せめて邪魔はしたくない。
有太はこの工場の近くに父親と二人で住んでいて、よくここに来る。
有太のパパはバーで演奏するトランペット奏者だ。有太もいつもトランペットを持ってきて、作業の合間に練習している。僕は時々演奏してくれる、有太の「キャンディ」が好きだ。
二人とも口数が多い方ではないけど、沈黙は怖くない。黙っていても居心地が悪くなることはなかった。
特に有太は、黙っていても何となく場が和むような気がする。
「これ、食う?」
どこをどう裁断するかの目途がついたころ、有太が床に放り出してあった肩掛け鞄からパラフィン紙の包みを取り出した。
開けると、中からピーナッツやクラッカー、一口サイズのチョコレートが出てくる。
「昨日のバーの残り物だけどな」
瀬戸がチョコレートを口に放り込む。有太はポップコーンのかけらを丁寧により分けて、口に注ぎ込むようにして食べた。
「晧、次はいつ来れるんだ」
瀬戸がこちらを見る。
僕は思わず、目を伏せそうになる。「えっと…明日は来れないんだ。あさってだよ」
「わかった」
瀬戸の返事は短い。「今日中に切断がすめば、あさってはその続きだな」
「続きって?」
「切った後は溶接が要るだろ。でも溶接面が大きそうだからうちでは無理かもな」
「まあ、瀬戸ファクトリーの専門はエンジンだからな」
「勝手に名前つけるなよ」
瀬戸はまた、有太をにらんだ。
瀬戸は僕たちの中では一番小柄だけど、眼光が鋭い。瞳の色が黒いせいかも知れない。ただ、そんなまなざしを向けられても有太は動じないけど。
「お、これ」
有太が僕の手のひらに台形のチョコレートを一粒、のせてくれた。「晧が好きなやつだ」
「ありがとう」
僕が家で妹にするようなことを、有太は僕に対して自然に行う。それはくすぐったくもあり、心のはしっこが焦がされたみたいな苦みを感じることでもある。
やがて近くの鉄工所のサイレンが鳴り、帰らなければならない時間が来る。
時々は有太も一緒に帰るけど、ほとんどの場合僕は一人で工場を出ることになる。
夕暮れはいつもちょっと悲しい。