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瀬戸の章 ボーイズ、夏に集う(1)

 流星群を見たいと言い出したのは晧だった。まあ、いかにも言い出しそうではある。


 去年の秋のことだ。それまでにスタージェットを完成させて、それに乗って流星群を見ようという計画だ。


 俺は流星群に大して興味はない。ただ、区切りがあった方が物事ははかどると思っていたので、その計画に乗ることにした。


 星が降るエンディングというのは俺にはちょっとロマンチック過ぎるが、「スター」ジェットという名前には相応しいかも知れない。


 あれから冬が過ぎ、春になり、夏が来た。流星群は一か月後に迫っている。


 夏休みに入ってから、晧はここに来る頻度が増えた。


 去年までと比べても格段に多い。普段も何とか学校や習い事の合間を縫って来ている状態だから、おそらく無理して時間を空けているんだろう。


 それについて俺はどうこう言いたくない。ただ、晧がしょっちゅう来ることで俺も焦燥感を覚えている。この一年近く、エンジン開発はあまり進んでいないからだ。


 高度を出すには、出力が圧倒的に足りない。これは動かせない事実だ。


 増幅器をつけたり、少しでも軽量化を計ったりと何とかごまかしてきたが、限界が来ている。


 最初に反重力システムを拾った時から、分かってはいたことだった。ただ、当初は別に期限も納品先もなかったので気長に考えていた。


 晧が流星群を見たいと言い出した時、反対しておけばよかっただろうかと時々、考える。そしたら、その時傷つくだけですんだかも知れない。


 今も、晧は眉をひそめて、座り込んだ自分のつま先をじっと見つめている。頭の中が高速回転しているのが見えるようだ。


 俺は自分の能力の範囲内のことしか実現できない。


 それ以上を求める冒険心など持ち合わせてもいないし、理想と現実が折り合わないなんて、日常過ぎて嘆くことでもない。


 有太は機械いじりが好きなわけじゃなく、ただ俺と晧に付き合っているだけだ。


 だから、現状に一番心を痛めているのは晧だろう。そう思うと、何故か責められているような気分になる。


「やっぱり、無理なのかなあ」


 晧の発言に、俺と有太は思わず顔を見合わせた。何度も頭をよぎって、だけどそれだけは言わずに留めておいたであろうことを、とうとう口にしたのだ。


「駄目元ってところはあっただろ、そもそも」


 有太が言った。「一番役に立ってないおれが言うのも何だけど」


 「そんなことはないけど」律儀にそこは否定して、晧は自分の膝に顎をのせると俺たちを見た。「ああ、流星群とスタージェット、いい組み合わせだと思ったのにな」


「まだできないと決まったわけじゃない」


 反射的に俺はそう言い返してしまった。晧がうなだれるところを見たくなかった。


 らしくない発言に、晧だけでなく有太までもが意外そうに俺に目を向ける。すぐに後悔したが、一度口から出たことは取り消せない。


「あと一か月あるだろ。ぎりぎりまで粘るさ」


 仕方なくそう言うと、晧は小さく頷いて立ち上がった。「そうだよね。ごめん、僕もやれるだけやるよ」


 胸の中が苦みでいっぱいになる。有太が正気か? という顔でこっちを見るので、気付かないふりをした。


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