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有太の章 ボーイズ、夕闇を歩く(4)

 父ちゃんが思ったより早く寝入ったので、おれはベッドから抜け出し、散らかっているものを片付けてからまた寝室に戻った。


 平穏が早く訪れたのはありがたかったが、そうなると夕方に寝てしまったおれの夜は長い。連日バーで深夜まで過ごすから、まっとうな就寝時間には眠くなりにくいというのもある。


 まどろんでは目覚める、を繰り返すうちに朝になった。


 寝覚めは今ひとつすっきりしない。朝日は暴力的なまでに刺さるが、おれは外に出た。暗い場所にいるのに飽きたからだ。


 近所をうろついて帰ってくると、父ちゃんはもう起きていた。顔色が悪いが、これはいつも通りだ。


 どこ行ってた、という問いに散歩と答えたら、特になにも言われなかった。昨日のことは多分、記憶にないんだろう。


 妙に体があたたかいのは、眠いせいかもしれない。秋なのに、一人だけ春みたいだ。おれはゆっくり伸びをして、それから工場へ向かった。


 この日はあまり精密な作業がなかった。おれが調子悪そうなのを二人は感じ取っているようだったので、気遣いかも知れない。


 瀬戸は知らん顔をするが、晧は時折じっと見つめてくるのでなにを考えているのかすぐわかる。


 おれはそれに甘えることにした。言われた単純作業だけを請け負う。頭がぼうっとするので、深く考えなくてすむのは助かる。


「有太、これあげる」


 帰り際晧から手渡されたのは、薄いセロファンに包まれた小さな黄色の玉だった。


「なにこれ」


「琥珀玉だよ」


 おれの戸惑いを見てか、晧は「はちみつを固めたものだよ」と付け加えた。遭難時の緊急携帯食らしい。


「おれ、今、遭難してるのか」


「普段食べてもおいしいんだってば。僕の好物なんだよ。おすそわけ」


 はちみつを食べると疲れが取れるんだよ、と説明しながら晧は瀬戸にも渡す。瀬戸は興味なさそうだが、黙って受け取っていた。


「お前、なにかあったのか」


 晧が帰り、もらった琥珀玉を透かして眺めていると、唐突に瀬戸はそう言った。「動きがぎこちないな」


 昨夜、父ちゃんに蹴られた脇腹が打ち身になって、しゃがんだり立ち上がったりする時に多少痛むのは確かだ。


 だが、気づかれるほど顔をしかめたり、緩慢に動いているつもりはない。寝不足で動きが鈍いことへの指摘かも知れず、おれはあいまいに首を振った。


「それ、食っとけよ」


 瀬戸は自分がもらった分を投げてよこした。とっさに投げ返そうとしたおれに「いいから」とだけ言って、置いてあるバイクの前に座り込む。


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