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晧の章 ボーイズ、計画を立てる(2)

 きっかけは、工場裏のゴミ捨て場で反重力システムを拾ったことだった。


 反重力システムというのは、リニアやモノレール、エアカーなどに使われているエンジンの基幹部分のことだ。


 それ自体はちいさくて、僕の手のひらに載せられる小箱程度の大きさしかない。


 僕たちは興奮した。これは普通、その辺に落ちているようなものじゃない。


 それにどのメーカーも、剥き出しの反重力システムだけを売るってことは絶対にない。だからこれはかなり幸運な拾いものだった。


 「エンジンを搭載したキックボード」を作ろうとしていた僕たちは、この夢の小箱を手に入れて目標を変更した。


 すなわち、スタージェット計画だ。


 自由自在に、とまでは言わない。


 でも一定の高度を保って、ある程度の時間空を飛ぶことは可能かも知れない…自分たちがスタージェットに乗って街の上空を飛んでいるところを思い浮かべたら、僕はその光景が頭から離れなくなってしまった。


 がたつく横開きの扉をスライドさせて中に入ると、二人は工場の中央で何かを囲んで立っていた。僕は歩いていって、二人の間に立った。


「見ろよ、(コウ)


 有太(アリタ)が指したのは横たわったホバーカーだった。「これで主翼が作れるぜ」


 よく見ると、ホバーカーは機体だけだった。中の座席やエンジンは取り外されている。


「昨日、セントラルからもらった」


 瀬戸(セト)は機体の窓枠に指先でふれた。


「古い型だから要らねえってさ。処分にも金がかかるからな。使えそうだから引き取ったんだ」


「…これ、フィルド繊維だね」


 僕もふれてみた。なめらかで、水面を撫でているようだ。色はコバルトブルー。


「ずっと昔、飛行機のために開発されたものだ。これなら空を飛ぶのに相応しいよ」


 主翼の素材は、僕たちの二番目の懸案事項だった。


 鉄やステンレスの類は簡単に手に入るけど、重いからスタージェットには向かない。軽金属のみだと軽すぎてエンジンを支えられない。反重力システムは他の物質より比重がかなり重いからだ。


 そして、それ以外の僕たちが思いつくようなものは高価で、たくさん使うのは難しい。


「加工に苦労しそうだけどな」


 瀬戸が僕と有太を振り返った。「でもその前に採寸しようぜ。前に描いた図面、持ってくる」


 工場の奥にある作業室に駆けていく瀬戸を見送って、僕と有太はどちらからともなく手を伸ばした。


 フィルド繊維は金属っぽい見た目の割にあまり冷たさを感じない。さわった感じはまるでプラスチックだ。


 「これで一歩、進んだな」


 有太は機体から手を離すと、僕に笑いかけた。「前に言ってただろ、遊園地の上って。あれからおれもそれを楽しみにしてるんだ」


 僕は身体が音もなく浮き上がったように感じた。


 大事に温めていた思いを、でも恥ずかしくて何気ない思いつきのふりで言ったことをちゃんと覚えてくれているんだと思うと、足元までもふわふわする。


「まあ、実作業となるとおれ、全然役に立たないけどな」


「単純作業くらい、できるだろ」


 戻ってきた瀬戸が、肩をすくめる有太をにらんだ。「晧がいるうちに手伝えよ」


「おれ、楽器より重いもの持ったことないよ」


 有太はそう言ったものの、瀬戸に手渡された計測器を持って機体のそばに寄ろうとする。僕も二人に並んだ。

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