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お母さんと一緒に異世界へ

作者: ダメダメ

 日曜日の午前中、近くのスーパーまで一緒に買い物に出かけた母さんが満面の笑みを浮かべながら僕の手を握っていた。


「うふふ、雄ちゃんとデートみたいで楽しいわぁ!」


「ちょっと母さん恥ずかしいよ」


「照れちゃって可愛いわぁ!」


 母さんは嬉しそうに垂れ目を細めて繋いだ手の指を絡めてきやがった。


「ちょっと母さん、これ恋人繋ぎだよ?」


「いやぁーんっ、雄ちゃんの恋人だと思われたら母さん困っちゃうわぁ」


「ねえねえ、母さん聞いてる?」


「うふふ!」


 こんな感じで母さんは僕のことが大好きなんだ。息子ラブが止まらないって感じで困ってる。


 僕ももう高校生なのに母さんはベタベタ抱き付いてくるし、一緒にお風呂に入ろうとするし、朝目が覚めたら隣に寝てることさえある。僕が学校に行くときは必ず『いってらっしゃいのチュー』をするくらい僕が好きで好きで大好きなんだ。息子愛が半端じゃない。


 まあ、母さんはキュートな垂れ目が可愛いくてオッパイもデカくい。正直に言うとベタベタされてもそんなに悪くないと思ってしまう僕もマザコン気味だった。


 あっ、ちょっと母さん、手を離したと思ったら今度は腕組みなの? ニマニマ笑いながら必要以上にオッパイ押し付けてこないでよ。僕を誘惑してるの? 僕達は親子なんだよ、親子なんだってば!


 そのとき、凄いスピードで大型トラックが横断歩道に突っ込んで来やがった。


「危ない母さん!」

「雄ちゃん!」


 僕と母さんは互いを庇い合うように抱き合って大型トラックに跳ね飛ばされた。



****


「起きて起きて雄ちゃん!」


 ガクガクと揺り動かされて目が覚めると、母さんが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。


「あれっ、母さん!?」


「大丈夫? どこか痛くない?」


「うん、どこも痛くないよ。母さんは?」


「母さんも大丈夫なんだけど……」


 トラックに跳ねられてあれは絶対に死んだと思ったのに二人とも擦り傷も無無かった。起き上がって見ると、どこともしれない古臭い六畳間の畳の部屋にいた。カーテンの無い窓の外は暗く、天井から吊り下がった裸電球の灯りが僕と母さんを照らしている。


「ここはどこ?」

「気がついたらここにいたの」


 窓から見えるのは暗闇で、窓の外を眺めても何も見えなかった。


「ここどこなんだろ?」


「雄ちゃん、誰か来るわ!」


 ペタペタと足音がして部屋の襖がスッと開いて赤いスゥエットの上下を着た長い髪の女が部屋に入って来た。


「えーっと、よくある異世界転生ってやつです。はいこれ転生特典のカタログ、さっさと選んでね」


 異世界転生!?


 女は僕達の前に分厚い辞書のような本を置くと、「ああっ怠いわぁ」と言いながら畳の上に女の子座りで座った。


 僕達の前に置かれた本の表紙には『異世界転生特典カタログ』と書いてある。


 えーっ、マジで異世界転生なの?


 異世界物のアニメは幾つかみたけれど、目の前に座っている二十代後半くらいで美人って程でもない目付きの悪いダルダルなスゥエットを着た休日のOLみたいな女が転生のときに現れる女神さまなのだろうか?


「えっと女神さまですか?」


「うんまあそうよ」


 なんだかアニメで見た女神さまと随分と違うなあと思ってたら、女神さまが僕をジロリと睨んだ。


「あーっ、その顔は神秘的で美人な女神とか、ポンコツ可愛い女神とかを期待してた顔でしょ?」


「いや、そんな!?」


 女神さまはぷりぷりと怒り出した。


「怠いわぁ、マジで怠い! ああいう女神はね、ほんの一部、限られたほんの一部の大手だけなの! 私らマジで迷惑してるんだから、ああいう女神が普通だと思わないで欲しいのよ。なんなのよもーっ!」


「えっあっ?なんかすいません!」


「うんまあ、わかれば良いのよ。さっさと転生特典を選んでくれる? この後、彼ぴとデートなのよ」


 女神さまは不機嫌そうな顔でカタログの表紙を指先でトントンと叩いた。


「女神さま、転生って異世界で赤ちゃんからやり直しなんですか?」


「ああ、あれは面倒だからやらないわ。今の姿でポーンと転生よ。転生ってか転移? まあどうでも良いけど」


 なんだか凄い雑だなあ!


「ねえねえ、異世界とか転生とかって、どういうことなの雄ちゃん!?」


 話について来れてない母さんがオロオロしながら口を開いた。


「あのね母さん、僕達これから違う世界に行くみたいなんだ。たぶん元の世界には戻れない」


「えっ、異世界ってそんな……」


 母さんは驚いた顔をした後、眉毛をキュッと寄せた険しい顔をした。


「異世界って、二人で外国旅行に行くみたいな感じ?」

「ううーん、まあそんな感じかなあ」


 ありがちな異世界転生だったら中世ヨーロッパっぽいだけで味噌や米も普通にありそうな気がするし、洋式トイレもありそうだ。言葉も通じるだろうし、気軽な外国旅行と変わらないかもしれないな。


「雄ちゃん、とても大事なことなんだけど、私達が親子だって誰も知らないところに行くのね?」


「えっ、まあそうだね」


「あらあら、あらあら!」


 母さんはニマッと笑うと満足げに頷いた。


「良いわ、異世界に行きましょう。さあさあ異世界にレッツゴーよ! 雄ちゃんさえいれば元の世界なんてどうでも良いわ!」


「ええっ、母さん!?」


 僕が困惑していると真剣な顔で母さんが僕の手を握りながら言った。


「雄ちゃん、異世界では親子じゃなくて恋人同士ってことにしましょう!」


「えっ、なんで!?」


 母さんは僕を諭すように話し出した。


「えっとね、うん、ほら、母子だといろいろまずいのよ、倫理と道徳がうるさいの。カード会社はもっとうるさいわ。母親と年頃の息子が二人っきりで旅行に行くなんてもうアバンチュールでしょ? 甘く危険な誘惑の匂いでプンプンでしょ? 異世界に行くなんてもう母子二人で温泉旅行に行くどころじゃないのよ、もう危険どころじゃないからね? だから親子じゃなくて恋人同士ってことにしておけば歳がちょっと離れたカップルって事でいろいろ大丈夫なの。歳の差カップルなら何があっても不自然じゃないし、何かあるくらいが自然なの。親子だとダメな事だって恋人同士なら何をしてもOKなのよ、恋人同士ならチューしてもハグしても一緒に寝ても全然OKでしょ? さあさあ、早く異世界に行って母さんと恋人同士になりましょう。はぁはぁ、雄ちゃんと恋人同士っ! 母さんが雄ちゃんの彼女だなんて、あぁーん! ああっ、ああっ! そして恋人から夫婦に、はぁはぁ、そしてそして! はぁはぁ、はぁはぁ、ああっ、ああっ、雄ちゃん、雄ちゃぁぁぁーんっ!」


「落ち着いて母さぁーん!?」


 まさか、母さんガチで息子ラブ?


「もーっ、さっさと特典選んでよ。そうしたらすぐに異世界に送るから。息子さんはどうせ『鑑定』でしょ?」


 眉間に皺を寄せた女神さまがイライラとカタログを指先でトントンと叩きながら勝手に話を進め出した。


「はい、鑑定で良いです」


 鑑定と言えば、異世界転生の定番スキル。これがあればとりあえずは大丈夫だろう。


「じゃ、『鑑定』で決まりっと。奥さんも『鑑定』で良い?」


 奥さんもビールで良い? みたいなノリはなんなの? そんなので転生の女神って務まるの?


「えーっ、雄ちゃんもう決めちゃったの? 母さんは何にしようかなー」


 母さんもファミレスで料理のメニューを選んでるみたいなノリでカタログのページを捲らないでよ。


「あらっ、魔法もあるのね」


「主婦に大人気の『どんな油汚れも一発除除去の魔法』なんてどう?」


「あらあら、そんなのあるの!?」


「待って、母さんのスキルは僕が選ぶから!」


 女神さまがスキルと聞いて怪訝な顔をした。


「はぁーっ、スキルぅ? もーまた、そういうのは大手だけだからね。普通はスキルなんて高価で手間がかかる物は扱ってないんだからね」


 えっ、スキルじゃないの?


「はぁっ、最近こういうのが多くてマジで怠いわぁっ」


「転生特典のスキルじゃない!?」


「そうよ、ただの転生特典よ」


 心配になってきた僕は「鑑定!」と叫んでみたけどなにも起こらない。


「それね、自分が知ってることしか鑑定出来ないから。いっぱい勉強して知識を増やしてねー、ぷぷっ!」


「なにそれ!?」


 うわーっ、なんだそれ!? ハズレスキルどころか僕のはスキルでもねーじゃねーか!


「これなんなの?」


「だから転生特典よ。バイトの私はなにも知らないわ。奥さんもう選んだ?」


「もう少し待ってもらえる? 母さんはなんにしようかなー」


「もう早くしてよねー」


 女神さまはポケットから電子タバコを取り出して一服しながらスマホを弄りだした。大丈夫かな母さん、変な特典を選んだりしたら僕が止めなきゃ。でも変な特典しかない気がする!


 そんな感じで女神さまが一服し終わった頃、母さんも特典を決めたのかカタログのページを指差しながら元気よく言った。


「うん、よく分からないから全部で」


「はいはい、奥さんは『全部』っと」


 えーっ、それありなの!?


「それじゃあ、逝ってらっしゃーい」

「ちょっと待ってー!」


 赤いスゥエット姿の女神が手を振ると、次の瞬間、目の前にいかにもファンタジーに出てきそうな巨大な赤いドラゴンがうずくまっていた。


****


 母さんと一緒に異世界転生したら、いきなりドラゴンに遭遇した。羽と角の生えた二十メートルはありそうな巨大な赤いドラゴンは僕達を見るとのっそりと起き上がった。


「うわぁっ、母さん!?」


「ひぃぃっ、雄ちゃぁーん!」


 僕は母さんの手を引いてドラゴンから逃げ出した。周りは石ころしか転がってないような荒野で何処にも隠れられそうなところは見当たらない。


「いやぁーん、親子で愛の逃避行ね♡」


 母さん、余裕あるなー! 走りながら振り返って見るとドラゴンが僕らに向かってゆっくりと這って近づいて来る。長い舌で口の周りをベロベロ舐めていて、ちょっと小腹が減ったから人間でも食べようかなーって感じだった。


 くそっ、隠れられるようなところも無いし、僕も母さんもサンダル履きだ。このまま走ってドラゴンから逃げ切れるとは思えない。


「そうだ、母さん特典の魔法は使えないの?」


「えっ、魔法? 母さん難しいことはちょっと……あんんっ、こうかしら?」


 母さんは立ち止まるとドラゴンに右手を向けて「うーっ!」と唸った。


「あっ、あれ? 何これ? お腹の奥からなにかが……あっあぁん、あぁーん! あはぁん! 雄ちゃぁん!?」


 頬を赤く染めた母さんがお腹を押さえて身悶えた。なにが起こってるの?


「母さん、魔法使えそう?」


「はぁはぁ、うん出そう、魔法が出そう。雄ちゃん怖いから母さんと手を繋いでて」


「うん!」


 母さんと手を繋ぐとじっとり汗ばんでいた。魔力的な何かが母さんの身体を駆け巡っているのだろうか?


「あっ、あぁっ、やだっ、あんんっ! あっ、ああっ、出ちゃう、何かが出ちゃう、出ちゃううぅーー!」


 いかがわしい声をあげながら母さんがドラゴンに右手を向けたまま叫んだ。


爆散バーストっ!」


 母さんの手が光ったり魔法陣っぽい紋様が現れることも何も無かったけど、のそのそ這っていたドラゴンの大きな身体がボバンッと凄い音を立てて内側から爆発したように砕け散った。


「うわぁーーっ!?」


「きゃぁーーっ!?」


 ドラゴンは爆散して死んだ。


 飛び散ったドラゴンの血と肉片がびちゃびちゃと荒地に撒き散らされて、もう少し近ければ僕達も血塗れになるところだった。


「えーっ、なになに今の何っ!?」


「えっとね、相手が爆発して死ぬ魔法よ」


 母さんがいきなりエグい魔法を使えるようになった。


「爆発して死ぬぅ?」


「うん、なんとなくそんな感じ」


 母さんも良くわかってない感じが不安感を煽る。あのデカいドラゴンを一撃で爆殺ってどういうことなの?


 そうか、転生特典で母さんのステータスが凄いことになってるのかも!


「ステータスオープン!」


 叫んでみたけど何も起きない。


「ステータスオープン!」


 やっぱり何も起きない。


 もしかしてスキルと同じようにステータスオープンが出来るのもごく一部の恵まれた異世界転者だけなのだろうか? 一般庶民の異世界転生はステータスオープンさえも無いのか……


 どちくしょう、ハズレスキルどころか、スキルもチートもステータスオープンさえも無しかよっ!


「何やってるの雄ちゃん?」


「ううーん、ステータスが見れれば自分の強さがどれくらいか分かるハズなんだけど、なにも起きないんだ」


「ふーん」


 母さん全く興味なし。


「母さんはお腹が空いたわ」


 そして超マイペース。


「うんまあ、お昼の買い物に行く途中で異世界に転生しちゃったもんね……」


 ここは石ころしか転がってない異世界の荒野のど真ん中、食べる物など見当たらない。母さんはドラゴンの砕け散った死体に恐れることもなく近づいて大きな肉片に目を止めた。


「ねえ雄ちゃん、これなんか赤身で牛肉みたいな感じだし焼いたら美味しそうなんだけど」


「母さんドラゴンを食べる気なの?」


「うん、お腹減ったからこれをお昼にしましょう。えっとこうかしら、強火ウェルダンっ!」


 母さんが両手をドラゴンの肉片にかざして呪文らしき言葉を叫ぶと、肉片が大きな炎に包まれた。母さんの手が光ったり魔法陣が出たりとかは一切なかった。


「それも魔法なの?」

「えっとね、たぶん魔法、かな?」


 母さんが強力な魔法を良くわからないまま使ってるのが恐ろしい。


「なんとなくね、お腹の奥にジワジワって温かい物が広がっていく感じがしてから魔法が心の中に浮き上がって来るの。あっ、いまね『熱核攻撃ソロモン』と『小惑星落とし(アクシズ)』って凄そうな魔法が浮かんできたんだけど使ってみるね」


 止める間も無く母さんが地平線に両手を向けると呪文を叫んだ。


熱核攻撃ソロモンっ!」


「あぁーっ!?」


 地平線の彼方にピカッと太陽のような閃光が輝き、それが消えると大きな爆煙が上がったのが見えた。


 えっ、ちょっと、マジで大爆発してない? マジで熱核攻撃なの!?


「あらあら!」


「あらあらじゃないから! その魔法は絶対に使用禁止ーっ!」


 母さんは大人しく頷いた。爆心地に街とか無ければ良いんだけど……


「そう言えば、もう一個凄そうなのがあったよね?」


「『小惑星落とし《アクシズ》』のこと? これ凄いのよー、水爆300万発の威力があるみたい」


「それも使用禁止!」


「えーっ!?」


 サンダル履きでご近所のスーパーまでちょっとお買い物みたいなエプロン姿の主婦がなんでいきなり戦略兵器より凄い魔法が使えるんだよ、最初はもっとこう小さい火の玉がポンと出るとかじゃないのかよ、ポンって感じでさあ!


 なんて恐ろしい。幼児が核ミサイルの発射スイッチ持ってるようなもんじゃねーか!?


「そうそう、魔法以外にもこんな特典もあったのよ」


 母さんは両手を頭の上に上げて叫んだ。


「『季節のフルーツ盛り合わせ』を発注オーダー!」


「それが転生特典!?」


 何処からともなく女の人の声が聞こえた。


『注文を受け付けました。お届けまで一週間程度かかります』


「あらっ?」


「……何処から届くんだろうね」


 転生特典のカタログって女神様は言ってたけどさ、異世界転生でギフトセットみたいなのを選ぶやつがいるのだろうか?


「お届けまで一週間かあ、ここで待ってるのも嫌だし、フルーツ盛り合わせは残念だけど諦めるわ……」


「あんな特典がいっぱいあったの?」


「そうね、ギフトっぽいのがいっぱいあったわ」


 あれか、転生特典のカタログを厚く見せるために適当に特典っぽいものを載せて水増ししてるんじゃねーだろうな?


 ドラゴンの肉が焼ける凄い良い匂いがして、僕と母さんのお腹がグーっと鳴った。


「焼き加減を確かめたいんだけど。えーっとこうかしら? むむーっ、雑貨生成デラ・ヒャッキン!」


 母さんがしゃがんで地面に向かって手のひらをヒラヒラと振ると、地面から金属製のナイフとフォークがニョキニョキと沢山生えてきやがった。


「そんな魔法もあるの!?」

「凄いでしょー!」

 

 どんな魔法や特典があるのかわからないから、転生特典のカタログをもらってくれば良かったよ。


 母さんは恐る事なく地面から生えたナイフとフォークで焼けたドラゴンの肉を切り取って食べた。


「うふふーっ、凄い美味しいわよ!」


「うわっ、美味しぃーっ!」


 僕も食べてみたけどドラゴンの肉は凄く美味しかった。固いところもあったけど柔らかいところは口の中で蕩けるようで脂が甘くて凄い美味い。


「ドラゴンってこんなに美味しかったのね。うふふっ、またやっつけましょうね!」


「うっ、うん!」


 ドラゴンのお腹いっぱい食べて地面に座り込んでいると母さんが両手を上げて伸びをしながら大きなあくびをした。


「お腹いっぱい食べたら眠くなっちゃった」


「母さん呑気だなあー」


「眠いから抱き枕が欲しいわぁ……」


 母さんがニヤニヤしながら僕ににじり寄って来ると、飛びかかって来やがった。


「雄ちゃぁーん♡」


 地面に押し倒されて、ギューッと抱きつかれた。ちょっと母さん!?


「あっやだっ、母さん汗臭くない?」


「肉の焼けた良い匂いしかしないよ」


「うふふっ、ぎゅぅーっ!」


「もがっ!」


 母さんがデッカいオッパイを僕の顔を押し付けてくる。焼肉の匂いに混ざって母さんから良い匂いがするんだけど、ああっ、ああーっ!


「異世界良も良いわね、誰に気兼ねもなく息子☆ラブ出来るなんて夢みたい!」


 湿った熱気を放つ母さんが僕の頭を胸に抱くようにしてムチムチした身体でギュゥギュゥと抱き締めながら嬉しそうに言った。


「あぁぁぁーん、雄ちゃん、雄ちゃぁん、雄ちゃぁぁぁーん!」


「母さん暑い暑いよ、ちょっと離れてよ!」


「うふふ、離さないわよー!」


「もがーっ!」


 なんとかオッパイから脱出して二人で仰向けに地面に寝転んだ。目の前に広がる異世界の空がやけに高く感じられた。


「もう元の世界には帰れないの?」


「うん、多分……」


 母さんが僕の手を握ってきたので握り返した。


「母さんは雄ちゃんがいるから何も怖くないわ。なんとかなるわよ!」


「……うん、そうだね母さん!」


 親子で手を繋いで異世界の青い空をしばらく黙って見上げていた。


「ねえ雄ちゃん……」


「なあに母さん?」


「ドラゴンがいっぱいいるところに行ってみようよ。今度は煮たりカレーに入れたりして食べてみたいわ。異世界にカレー粉や生姜はあるのかしら?」


 何処までも続いてそうな異世界の空の下、もうドラゴンを食材としか思ってない母さんがいればなんとかなりそうな気がした。



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