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エナジクト──漆黒のバーサーカーと至高の最弱ヒーロー  作者: ノミオ
第一章──どうしようもない現状と、運命の出会い
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ギラギラ-8

思わず顔を上げて前を見る。数メートル先に、白い日傘が咲いていた。その日傘がくるりと翻り、声の正体が姿を現す。

繊細な指先で日傘の柄を持ち、エレガントなワンピースに身を包んだ女の人。


数メートル離れていてもはっきりと分かるほど、美しい人だった。


目が合うと、その女の人がこちらに歩いてくる。


雪のように白い肌。長い睫毛に囲われた、聡明さを秘めた紫がかった瞳。すっとした鼻。桜色の唇。清楚で高貴なワンピースから覗くすらりとした手足。

銀糸のような長い髪は、陽の光を吸い込んで、少女漫画のヒロインみたいにキラキラと粒子を振りまいていた。


年齢は多分、私より少し歳上。22、3歳くらいだろうか。


この世の人間の憧れの全てを詰め込んだような、女神が存在するというなら、きっとこんな見た目をしているのだろうと確信してしまうような。

完璧で一点の曇りもなく、十人いたら十人が振り向くだろうと、たった今目にしたばかりの私ですらそう確信するほどの、美人だった。


すごい。こんな綺麗な人、本当に存在するんだ……。

クラスメイトにエランの子がいたりするけど、段違いというか……ひょっとして、モデルさんか何かかな?


立ち尽くして見惚れる私の前に、女の人が立ち止まる。そしてにこりと微笑んだ。


「こんにちは、刃金哀ちゃん」


「え……どうして私の名前を?」


「さあ? なんでだろうね?」


女の人が微笑みながら首を傾げる。

なんだろうこの人。ちょっと変わった人なのかな。

女の人は瞳をきょろりと動かし、私の顔をじっと見つめて言った。


「その顔の火傷跡、どうしたの?」


「え?」


ぎくりとして私は思わず右頬の火傷痕を押さえ、そして思い至る。

私の顔は、黒くて長い前髪で完全に隠れてしまっている。このお姉さんからは見えてないはずだ。


「可哀想に、痛かったでしょう? ……もっと早く迎えに来てあげられたら良かったんだけど」


「貴女、何言って……」


動揺している間に、白く繊細な指先が私の顔に伸びてくる。そしてその指先が、そっと私の右頬の火傷痕をなぞった。

ハッとし、慌ててその手を振り払う。


「……何なんですか、貴女」


「私はね。哀ちゃんを迎えに来たの。救いに来たと言ってもいいかもしれないね」


「私を……救いに?」


この人、さっきから言ってることがずっとおかしい。もしかしたら宗教勧誘の人なのかも。逃げなきゃ。


「あ、あのっ私、もう帰らなくちゃだからっ……失礼しますっ!」


そう言って足早にお姉さんの横を通り過ぎようとした。その時だった。


「あなたは、この町でずっと生きていくの?」


その言葉に、私の足はぴたりと止まった。思わずお姉さんを振り返る。するとお姉さんは言葉を続けた。


「私の人生は辛いことばかりだ。もうこんなの嫌だ。何もかも捨てて、何処か遠くへ逃げてしまいたい。そんな風に思ったことは?」


「……いや、そんなの、お姉さんには関係ないじゃん」


何なのこの人? 急に訳分かんない事ばっかり……苦手だな。こういう人。


そりゃそんな風に思ったことくらいあるよ。というか、そんな事ばっかりずっと考えてきた。

当たり前じゃん。誰にも優しくされずに、愛されることもなく生きてきたんだから。


きっとこのお姉さんは自分が綺麗だから。エランだから。何を言ったって受け入れてもらえるって自信があるんだ。

そうでないと、こんな意味不明なことを平然と人に言ったりなんか、普通できないよ。


そう思っているはずなのに、私はお姉さんを振り切る事ができず、ただひたすらその言葉の続きを待っていた。


「私なら、あなたをここから連れ出してあげることが出来る。こんな全てが誰かの思惑通りに動いてしまう腐った世界でも、自分で自分の運命を切り拓ける力を与えてあげることが出来る」


「自分で、自分の運命を……そんなの、どうやって」


「エナジクトのホルダーになるの」


お姉さんは、長い前髪で隠れて見えないはずの私の目をまっすぐ見つめ、はっきりとそう告げた。

エナジクトのホルダー。その言葉に、心臓がドクンと高鳴る。


「哀ちゃん。私と一緒に来て」


「……でも、無理です。私なんかが、ホルダーになるなんて……」


「なれるよ絶対。哀ちゃんなら、絶対大丈夫」


「…………」


「さあ、おいで」


お姉さんは柔らかくそう言って、私に向かって掌を差し出し、にこりと微笑んだ。


自分の中の何かが、大きくぐらつくのを感じる。

全然意味分かんないのに。怪しさ100パーセントなのに。だけど、お姉さんの言葉を全て信じてしまいたい。ついていきたい。


その手を取ってしまいたいと、衝動的にそう思ってしまった。


気が付いたら私は、まるで磁石に吸い寄せられるように、差し伸べられた白い掌へと手を伸ばしていた。

手と手が触れ合いそうになった瞬間。


チリンチリン!


「っ!」


私達の真横を自転車が通り過ぎる。私はハッとし、慌てて手を引っ込めた。


「ご、ごめんなさい。わたし……急いでるのでっ!」


お姉さんに深々と頭を下げ、私は逃げるようにその場を後にした。



何なんだろうあの人。まだ心臓がドキドキしてる。綺麗だけど、どこか官能的で、怪しい雰囲気があった。

あの透き通る紫色の瞳に見つめられると、つい言う事を聞いてしまいそうで、怖い。


ああ、心臓がうるさい。あの人の顔が頭に焼き付いて離れない。



この気持ちは──なに?


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