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エナジクト──漆黒のバーサーカーと至高の最弱ヒーロー  作者: ノミオ
第四章──普遍的な愛なんて、この世に存在しないのかな?
78/80

マザードラッグ──4

「……その話、信じる証拠は?」


睨みつけて問いかけると、少女は不敵に笑ってソファに座り直した。


「アイちゃんの情報を色々聞き出しちゃったし、わたしも特別にいっこだけ教えてあげる。わたし、もう任務は達成してるの。ひとまずママに言われてた分の子宮は集め終えた。だからこれ以上の仕事をするなら、『サービス残業』ってかんじ? つまりこれからどうするかは、『わたし次第』ってこと。でもさ、任務が終わっちゃったらわたし、また一人の世界に戻っちゃうじゃない? それはさみしいなぁって……だから、暇つぶしに、アイちゃんに遊び相手になってもらおっかなって話」


「……遊び相手?」


「アイちゃんがこの話を受けてくれるなら、わたしはもう子宮集めをしないし、あなたの仲間に攻撃もしない。約束するよ。新しい被害者を出さずに済む上に、わたしの動向を監視することができる。アイちゃんにとって、悪い話じゃないと思うんだけどなぁ?」


話を信じるなら、確かにこの子の言う通りだ。

よく分からないけど、この子はなんだか私のことを気に入ってるみたいだし。それに仲良くなっていくことで懐柔できて、説得できて、逮捕できる可能性だってある。

まともに戦って勝てないんだ。この話、乗らない手は無いのかも。


「……わかった。あんたの友達になってあげる。ただし条件はつける。私の仲間には一切手は出さない。人を殺さない。これは絶対に飲んで」


「ふふ、分かった。じゃあ契約成立ね。これからよろしく、アイちゃん?」


「そういえば、あんたの名前は?」


「名前? わたしはね──」



「……がね……刃金!」


突然の声にハッとし、顔を上げる。目の前には腕組みした永月が立っていた。しかめっ面で、メンチを切るみたいにこちらを睨んでいる。


「何をぼーっと突っ立ってやがんだ? 待ち合わせ場所に来ねぇから探す羽目になっただろうが。やる気ねぇなら帰れクソ野郎」


「あ……ごめん」


あれ? そうか待ち合わせ……ってちょっと待って、私、さっきまで何してたっけ?

……いや、それは嘘、ちゃんと覚えてる。さっきまで私、アンユータラス事件の犯人と話してた。

なぜだろう。記憶が消されてない。これ、チャンスなのかも。


「ねぇ、永月。さっきわたし、犯人と──」


そこまで言いかけて言葉を止める。

ちょっと待って。あの子は私の記憶を操作できるはず。記憶をあえて残したのだとしたら、こんな事話して大丈夫かな?

もしかしたら何処かで監視しているかもしれない。視えてないだけで私の隣にいる可能性だって──。


「犯人がどうした? はっきり言えよグズ野郎」


「……ごめん。何でもない」


「チッ! 余計な口きく暇あったらさっさと動け。行くぞ」


「うん」


永月は苛立った様子でCBDを取り出し、吸いながら歩き出した。

あの子、永月とも接触してる可能性がある。確かめたいけど、迂闊なことは言えない。

なんだか常に監視されているような気がして、それからずっと居心地が悪かった。



「ん~! やっぱりここのショートケーキおいしー! タクシーのおじさんにここまで連れてきてもらってよかった~。ね? アイちゃん?」


ヘーゼルナッツ色の丸い瞳がこちらに問いかける。

謎のロリータ美少女、もといアンユータラス事件の犯人が、私に問いかける。

気がつけば私は見知らぬカフェにいて、目の前で少女がケーキを美味しそうに頬張っていた。


状況的に、一緒にティータイムを過ごす友達として呼び出されたらしい。

ここは何処なんだろう。また高校生には不釣り合いな感じの高級なお店だ。


「アイちゃんどうしたの? 食べなよそのホールケーキ。それ、アイちゃんが自分で選んだやつだよ?」


「……うん。いただきます」


無意識状態で自分で選んだらしい苺と生クリームたっぷりのホールケーキに、私はフォークを入れた。

食べてみる。すごく上品な甘さが口の中に広がり、当然のように美味しかった。


「ねえねえ? どう? おいしい?」


「……うん。おいしいよ、すごく」


「そっかぁ~。ふふ、アイちゃんよろこんでくれたぁ。連れてきてよかったぁ~」


少女はテーブルに頬杖をつき、にこにこと上機嫌に言った。その笑顔に、引きつりつつもなんとか笑みを返す。


この状況、私ほんとにやばい気がする。誰にも助けを求めることもできないし。

……でも、なんとかしなきゃ。だって私、6課の人間だもん。冬華に頼まれたんだもん。

現状この子を6課に連行するのは不可能。

だったら──。


私は笑顔を貼り付け、努めて明るい声で問いかけた。


「ねぇ、あなた名前なんていうの?」


「へ?」


「聞いてなかったでしょ? 友達になるんだから、知っておきたいなぁ~と思って」


「えー……なまえ?」


女の子はなぜか即答せず、首を傾げる。そして口元に指先を添え、桜色の艷やかな唇がゆっくりと開く。その拍子に、白く輝く歯が見えた。

綺麗に揃った歯列だけれど、全ての歯の先がやけに尖っている。まるで犬のそれだ。


その珍しい造形に見惚れていると、次の瞬間、がぶりと、鋭く尖った歯が指へと食い込んだ。

甘噛ではない。確実にその歯は、指の皮膚を貫通していた。


「……は?」


呆気に取られて、間抜けな声が口から漏れる。

少女はこちらを気にする様子もなく、一切の加減なく、ぎりぎりと自らの指を噛み締めている。

ぼたぼたと血が流れ落ち、彼女の白いドレスを汚し、ついにはばき、となにかが割れる音が聞こえた。


「ちょっ……何やってんの!?!?」


思わず立ち上がり少女の腕を掴んで口元から引き剥がす。予想通り、血だらけの指は骨が見えていた。

少女は口元を赤く汚したまま、ぽかんとした顔で私を見上げた。


「あえ? ……アイちゃん?」


「まじで何やってんの! こんなに血が出て……ほらっハンカチ!」


スカートのポケットからハンカチを取り出し、傷口に押し当てる。出血の量が多すぎる。白いハンカチがすぐに真っ赤に染まった。

すると少女は目を丸くして私を見つめ、そしてけらけらと笑った。


「あはははっ!」


「何がおかしいの!? 笑ってる場合か! 早く病院行こう!」


「大丈夫。だって私、ナチュラルだもん。あなた達ホルダーと同じように、このくらいの傷なら治癒できるよ?」


「え?」


その言葉の通り、少女の指はみるみるうちに治っていった。

指先に押し当てていた白に戻ったハンカチを、少女は手に取り、膝の上で丁寧に折りたたむ。そして心底幸せそうに頬ずりした。


「うれしいなぁ。アイちゃん、わたしのこと心配してくれたんだぁ~……ねぇ、これ貰っていい?」


「……いいけど」


こいつ、やっぱりイカれてる。

演技だとしても仲良くはなれそうにないな。


「わたしの名前かぁ~。そんなの知りたいの? アイちゃん」


「え? うん……まぁ」


「ポチ」


「え?」


「ポチ。わたしの名前……正真正銘、本当の名前だよ?」

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