マザードラッグ──2
「孔雀さん!?」
「ごめんごめん。道に迷った~」
「……何してたんですか?」
「そんな怖い顔すんなよ秋人。俺には俺の仕事があんの。それに、ちゃんと間に合っただろ?」
永月は孔雀さんを鋭く睨みながらも、「助かりました」と小さく礼を告げた。
「あの……手に持ってるその拡声器は?」
「ああ、これは俺のエナジクト」
孔雀さんはいつも通りのへらへらした様子で拡声器を見せてくる。その紫色の拡声器は、よく見るとデザインが独特で、禍々しいオーラを纏っている。
もしかして、このETが静止してるのは孔雀さんの力?
「な~んか随分手こずってるみたいだな? お前らの成長のために、ここは手を出さずにいるべきかとも思うが、さっさとさっきの飲み屋に戻りたいし……しゃーない。ここは先輩である俺がやってやりますか」
孔雀さんがやれやれといった様子でメガホンを口元に当てた。
『飛べ』
孔雀さんが言葉を発した瞬間、目の前にいたETが空中へと舞い上がる。
それは自身の意志ではなく、見えない力で引き上げられるような不自然なものだった。
『ガ……ア……ッ』
ETは相変わらず身動きが取れないようだ。唖然としながら空中に浮かぶETを三人で見上げていると、孔雀さんが声を上げた。
「あ、そうだ。誰かコントロールXよろしく。今からこの辺一帯、めちゃくちゃになると思うからさ」
「はいっ!」
すぐにコントロールXで異空間を展開する。孔雀さんは周囲に人がいなくなったのを確認し、表情を引き締める。そして再びメガホンを構えた。
『地に堕ちろ』
言葉の通り、ETが落下する。下にあるビルへと叩きつけられ、ビルを破壊しながら地面へと叩きつけられた。
バキィ! と音を立てて地面にETがめり込み、地面に数十メートル四方の大穴が空く。
孔雀さんが歩いていき、その穴を覗き込む。冷静な視線でETの様子を観察し、呟いた。
「なるほど、結構硬いな。何回かその辺にぶつけてみるか」
孔雀さんは呟き、すいと指を持ち上げる。するとそれにつられたように、ETの巨体が再び宙に浮く。
「オラ」
孔雀さんが指を軽く振ると、ETの身体が吹っ飛び、ビルに叩きつけられた。
叩きつけられたビルがバキンと折れ、ETが『ギャアッ!』と悲鳴を上げる。
「じゃあ、もっと強い言葉を使うか」
大穴の中でピクピクと痙攣しているETに向かって、孔雀さんがメガホンを構える。
『潰れろ。完膚なきまでに、一切の容赦なく──潰れろ』
グシャアッ!!!
プレス機で空き缶がそうされたみたいに、ETの巨体が一瞬にしてぺしゃんこになる。当然ETは動かなくなった。
ふうーと一息つき、孔雀さんは手の持っていた酒をあおる。そしてゆるい笑みを浮かべ、こちらを振り返った。
「終わったよ」
「あ……ありがとう、ございます」
唖然としながらコントロールXを解除し、私は感謝を述べた。他の二人もあまりの圧倒的な力量差に呆然としているようだった。
「んふふ、びっくりしただろ~? これが俺の能力。声で任意の相手に命令して、自在にコントロールできるんだ」
「すごい……孔雀さんってほんとにSランクなんですね」
「え~? もしかして疑われてた? ショックだなぁ全く……あ~さっきので結構力使っちまったな。飲まねぇと」
孔雀さんは手に持っていた缶を呑み干し、次の缶ビールを取り出しあおる。まるでガス欠になった車にガソリンを給油するみたいにぐびぐびと。
既に三本目を飲み干そうとしていた。
「もしかして孔雀さんのエナジクトの代償って、お酒を呑むことですか?」
「そーそー。だから俺は公務中でも、酒呑むの許されてんの」
「なるほど。ちなみに今回の戦闘だと、どのくらいお酒を飲まなきゃなんですか?」
「んーさっきのだと……缶チューハイ1本分?」
「「「やっぱりただのアル中じゃねーかッ!」」」
「あははぁ~そんな怒んなよぉ。助けてやったんだから、そこは『ありがとう』だろぉ~? ま、ETの死体の処理は現場の人間に任せていーだろ。俺は飲み屋に戻りま~す」
「え、ちょっ孔雀さん? 犯人探しは!?」
「俺はもう十分働いたぁ~後はお前らに任せるっ! 頑張れよっ! 後輩どもっ!」
孔雀さんは真っ赤な顔でビシッと敬礼し、そのままふらふらと歩いていってしまった。
「……永月、どうする?」
隣にいる永月に問いかける。永月は眉間に皺を寄せ、ため息をついた。
「あの調子じゃ何言っても無駄だろ。今日は三人で探すぞ」
「さんっせ~い! じゃあアイちゃん! また後でね~!」
永月の腕に抱きついているティアラちゃんが、満面の笑みで私に手を振る。そして二人は歩いていってしまった。
呆然とそれを見送り、あれれ? と首を傾げる。
「もしかして私……ひとりで探すの?」
「あれれ? おねーちゃん。一人になっちゃったの?」
背後から声がして振り返る。こちらを見上げるのは、ロリータ服に身を包んだ西洋人形のような美少女。
ヘーゼルナッツのような色の大きな瞳が特徴的だ。綺麗な瞳だなぁ……本当に……きれい……。
「刃金アイちゃん、だよね? えへへっ昨日ぶりっ」
「あ……ハイ……昨日ぶり」
「今日も犯人探ししてるの?」
「はい……そうです」
「ねぇねぇ、そんなの止めてさぁ。今から一緒にアフタヌーンティー食べに行こ?」
「どお? すっごくごーかでしょ? ここのホテルのアフタヌーンティー、ほんとーにおいしいんだよ?」
「はい」
「むー。おしゃべりがつまんない。ちょっと深く入りすぎちゃってるかな? ちょっと調整しなきゃ」
ぱっと意識が浮上し、周囲を見回す。なんだかおしゃれなホテルのラウンジに、私はいた。
「あれ……ここは?」
「こんばんは、おねーちゃん?」
声がして正面を見る。上質な赤いソファの真ん中に、白いロリータ服を着た美少女が座り、にこりと微笑んだ。
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