シンデレラグレイー4
「おねえさんたち……だれですか?」
銀の長い髪に大きな青色の瞳の少女が、扉の影から訝しむようにこちらを見つめる。
え、誰この子。もしかして部屋間違えた?
だって、永月の家にこんな小さい女の子がいるわけないし……小学生。高学年ではなさそう。三、四年生くらい?
っていうかまずい! 不法侵入で通報されちゃう!?
「ご、ごめんなさい! 部屋間違えましたぁーっ!」
永月を背負ったまま慌てて引き返そうとすると──。
「あきと!?」
私の背にいる永月を見て、少女が声を上げる。立ち止まり、振り返る。
女の子は丸い目を釣り上げ、きっとこちらを睨んでいた。
「え、あなた今、秋人って言った?」
「おねーさんたち、あきとに何かしたの?」
「え、いや、こいつが貧血で倒れたからここまで運んだだけで──」
「だめっ! わたしのあきとから──離れてっ!」
少女が叫ぶ。すると少女の頭から、角のようなものがにょきにょきと生えてきた。
背中からは青色の小さな翼が生え、オレンジのワンピースからは同じ色の恐竜のような尻尾が伸びている。
少女は尖った歯を見せながら、瞳孔を細く尖らせ、こちらを睨みつける。
その姿はまるで、フィクションに出てくるドラゴンと人間のハーフそのものだった。
「あきとを守るためならわたし……わたしだって、戦えるんだからぁっ!」
がくがくと足を震わせながら、女の子は両手を怪獣みたいに構えた。
「あきとを傷つける人なんてゆるさないもんっ! あきとはわたしが守るのっ! わたし、強いんだからねっ! おねーさんたちっ、かっ……かかってこいっ! がおーっ!」
女の子の突然の変貌と威嚇に、私とティアラちゃんは顔を見合わせる。そして同時に叫んだ。
「「かっ……かわいい~~~!!!」」
とりあえず永月を玄関に座らせ、私とティアラちゃんは女の子に駆け寄った。
「ねぇねぇなにそのツノとしっぽと羽根っ! め~っちゃかわいいんだがっ!? 目が青くて綺麗だし、銀髪もサラサラでお肌も白くてぷにぷに。お人形さんみたい~……ねぇ今度おねえちゃんとショッピング行かない!? てぃあがキミに似合う可愛い服い~~っぱい買ってあげるよ!?」
「私も私も! 美味しいパフェ食べに行こっ!? パンケーキもタピオカも! ぜ~んぶ奢っちゃう! だからおねーさんとデート行こ!? ね? ね!?」
「ふぇ……ふえぇっ!?」
私達が目をハートにして詰め寄ると、女の子涙目になりながら口を大きく開く。
するとその口から、小さな青い炎がぼっと吹き出し、すぐに消えた。
それを見た私達は再び顔を見合わせ、そして黄色い悲鳴を上げた。
「え~すごい! 炎なんか吐けるの!? なにそれどんなマジック!? すごいよすご~い!」
「すご~! ねぇてぃあもっかい見たい! もっかいやって~! お金払うからぁ~!」
「ふぇっ……ふえぇっ!?」
女の子があわあわと慌てだす。瞳孔が元に戻り、ツノと尻尾と羽根が体の中に戻っていった。
「なっななっなんなんですかおねえさんたちっ!?」
「「びっくりした顔もかわいい~!!」」
「はわわっあきとぉ~! たすけてぇ~!」
「ん……はっ!」
突然永月が起き上がり、ばっと勢いよくこちらを振り向く。
「杏奈っ!?」
「あきとぉ~!!」
少女、もとい杏奈ちゃんは私達の脇をすり抜け秋人に抱きつく。
「あきとぉ~! このおねえさんたち怖いよお~!」
永月は飛び込んできた杏奈ちゃんを抱きとめ、心底驚いたように目を丸くし、私達を見上げた。
「お前ら……なんで俺の家に?」
「あんたがぶっ倒れたから運んでやったんですけど?」
「てぃあが住所特定しました~! てへぺろっ☆」
ティアラちゃんがウインクし、こつんと自分の頭を拳でつつく。
それを見た永月はどっと疲れたようにうなだれ、ため息を吐いた。
四人でダイニングテーブルを囲む。
前に座っている気まずそうな永月の隣で、杏奈ちゃんは永月の腕にしがみついて、こちらを不審そうに見ていた。
「で、この子……杏奈ちゃんは、あんたの何なわけ? 妹というには全然似てないけど」
「杏奈は俺の──」
「妻ですっ!」
「「つまぁっ!?」」
私とティアラちゃんが目を剥いて身を乗り出す。永月は慌てたように声を荒げた。
「ちがうっ! んなわけねぇだろ!?」
「わたしとあきとは毎日一緒に寝てるし、なんならちゅーだってしてま~す!」
「はぁ!? ロリコンじゃん! 犯罪じゃん!? 逮捕だ逮捕ぉ~っ!!!」
「ええ!? 秋人くんロリコンなの!? ロリコンはさすがに無理なんだがっ!? 逮捕だタイホ!!!」
「ちょっ杏奈っ! 話がややこしくなるから一旦喋るなっ!」
「事実だもんっ! わたしはあきとのおよめさんだもんっ! 約束ししたもん! ず~っと一緒にいるんだもんっ!」
「もしもし警察ですか? ええ、事件です。お宅で働いてる永月秋人さんが、幼女に手を──」
110にコールしたスマホを永月が即座に奪い取り、通話終了を押す。
永月はいっそう疲れたような、いや、それを通り越して若干老け込んだような顔で力なく椅子に腰掛け、うなだれた。
「てめぇら、5分でいいから……俺の話をちゃんと聞け」
一旦小休止としてお菓子休憩を挟んでから、永月は話し出した。
「こいつは福音杏奈。俺の家で預かってる小学生だ。血縁関係では無いが、身寄りが無いから俺が親代わりをしてる。当然だが変な関係じゃない。次変なこと抜かしやがったら、問答無用でテメーらをぶっ殺す。杏奈、こいつらは6課の人間、つまりは俺の同僚だ」
「あっそうだったんだ。はじめましておねえさんたちっ! わたしは福音杏奈っ、小学5ねんせいの10さい! 将来のあきとのお嫁さんで~すっ!」
杏奈ちゃんは永月の腕に幸せそうにしがみつき、私達に満面の笑みを見せてくれる。
ああ……なんとまあ無邪気で可愛いこと。妹にしたすぎる。永月の毒牙に掛かる前に、私がなんとかしてあげないと……。
「てぃあも自己紹介するねっ! 真甘天愛来 (てぃあら)! 世界一可愛いぴっちぴちの16さいっ! 秋人くんに『人生の責任を取ってやる』ってプロポーズされちゃった、正真正銘の秋人くんの嫁で~すっ!」
「え!? ねえあきと、どういうこと!?」
「言ってねーよそんな事!」
「言ってくれたんだが? あのクソ男の洗脳を解いて、てぃあの心を溶かすほどの情熱的な愛を以てして、あのドブカスみたいなイカれた場所から攫ってくれたんだが?」
「ねぇあきとっ!」
「だから、違うってっ!」
うわ~修羅場だぁ。モテ男は辛いねぇ。
目の前で繰り広げられるドラマ的な光景を眺めながら、私はお茶をすする。すると油断していたのか、湯呑みが手から滑り落ちてしまった。
その湯呑みが運悪く床へと落ち、ガシャンと音を立てて割れる。
「きゃっ!」
杏奈ちゃんが悲鳴を上げ、頭を押さえて縮こまる。
するとあら不思議、さっき出現したツノと羽根と尻尾が、再び現れたのだ。それを見て、私とティアラちゃんは目を剥く。
「あれ、やっぱさっきの……見間違えじゃなかったんだ?」
驚きを貼り付けたまま永月を見る。
杏奈ちゃんは頭を押さえたまま震え、ひっくひっくとしゃくりあげ、涙を零していた。そんな杏奈ちゃんの背を優しく撫で、永月は「大丈夫、大丈夫だ」と優しく話しかけていた。
「杏奈は、ETと人間のハーフなんだ」
「ETと人間の……ハーフ?」
噂では聞いたことがある。でも、実際の姿は見たこと無い。実在しないもの、都市伝説か何かだと思ってた。
「杏奈の母親は、杏奈を産んですぐに亡くなった。それから杏奈はずっと、貴重なサンプルとして施設に引き取られて、拷問に近い実験を受けてたんだ。感情を素直に出せるようになったのも、つい最近になってからのことだ」
「そんな……酷い」
「ごめんね杏奈ちゃん。てぃあ、そんな事知らなくて、ドラゴンみたいで、可愛いなんて……」
「……いいの。お姉ちゃんたちは、わたしにひどいことしない人だって、ちゃんと分かるもん」
杏奈ちゃんは涙を指先で拭い、こちらに笑みを向ける。その微かに怯えが滲む笑顔に、胸が締め付けられた。
「わたし、酷い目にはいっぱいあってたけど、今は幸せだよ? 学校でおともだちいっぱい出来たし、それに……あきとと一緒にいられるもんっ!」
杏奈ちゃんは無邪気な笑みを浮かべ、永月に抱きつく。
永月は私が見たこと無いくらいに表情を和らげ、杏奈ちゃんの頭を優しく撫でていた。
「6課で働く事が、杏奈と一緒にいるための絶対条件なんだ。あのクソ野郎にそう言われてる」
「クソ野郎って、もしかして乖さん?」
私の言葉に、永月は小さく頷いた。
「俺は弱い。きっとホルダーの中でも最弱の部類だろうな。だけど、それでも俺は6課で死ぬ気でやっていくつもりだ。杏奈との生活を守るために。杏奈を幸せにするために。そのためなら──何だってしてやる」
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