シンデレラグレイー2
更新遅くなってすみません!週一では投稿できるようにします!
そう宣言した秋人を、ティアラは呆然と見、そして我に返ったように慌てた声を上げた。
「負かすって……駄目だよっ! いくらなんでも殴り合いはっ! 星亜くんは顔が命のホストなんだよ!?」
「は? 何言ってんだお前。こっちから喧嘩を売るわけだからな。あっちの流儀に合わせてやるに決まってんだろ」
「流儀に合わせるって……どういう意味?」
「ホストは売上でランクが決まるんだろ? だったら俺があいつより売上て負かしてやる」
「そんなの無理だって! だって星亜くん、今日バースデイだよ!? そうじゃなくても星亜くんいっぱい太い客いて、ずっとナンバーワンだし、閉店まで後3時間しか無いし……無理だよそんなの、絶対勝てないっ!」
「うっせえな。そんなのやってみなきゃ分かんねえだろ。俺はな、一度決めたことは何があっても絶対に曲げない。たとえ何があっても、何を犠牲にしてもな」
「……アキトくん」
「見てろ地雷女。今から俺が、お前の神様をただの人に引き摺り下ろしてやる」
◆
「……あ、戻ってきた!」
凄まじい爆発が起きて、いったいどうなったのだろうと思っていたが、永月とティアラちゃんが無事にこちらに戻ってきた。
「永月! ティアラちゃん!」
「刃金、孔雀さん。今からホストクラブに戻るぞ」
「え? ホストクラブ? なんで?」
話の意図が掴めずにティアラちゃんを見る。さっきまでの威勢はどこへやら、借りてきた猫みたいに大人しくなっていた。
「へぇ~勝負すんのか。あの星亜ってやつと」
孔雀さんが立ち上がり、上機嫌に言う。
「勝負? 永月、いったいどういうことなの?」
「こいつに掛かってるクソみえてぇな洗脳を解いてやるんだよ。黙ってついてこい」
永月の意図が理解できないまま、私達はホストクラブに戻った。
中から重低音が漏れ聞こえる重厚な黒い扉の前に、永月は臆することなく立つ。
「秋人くん……」
不安げに見上げるティアラちゃんを振り向き、永月は言った。
「見てろ清甘。自分の力を正しく使うってのは、こういう事だ」
永月がバンと勢いよく扉を開ける。中にいる従業、全員が驚いた顔で見る。
「おいあれってまさか……永月秋人!?」
永月の顔を見た瞬間、従業員が一瞬で騒然とする。なぜなら永月はサングラスをしていない。
特徴的な青い右目と金の左目が鋭く光っていた。
「永月秋人、体験入店希望だ……いいよな?」
◆
「いちご姫からピンドン一撃頂きましたー!!」
下っ端ホストの威勢のいい声が場内に響く。いちご姫と呼ばれた女子が星亜に寄り添い、うっとりと見上げる。
星亜はそんな女子の肩を抱き、見つめ合った。
「すげぇな星亜さん。今晩だけで3000万売り上げてる。ナンバーワンは伊達じゃねぇな」
「俺達も見習わねぇとな!」
下っ端ホスト達が声を揃えて称賛する。星亜はそれを耳にしながら内心ほくそ笑んでいた。
ほんっと俺って天才。女も他のホスト共も雑魚ばっかだ。お前らは一生そうやって俺を称賛してろよ。
ナンバーワンの座は、てめぇらカス共には一生渡さねえよ。
そう己の実力に浸っていると、なにやら別の卓が盛り上がっているようだ。キャーキャーと黄色い悲鳴が聞こえた。
「なんだ? おいカズ。何が起こってる」
カズと呼ばれた下っ端ホストがすぐに星亜の前に跪き、耳打ちした。
「なんか、さっき入ったばっかの体験入店の新人がすごいみたいです。送り指名どころか、本指名もバンバン貰って、シャンパンも入れてもらったりしてて……」
「はぁ!?」
体験入店で本指? あり得ない。どっかの有名店を辞めたナンバー入りホストでも来やがったか?
気になった星亜は姫に一言断ってから立ち上がり、盛り上がっている卓へと行ってみる。とある卓の周りに人だかりが出来ていた。
「え!? まじ!? ホンモノじゃん!?」
「きゃー! イケメンすぎ!」
他の卓にいた姫達が寄って集ってきゃいきゃいと言っている。人だかりのせいで誰がいるのかは確認できない。
その卓から「ピンドン入りましたー!」と景気の良い掛け声が聞こえた。
堪りかねたように星亜は姫をかき分け、驚きに目を見開く。
卓上にはドンペリが並び、次から次にシャンパンコールが入るという異常事態。
そこに座っていた姫は、歌舞伎町でも一番金を落とすが並大抵のホストには靡かないという噂のマダム。
そのマダムの肩を抱き、優雅に座っているのは、秋人だった。
「永月秋人!? なんでこの店に!」
その声にちらりと秋人が星亜に視線を向け、目が合う。
しかし秋人は星亜を嘲笑うように口元に笑みを浮かべ、すぐにマダムへと視線を戻した。
「っ! どけっ! 邪魔だ!」
「きゃっ!」
星亜は姫を乱暴に突き飛ばし、自分の卓に戻る。焦りを露わにしたように、だんだんと忙しなくつま先でフロアを叩いた。
永月秋人! なんであんな表舞台の奴がホストクラブなんかにっ!
あんな「天然のホンモノ」が来ちまったら勝ち目がねえっ! 俺のナンバーワンが!
「どったのせいあ~? きゃっ!?」
星亜がいちご姫の肩を掴む。そして必死の形相で怒鳴りつけた。
「おいユリカ! あとどんくらい積める! まだいけんだろ!? ドンペリ入れろよ!」
「はぁ!? なに急に! ってか店の中で本名で呼ばないでくれる!?」
「今日は俺のバースデーだろ!? もうちょっと頑張れよ!!!」
「……必死過ぎてキモ。帰るわ~」
「は!? おい待てよ!」
いちご姫は白けた顔をし、席を立つ。星亜が必死で追いかけ説得するがガン無視し、会計を済ませてエレベーターに乗り込んでしまった。
「くそっ……クッソォ……ッ!」
「アキトくん、ピンドンいただきましたー!!」
頭を抱える星亜の耳に、秋人へシャンパンコールが次々入る。
このままじゃ売上が抜かれちまう! 今日はバースデーだってのに!
焦った星亜はスマホを手にし、他の客に電話を掛けはじめた。
「もしもし! 今日俺のバースデーだろ!? 店来いよ! ……はぁ!? 用事なんかどうでもいいだろ! さっさと店来てシャンパン入れろ!」
「……あっ」
ティアラのスマホに着信がくる。色々な姫に営業をかけている中で、ティアラにも連絡が来たのだ。
店の隅っこで星亜の様子を覗いていたティアラは、トイレの方に行って電話に出る。
「……もしもし」
『おいティアラ! いつまで外出してんだ!? さっさと店に戻ってこいよ! 有り金全部俺に貢げ!!!』
「はぁ?」
自分が発した声の冷たさに、ティアラはひどく驚く。
なんでだろう。星亜くんのこと、今までずっと大好きだったのに。
何言われても、何されても、ずっと好きでいられたのに。なんだろう。なんか急に、しょうもない男に思えてきた。
秋人くんの言う通りだ。
てぃあ、こんな奴にずっと貢いでたの? 愛してたの? 縋ってたの? なんかそれ──。
「ダサ。あんた、ダサすぎでしょ」
『ハァっ!?』
「ううん。ダサいのはあんただけじゃない。てぃあもダサかった。ちょっと優しくされたくらいでぐらついちゃったてぃあも、ダサダサだった。甘い言葉に言いくるめられて利用されてただけなのに。必死にそれにしがみついて、周りが見えなくなって。めちゃくちゃ恥ずかしいわ」
『ティアラ、お前、何言って──』
「悪いけど担降りしまーす。元気でね、カス男。でも、あんたに救われてたのは本当だから……今までありがと」
ぷつ、とティアラは自ら通話を切る。
星亜と通話していて自分から通話を終えたのは、これが初めてだった。
通話を切られた星亜は呆然と膝をつく。手からスマホが滑り落ち、ガシャンと落ちる。
フロアに落ちた彼のスマホの画面にはヒビが入っていた。
追い打ちを掛けるように、相変わらず秋人へのシャンパンコールとそれに対する歓声がフロアに響き渡っている。
星亜は頭を抱え、綺麗にセットされた髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「そんな……俺は、俺はナンバーワンなんだ……あああああああぁっ!!」
蹲ってしまった星亜の絶叫を、フロア内を満たす重低音と秋人へのシャンパンコールがかき消す。
ティアラはその様子を物陰から冷めた目で見つめ、歩き出した。
「はぁ~馬鹿馬鹿しぃ。ホスト遊びはもういいや。お金欲しいし、任務戻ろ」
コツコツと厚底を鳴らし、出口へと向かう。そして一度振り返る。
その視線の先では、秋人が姫相手に完璧な立ち振舞で接客をしていた。
ティアラがじっと視線を送っても気づかない。それだけ真剣に、ホストという職業に向き合ってるということだろう。
彼のどんな仕事にも真摯に挑む姿勢が見て取れた。
「尊敬しちゃうな。秋人くんって……やっぱりすごいや」
彼を見て、ティアラは微笑み、ホストクラブを後にした。
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