ギラギラ-7
「ねーねー見た!? 昨日の渋谷の中継!!」
「見たに決まってんじゃん! 秋人くんめちゃくちゃかっこよかったよね~ッ!」
クラスの女子がスマホを見ながらキャキャー言っている。私は頬杖を突きながら、上の空で窓の外を見ていた。
成績が上がったせいか、先生からの私の評価が代わり、いじめは完全になくなり、今の私は空気状態だ。
なので私は卒業までの束の間、平穏な日々を送っていた。
「秋人くんってハーフだけど、その辺のエランより断然イケメンだよね~! しかもめちゃくちゃ強いんでしょ!?」
「そーそー! ETが襲撃してきても一人で倒しちゃうって! しかもスーツがさいっこうに似合うんだよね~! メロい~!!」
彼女達が話しているのはきっと、『永月秋人』のことだろう。
ハーフが人生逆転する手段が、この世界でたった2つだけ存在する。
一つ目は、大金を払うか政府が認めるほどの社会貢献をして、名誉テランの称号を得ること。
2つ目は、『エナジクト』の所有者になることだ。
『エナジクト』とは、ハーフのみに適合する特殊能力のようなものであり、個体によってその能力は異なるらしい。
『ET』は、エランが地球に移住するようになってから出現するようになった害獣だ。
エナジクトの所有者になれるのはハーフだけであり、ETには通常の兵器は威力不足で効果が無いので、ETと戦うことができるのはエナジクトのホルダーだけ。
もちろんエナジクトの力の活用方法はそれだけじゃない。警察や消防では不可能なパターンの人命救助ができるなど、世のため人のためにその力を役立てて、感謝されることだってできる。
つまりエナジクトのホルダーになるということは、ハーフでありながら、世間から称賛される存在になれるただ一つの資格のようなものなのだ
永月秋人はハーフであり、公安の通称『6課』に所属しているエナジクトのホルダーだ。
端正な顔立ちに、涼し気な切れ長の目元。全てを吸い込んでしまいそうな青みがかった右目と、彼の強い意志を表すように光る金色の瞳。サラサラの黒髪。
上質そうな黒いスーツをかっちりと着こなしている、少女漫画から飛び出してきたみたいな凄まじいイケメンだ。
女性向けファッション誌の表紙を飾ったり、彼がETと戦闘する際の映像が中継されたりと、警察官でありながら、世間ではいわゆるアイドル的な扱いを受けている。
ルックスはもちろん頭脳明晰、実力も本物であり、弱冠17歳という史上最年少の年齢で警部という地位に成り上がった、エリート中のエリートだとか。
その割に周囲の有り余る称賛にあぐらをかくような事もなく、ただひたすらクールでストイックに己の職務を全うする硬派な性格らしい。
まあ、つまりは女子が好きそうな要素が姿形となって存在しているような、そんな人物だ。
鈴音ちゃんが彼のファンらしく、いつもテレビを見て「秋人くん、あんたなんかと同じ種族なんてかわいそ~」から始まり、彼の素晴らしい所を熱く語ってきていたので、全然興味がない私ですら彼に関しての詳細はよく知っていた。
「私も秋人くんと同じ瞳にしよっかな~?」
「じゃあ放課後カラコン買いに行こ~!」
「でも秋人くんってなんでハーフのままなんだろう? あれだけ活躍してたら名誉テランになれるはずなのにね~」
「この間インタビューで答えてたけど、『自分の活躍によってハーフの地位向上を目指す目的で、あえてハーフのままにしてる』ってさ!」
「え~~~なにそれかっこいい! 惚れちゃうってぇ~! でもワイシャツから見えるハーフの刻印がセクシーに見えるんだよねぇ~……写真撮られるときも敢えて見せてる感じするし!」
「はぁ~せっかくならこの辺にもET出現してくれないかな~? もしかしたら生秋人くん見れるかもしんないしぃ」
「ダメダメ。こんな田舎になんかETは現れないよぉ~。出現してるの都会ばっからしいじゃん」
「はぁ~早く上京したいなぁ~」
あの女子達も、もし私がホルダーならいじめることも無視をすること無いのだろう。
むしろ尊敬の念すら抱く可能性だってある。
ハーフとして生まれたなら、誰もが一度は考えるものだ。『ホルダーになりたい』と。
それは私も例外じゃなかった。だけど、それは現実的ではない話だ。
ホルダーになれるのは十代から二十代までのハーフと決まっていて、その中でもエナジクトに適合できる体質である必要がある。
適合できる確率は、一説によれば十万分の一。
そしてエナジクトに適合できなければ、身体が耐えきれずに死んでしまうとか。
そんなほぼ負けが決まっている命がけの賭けに出るほど、私は無謀じゃない。
それに、今は葛西先生がいてくれるから、私はこの環境にだって耐えられる。
今はもう、それだけで十分幸せだ。
クラスの女子がはしゃいでるのを横目に、私は休憩時間を有効活用すべく、机に突っ伏して仮眠を始めた。
「ふんふんふ~ん……」
放課後、私は鼻歌混じりに帰路についていた。
これはかなり珍しいことだ。というより、生まれて初めてかも知れない。気持ち的にはスキップすらしたい気分だ。
というのも、その原因はさっき体育館裏でした葛西先生との会話にあった。
私はついに、勇気を出して先生に言ったのだ。
卒業したらもう先生と毎日会うことはできない。それがとても寂しいことだと。
すると先生は私の肩を軽く叩き、爽やかスマイルを浮かべていった。
「卒業したら学校の目も気にしなくてよくなるし、たまには飯でも行くか!」
「え……いいんですか?」
「当たり前だろ? 俺は刃金よりも社会人としてずっと先輩だからな。仕事で何か躓いたりしたら、いつでも話聞いてやる!」
「……先生」
「刃金、お前はひとりじゃないんだ。俺のことは頼れる兄とでも思ってくれていい。その代わり、今度遊び盛りの姪と遊んでやってくれ!」
「……はい!」
という事で、私は中学卒業後も葛西先生と定期的に会える事が決定したのだ!
嬉しい! やったあ!
夢見心地のままふわふわと歩いていた。その時だった。
「こんにちは。ご機嫌なお嬢さん」
鈴の音のように透き通った声が、ふいに私の名前を呼んだ。




