ダーリンダンス-5
◆
「「今日、求婚されたんだけど」」
「「は?」」
放課後、新宿駅の西口の雑踏の中、私と永月の声が重なる。私達はお互いを信じられない顔で見合わせた。
「テメェ、ふざけてんのか?」
「そっちこそ何? 真似しないでくれる?」
「真似してきたのはテメェのほうだろクソ新人。冗談言うならもっとマシな事言えやカス」
「いや本当に言われたんですけどソラちゃんに! しかもキスまでされたんですけど!?」
「は? お前……いつの間に宇宙ソラとそういう関係に?」
「ちがーう!! あっちが勝手にしてきただけなんだって! それより、あんたの方はどういう事なわけ!?」
「俺はっ……まあ、友達に? それこそただの冗談で、そう言われただけというか……」
「友達って鳳条さん? なんか……あんたの方がガチっぽいんだけど」
「違う。あいつはちょっと変わってるだけだ。別にそういう意味で言ったわけじゃない」
永月は取り繕うようにそう言う。言及するのめんどくさいし、まあ、そういうことにしといてあげるか。
「今日って孔雀さんと一緒にホストクラブ……スターダストに行くんだよね? 孔雀さんは?」
「さあ、もうとっくに時間だが、まだ連絡もねぇな」
永月が腕時計を見ていると。
「お~ま~た~せぇ~♪」
舌っ足らずでやたら上機嫌な声がする。見ると孔雀さんがこちらに歩いてきていた。
相変わらずすこぶる顔が良い。数メートル先からでも光って見えるのだ。周囲の人が、チラチラと孔雀さんの顔を見ているくらいだ。
だけど、格好はヨレヨレの白いTシャツに、ダボッとしたジーンズ。顔は明らかに赤らんでいる。もちろん手には、『これを飲めばストレスがゼロになる』の略称であるストゼロがあった。
嘘でしょ。この人……公務中に飲んでる?
「孔雀さん、もしかして……飲んでます?」
「え~? んん~飲んでないよ? これ、ミネラルウォーター!」
へらへらとそう返事して、手に持ったストゼロの缶をぐびりと煽る。明らかにアルコールの匂いがした。
いやいや、明らかに飲んでますやん。現行犯ですやん。
永月を見る。こういう時絶対突っ込みそうなのに、何かを堪えるように口をへの字に曲げ、突っ立ったままだった。
きっとサングラスの奥の瞳は、さぞかし険しいことだろう。
「永月どうする? この人連れてってほんとに大丈夫なの?」
こそこそと話しかけると、永月は答えた。
「噂で聞いたことあるが、孔雀さんは優秀なホルダーらしい。とりあえず連れて行こう。つーか先輩だし、そうするしかねぇだろ」
「でもいくら先輩とはいえ、公務中にお酒飲んでるのは注意したほうがいいじゃ?」
「ランクが下の俺が孔雀さんに注意なんか出来るかよ。言うならテメェが言え」
「いや、私はぁ……、まあ、色々心配だけど……行こうか」
すこぶる顔の良い酔っ払いと、スーツに真っ黒サングラスと、頑張って背伸びした格好の女子高生。
この明らかに接点の無さそうな三人組であるところの私達は、とりあえずティアラちゃんがいる可能性の高いホストクラブ、スターダストへと向かった。
「ここか」
「うん。そうみたい……」
地下へと続く階段を降りると、黒い重厚な扉が私達の前に立ち塞がる。
中から重低音の効いた、いかにもクラブという感じの音が漏れ聞こえていた。緊張で手汗が滲んでくる。
どうしよう。私、ホストクラブに入っちゃうの? こんな怖そうな所、一生入ること無いと思ってたのに……めちゃくちゃ緊張するんですけど。
永月も入りたくないのか、扉に手を掛けようともしない。
どうしよう。これ、私がやるしかないのか? 先陣切りたくない。怖すぎる。
……でも、頑張ったらきっと冬華が褒めてくれるはず。頑張れ、私!
意を決して扉に手を掛けたその時──。
「よーし、レッツゴー♪」
後ろから手が伸びてきて、扉を押す。孔雀さんだった。
呆気なく扉が開き、重低音が鼓膜を刺激する。黒服を着たお兄さんたちが、「いらっしゃいませ!」と元気よく私達に頭を下げた。
どうしよう、どうしようとパニックになっていると、黒服の一人が孔雀さんの顔を見て、ハッとしたように表情を変える。
「あ、貴方は……レイさん!!」
その名前を耳にした瞬間、他の黒服たちも一斉に顔色を変える。そして孔雀さんに対してバッと頭を下げた。
「レイさん!!! お疲れ様です!!!」
すると孔雀さんは「あはは~そういうの止めなよ~」とへらへら笑った。
「レイさん!! お会いできて感激ですっ!! あの伝説の年間売上5億円プレイヤー、歴代ナンバー1ホストのレイさんが、うちに顔を出してくれるなんてっ……!」
「え? ホスト?」
そう問いかけると、孔雀さんは赤らんだ顔で答えた。
「そ、俺この仕事する前ホストやってたんだぁ~意外でしょ?」
「いや、むしろかなりしっくりきました」
「だな」
しかも売上5億円って、サラリーマンの生涯年収の2倍超えてるじゃん。それを一年でって……ホストってそんなに稼げるの?
っていうか孔雀さん、そんなに稼げるのになんでホスト辞めてホルダーになったんだろう?
疑問を抱いていると、孔雀さんは黒服に一人にティアラちゃんの写真を見せた。
「今日この子って来てる? 星亜って奴指名してる子。ちょっと会いたいんだけど」
「はいっ! こちらです!」
黒服が二つ返事で頭を下げ、席へと案内した。
案内されたのは店の一番目立つ場所。
『HAPPY BIRTHDAY』というバルーンや色とりどりの花の装飾に囲まれ、シャンパンタワーが並んでいる豪華なソファ席だった。
「今日星亜さん生誕祭なんです」と黒服が孔雀さんに耳打ちする。
ソファ席の周囲を他のホスト達が囲み、囃し立てている。
その中央に鎮座している星亜というホストの膝の上に、地雷系ファッションの女の子が座り、首筋に抱きついて会話していた。
周囲のことなど見えていないかのように、二人の間には甘い雰囲気が漂っている。
「ねーねーせいあくん! てぃあさぁ、海外の出稼ぎめーっちゃ頑張ってきたよ!? 一週間で400万だよ!? ねえ、褒めてほめて~!!」
「ほんとによく頑張ってくれたなティアラ。ありがとな。これからもよろしく……愛してるぜ」
彼女の言った通り、テーブルの上には帯封をした札束が4つ置いてあった。
400万!? しかも一週間で!? 一体どんな仕事をしたらそんなに稼げるの!?
驚愕していると、永月が二人の元へと歩いていく。そして二人の前に立ち止まり、見下ろした。
「お前、清甘天愛来 (てぃあら)だな?」
「は?」
「6課の永月秋人だ。話がある。ちょっとツラ貸せ」
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