ダーリンダンス-4
「出ちゃったか。8人目」
室長室で冬華はデスクに肘をつき、現場写真を眺めながら、ため息混じりにそう呟く。
私と永月は居心地の悪いまま冬華の前に立っていた。
「周辺に犯人らしき人物は?」
「確認したけど、いませんでした」
「そっか。まあ、そんな簡単に尻尾出すようなやつだったら、こっちも手こずったりしてないよね。幸い目撃者もいなさそうだし、外部に情報が漏れるような心配は無さそうだけど、捜査が始まってすぐにこれは……明らかに二人の動きがバレてる可能性があるね」
「尾行には気をつけていたつもりだったんですが……すみません」
「まあ、被害者が出ちゃったものはしょうがないよ。『元々用意されていた被害者』を犯人が警告の意味で二人の前に置いたか、もしかしたら偶然って可能性もあるし……でも、このまま二人だけで行動させると危険だね。これからは先輩と協力してもらおう。孔雀くん、入って」
冬華が扉の方へ声を掛けると、扉が開く。「失礼します」と男の人が入ってきた。
寝て起きてそのままの格好で来ましたという感じの、くしゃくしゃの白いTシャツにグレーのスウェット。手には何故かコンビニ袋。そして突っ掛けの黒スリッパ。ボサボサの髪。
そしてその格好の全てを帳消しにし、いや、むしろそのラフさが無ければ直視することが不可能であるかもしれないと、そう思ってしまうほどの──後光が差すほどに顔が良い男だった。
「……冬華、この人は?」
「二人の先輩だよ。孔雀麗くん。こう見えて、6課のSSランクホルダーです」
「はじめまして、永月くんと刃金ちゃん。孔雀です。よろしくね」
孔雀さんはにこりと笑う、その笑顔はやはり芸能人顔負けのレベルで綺麗だった。
「孔雀くんはこないだ言ってた歌舞伎町に潜入してもらってる先輩だよ。これからは3人で協力して行動してもらいます」
「ま、そういうわけなんで、二人とも明日からよろしくね。俺は今から酒でも飲みながら歌舞伎町を徘徊……というか、パトロールしてきます」
「その格好でですか?」
改めて上から下まで孔雀さんの格好を見下ろす。どう見ても夜の街向きの格好じゃなかった。そしてそのコンビニ袋の中身、お酒だったんだ。
「君たち学生でしょ? 今日は俺に任せてもう帰りなさい。また明日の放課後、新宿西口らへん集合ってことで」
「あ……ハイ」
私と永月はぎこちなく会釈し、冬華の部屋を出て、永月の車で家に帰った。
「おはよっ! アイちゃん♡」
翌朝、学校に登校すると何故かみんなが一斉に私を見た。そしてソラちゃんがいた。そして何故か曼荼羅高校の制服を着ていた。しかもちゃんと私の隣に席が用意されていた!
「え……ソラちゃん? なんでいるの?」
「え~なんでって、当たり前じゃん。転校してきたの。ダーリンのいる高校に♡」
「はぁ?」
意味がわからずそう呟くと、ソラちゃんは自分の席を立ち、スキップしながらこちらに来る。そして飛びついてきた。
慌ててそれを受け止める。なんとか転倒は防いだ、けど、ソラちゃんはそのまま私をぎゅーと抱きしめたままだ。
「ちょっなになにっ!?」
「アイ~待ってたよぉ♡ アタシのだーりんっ♡」
「はぁあ!?」
「だって言ってくれたじゃん。『私のこと好き』って」
「好き?」
必死で記憶を辿る。あ、確かに言ったなそんな事。
でもあれは別に全然そういう意味で言ったんじゃない! 普通分かるでしょ!?
「ちょっソラちゃん一旦落ち着いて! 話し合お!?」
「やだ♡ もう決めたもん。アタシ、アイのお嫁さんになるんだぁ~♡」
「およめさんって!?」
「ねぇアイ……いいでしょ?」
ソラちゃんが私の首筋に腕を絡め、じっと顔を見る。その猫みたいな瞳孔は開ききっていて、その瞳の中にはハートマークが浮かんでいた。
その熱が伝染したのか、私までドキドキして目が離せない。その瞳が閉じて、顔がゆっくり近づいてくる。あっという間に、私達の唇が重なった。
「キャーーーー!!」
「うおーーーー!!!」
女子の黄色やら男子の雄叫びやらなんやらで教室が揺れる。私は目を時が止まったみたいに固まるしかなかった。
「ぷはっ……えへへ、しちゃったね。ファーストキス。しかもみんなの前で♡ これはもう、言い逃れできないね?」
「あ……ア?」
「ねぇアイ、結婚式……いつにする?」
ソラちゃんが潤んだ瞳で私を見上げる。私は自分の身に起こった自体を未だ理解できず、考えるのを止めた。
◆
「よお、ながと」
「……また来たのか。鳳条」
秋人がいつもの場所で授業をサボっていると、鵺が現れた。のろのろと歩いてきて秋人の隣に座る。秋人は寝転んだままCBDをふかし、鵺に問いかけた。
「お前ずっと授業でてないけど、留年大丈夫なのか?」
「ながとこそ」
「俺はそういうの免除されてんだよ。ホルダーだし。ほんとは学校なんてクソみてぇな所に通う必要も無いんだ。上司に言われて仕方なく来てるだけだ」
「そうなのか。羨ましいな。俺もなるか。ホルダーに」
「あんまふざけたこと言ってっとぶん殴るぞ?」
「あー……別にながとにだったらいいよ。ほら、殴って」
そう言って鵺が頬を指差す。秋人はそれを苦虫を噛むような顔で見た。
「チッ! ほんとお前は調子狂うな……クソ」
悪態をついて起き上がると、鵺が問いかける。
「ながと、一緒に住むって話、考えてくれた?」
「は? 何のことだ?」
「こないだ遊んだ時に言っただろ。また家に来てって」
「確かに言ってたけど、それがどうして一緒に住むって話になるんだよ」
「来てとは言ったけど、帰っていいなんて一言も言ってないだろ?」
「……もう二度とテメェの家には遊びに行かねぇ」
「冗談だよ。俺なりのジョーク。まあながとが一緒に住みたいなら、一緒に住んでもいいけど」
またこいつは適当なことを、と秋人は鵺を睨む。長い前髪から覗く鵺の瞳は真剣そのものだった。
突っ込むのにも疲れ、秋人はため息混じりに返す。
「俺はお前と住みたくない。つーか住めない。俺にも色々事情があんだよ」
「そうか。残念だ……今度から俺も授業に出ようかな。秋人の隣の席とか」
「さっきから言ってることめちゃくちゃだぞ、お前」
「ダメってこと?」
「別に。お前が授業に出るなら、俺もここに来る理由も無くなるし──」
「つまり、ながとは俺に会う為にここに来てるってことか」
「っ!」
図星を突かれ、秋人は言葉に詰まる。確かに最初は授業をサボるために人の来ないこの場所へ来ていた。
しかし今は、鵺が顔を出すのを待っている自分がいるのが実際のところ真実だった。
秋人は気恥ずかしくなり、そっぽを向きながら言葉を返す。
「そりゃまあ……友達ってのは、来るのを待ってやるもんなんだろ?」
「いや、よく知らない。俺、友達いたこと無いし」
「……俺もだよ」
「じゃあ俺とながとは、お互い初めての友達同士ってことだな」
「まあ、そうなるな」
「じゃあ結婚する?」
「はぁ!?」
「マサが言ってたんだ。もし大切で絶対離れたくない人が出来たら、結婚するべきだって。俺にとって、ながとはそういう存在な気がする」
「いや、しねぇよ。つーか俺はそういうの出来ないんだ、契約上」
「契約って、誰との?」
「クソ親父との。誰のモンにもなるなって、そう言われてる」
「なるほどな……じゃあまた明日」
「もう行くのか?」
「うん。明日は教室行く。だから秋人も教室にいてよ」
「珍しいな、お前が教室に来るなんて」
「だって友達と授業受けてみたいし」
「なるほどな……了解」
鵺がのろのろと去っていく。秋人はその背中を見送り、微かに微笑んだ。
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