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エナジクト──漆黒のバーサーカーと至高の最弱ヒーロー  作者: ノミオ
第一章──どうしようもない現状と、運命の出会い
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ギラギラ-6

それから先生と私は、ときおり体育館裏に集まり、二人でジュースを飲みながら話をした。

内容自体は世間話だったり天気の話だったり、他愛もないものだったけど。それでも私は嬉しかった。

柄にもなくたくさん笑った。お腹を抱えて、涙を滲ませて笑った日だってあった。


先生と一緒にいる時間が全て新鮮で、待ち遠しくて、溢れるほどの幸福を噛みしめる、そんな日々だった。


家庭環境が変わったわけでも、学校でのいじめが止んだわけでもない。

それなのに、今までとは違って胸の奥に活力が満ちていた。


ずっと逃げ続けていた勉強にも精が出て、成績もどんどん上がり、ついに私は定期テストで学年一位を取った。

そのせいか、クラスの人達の私を見る目が変わったような気がした。いじめられなくなったし、成績が上がったおかげで、生まれて始めておじいちゃんにも褒められた。うれしかった。


でも何よりも嬉しかったのは、葛西先生が「刃金はがね、よく頑張ったな! 今度お祝いになんか奢ってやるよ!」と言ってくれたことだった。


その言葉を聞いた瞬間、私の心は宙を舞い、空へと向かい、大気圏を突破して、宇宙へと飛び出してしまった。


だってそれは、紛れもなく『デートのお誘い』に違いなかったのだ。


私は先生のことが好きだ。そしてきっと、先生も──。

私はそう確信し、天井知らずの有頂天になっていた。


そんな先生との夢のような甘やかな日々が続き、卒業式の日が近づいてきていた。



「来週には卒業式だなぁ」


「……はい。そうですね」


「刃金、本当に高校行かなくていいのか? お前の今の成績なら、進学校だって夢じゃないぞ?」


「いいんです。もう入試終わっちゃってるし……本気出すのが遅すぎましたね」


えへへと照れ笑いを浮かべると、先生の表情が微かに曇ったような気がした。私は慌てて付け加える。


「あっあのっ近所にハーフでも雇ってくれる鉄鋼所があるんです。なんか差別とかも無くて、環境とかも普通にいいトコらしくて……私が勉強頑張ったから、おじいちゃんがそこに話を通してくれるって、言ってくれて……」


「そうなのか?」


「はいっ! だから春からは、真面目に社会人やろうと思ってます!」


元気にそう返事をすると、先生はホッとしたように表情を緩め、私の頭をぽんぽんと撫でた。


「そうか。ちょっと安心した……でもあまり無理はするなよ。刃金は、女の子なんだから」


「……そうですよ? 先生、私……女の子なんです」


そうやって私を女の子扱いしてくれたのも。優しくしてくれたのも。この世でたった一人、貴方だけなんです。

葛西先生、好きです。愛してます。


だから私と──結婚してください。


今にも口から漏れ出しそうな本音を押し殺し、私は俯く。

すると──。


「刃金」


そう囁かれ、逞しい腕が痩せぎすの私の身体を包み込む。鼓動がドクンと大きく跳ねた。


「え……先生……?」


「これは変な意味の抱擁じゃない。信頼の証だ……辛い状況だけど、一緒に頑張っていこうな?」


耳元で、聞いているだけで心が落ち着くような、低くて優しい声が囁く。私は恐る恐る先生の背中に手を回した。

初めて触れた先生の背中は、温かくて引き締まっていて、とっても大きかった。


ドクドクと高鳴る私の鼓動が先生に伝わってやしないか、それが気になりながらも、私は震える声で返事をする。


「はい、先生……わたし。わたし……頑張ります」


そう返事して顔を上げると、先生は私の目を真っ直ぐ見つめてにこりと微笑んだ。



辛いことばかりの人生で唯一できた、甘くて幸せな思い出。


それを後悔する日が来るなんて、この時の心底浮かれていた私は──思いもしなかった。



それから自分がどうやって帰ったか覚えていない。

足取りが妙にふわふわとして、頭の中には花が咲き乱れていたから。


帰っておじいちゃんにいつも通り怒鳴りつけられようが、蹴られようが、それすらもどうでもいいくらい、私は多幸感に包まれていた。


すべての家事が終わり、就寝時間になった。


私は自分の部屋に戻り、ベッドの下に収納してあるラックを引き出す。そこには漫画がぎっしりと詰まっていた。元は私の物ではない。漫画なんて買ってもらえないし。


鈴音ちゃんが読み飽きた少女漫画を、邪魔だからと私の部屋に持ってくるのだ。


その内の一冊を取り出し、カビの生えた薄っぺらい布団に寝転び、ページを開く。


そこには私と同世代の少年少女の、なんとも甘酸っぱい恋愛模様が描かれていた。私は夢中になってページを捲り、その世界に没頭する。


ああ、素敵だな。心臓がドキドキと心地よく高鳴る。こんな素敵な世界、本当にあるのかな?


好きな人と両想いになるって、一体どれだけ幸せな気持ちなんだろうな。


漫画を読み終えて、私は勉強机に向かう。秘密のノートを引き出しから取り出し、頭の中に出来上がった空想を、ペンに乗せて走らせた。


今日のテーマは決まっている。「先生と禁断の恋をするストーリー」だ。


少女漫画を読むことと、『刃金愛』としての架空の日々を書くことが、私にとっての唯一の娯楽。心の安息の時間だ。


もしこの趣味がなければ、私はとっくに死んでいただろう。


小さい頃は、いつか私もこんな素敵な恋愛をしてみたいと、そう思ってた。友達と遊んだり、好きな人を想って想われる。そんな幸せな人生を送りたいって。


顔に火傷を負って、家でも学校でも虐められ続けて、今じゃそんな事無理だと諦めてた。なのに──。


『刃金』


葛西先生が頭の中で私を呼ぶ。にやけながら、私はスラスラとペンを走らせた。


ああ、書いていて筆が止まらない。楽しい。

誰にも愛されない私が、こんな気持ちになる日が来るなんて。


先生はテランだけど、ハーフの私に優しくしてくれる。

体育館裏で話をしている時の先生の表情は、いつだってキラキラしていた。


今日抱きしめてくれたのだって。ただの一生徒に普通……あんなことするかな?

もしかして……「そういう可能性」って、あったりする?


もうすぐ卒業式だし……卒業式の日に告白しようかな。

それでもし、付き合うなんてことになったら──。


考えるだけでぼっと顔が熱くなり、私は思わず頬を押さえる。

右頬の感触で、ようやく私は我に返った。


……そうだ。この顔の醜い火傷痕がある限り、私は誰かと付き合うなんて、出来るはずがない。

危なかった。夢見ちゃ駄目。

先生と一緒にいられるだけでいいの。これ以上は……求めちゃダメだ。

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