FAKE SOUL-3
『マテ……マテェッ!』
刀で刺された方の仮面が永月を追っていった。
え、なにこれ……どういう事?
呆然とそれを見送っていると──。
『クソ新人!』
脳内に声が響いた。永月だ。
『永月! あんたもしかして逃げたの!?』
『んなわけねえだろクソバカ野郎! 二体並ぶと手も足も出ねぇから、一体ずつ仕留めんぞ! 俺はビルの屋上でやり合う! テメェはそこでもう一匹と戦ってろ!』
遠くで永月がビルに入り、仮面のETが追うように入っていくのが見えた。
『ヒトリ……ヒトリハイヤダァ……!』
もう一匹の仮面がこちらに背を向け、永月達を追おうとした。
「ストップ!」
黒い霧をロープのように飛ばし、仮面を縛り上げてそれを阻止した。
『永月、こっちは任せて!』
『なんかあったらすぐ連絡しろ!』
『了解!』
『……アンタ、ジャマスルノ? ワタシノコト……ヒトリニシヨウトシテル? ……ユルサナイ──ユルサナイ』
仮面がこちらを振り向く。
その顔からは微笑みが消え、怒りに満ち満ちた表情へと変わっていた。
釣り上がった目から触手がゆっくりと伸びる。その触手は、怒りに染まったように真っ赤な色をしていた。
なんか嫌な感じする。っていうか……やばいかも!
すぐに黒い霧を集結させ、さっきより厚い壁を作る。
それとほぼ同時に触手の連打が壁へと降り注いだ。
『コロス、コロスコロスコロスッ! オマエナンカァ……ブッコロシテヤルゥ!!!』
ズガガガガガッ!
さっきと同じ、いや、それ以上の連打が私のガードを襲う。強固にしたはずの壁に既にヒビが入り始めていた。
やばい。このままじゃジリ貧だ。なんとか反撃しなくちゃ。
でも、どうやって……そうだ!
「あー! 仮面ちゃん帰ってきたぁ!!」
大げさに叫んで仮面の背後を指差す。
『エッ!?』
仮面が嬉しそうに声を上げて振り向く。しかしそこには当然の如く誰もいなかった。
だってそれは、仮面の触手よりも真っ赤な嘘なのだから。
「掛かったなっこのアホめが!!」
仮面の気が逸れて攻撃が止まったその瞬間、私はチャンスとばかりに黒い霧を剣に変化させ、その無防備な背中に斬り掛かった。
黒い剣が仮面の背後をスパンと切り裂く。その背中から青い血が噴き出した。
『ギャアッ!?』
「まだまだぁ!」
腕にエナジクトの力を集中し、剣を振り上げざまに再び斬りつけた。青い血が飛び散り、私の顔に降り注ぐ。
『ギャッ! イタッ! イダイイイィ!?』
間髪入れずに串刺しにするように背後から突き刺す。何度も、何度も。
剣を突き刺す度に生温かい血が降り注ぎ、顔も髪も服も青く染めていく。
あったかい、きもちいい。
なんか……なんか、楽しくなってきた!
『ギャッ! ギャアッ! ヤメッ……ヤメテェッ!』
「あっははははぁっ! さっさとくたばれェ! この! このぉっ! このクソザコぴゅあぴゅあ仮面がァ~!!!」
倒れ込んだその背中を足で踏みつけ、刺し続ける。
黒い霧が左手からとめどなく溢れ出し、私の身体を覆い尽くしていく。力が、溢れてくる。
身体を、意識を、どんどん黒く染めていく。
ぽたぽた。
何かか私の鼻から流れ落ちる。赤じゃなくて、黒。
目からも、開いた口からも。
ボタボタ。ボタボた。キモチイ。
黒い霧が、私の身体中ヲ、脳を──這いずり回ってル。
「アハハッ! あーはっハっハっハッハッ! たのシっ……たのじい~~~~!!!!」
くたばれ。クたばれ。お前なんかキえろ。
死ね、しね、シね、死ね──シネェ!!!
視界が黒くそまって、興奮で目の前がくらくらする。
意識が途切れかけたそのとき──。
『刃金!!!』
「っ!」
真っ黒になりそうだった頭の中に、誰かの声。
そうだ。この声は──。
「ながつ……ながつ、キ」
飲み込まれそうになった意識が、途端に現実に引き戻された。
『おい! 聞こえてんのかクソ新人! そっちの状況はどうなってる!』
『ごめん! こっちはなんか……死にかけてるよ!』
『お前が!?』
『仮面のオバケが!』
『どうりでこっちの奴が弱体化してるわけだな……このままとどめを刺すぞ』
『分かった! どうしたらいいの?』
『さっきの感じだと、こいつらは片方を殺ってももう片方が生きていれば再生する。だから同時に仕留めるぞ。今から俺が合図するから、タイミング合わせろ』
『了解!』
仮面のETに刺さっていた剣を引き抜く。
ETはピクピクと痙攣するばかりで全く反撃してくる様子は無いが、確かに身体の傷が少しずつ回復し始めていた。
『一発目!』
「オラッ!」
永月の声に合わせて剣を再び突き刺す。
ギャッとETが悲鳴を上げて仰け反った。
『二発目!』
「てやっ!」
バキンと音を立てて仮面に大きなヒビが入った。
『三発目──これでトドメだ!』
『りょーかい!』
エナジクトの力を腕に集中し、全力で振りかぶる。
『第一解放──刺突爆雷!』
「じゃあ私は……正義の鉄槌ボンバァーッ!!!」
ヒビ目掛けて勢いよく剣を突き刺す。
仮面に大きな亀裂が入り、真っ二つになった。それと同時にビルの屋上で爆発音が鳴り響く。
『『ギャアアア!!』』
2つの断末魔が響き、仮面がバラバラに崩れ去り、やがて砂のように完全消失した。
「はぁ~……つっかれたぁ~……」
「全くだ」
重たい身体を引きずりながら、私と永月はのろのろと住宅街を歩く。
ETを倒した後、駆けつけた警察官に事情を説明し、事後処理を終え、すっかり日が暮れてしまった。もうフラフラだ。
やばい、めちゃくちゃ眠い。歩いてるのすら限界。
これから電車を乗り換えて帰んなきゃなのかぁ。帰ったら風呂入ってソッコー寝よ……あ、宿題やってないじゃん。やば。
「刃金」
ふと前を歩く永月が立ち止まり、私の名を呼ぶ。嫌な予感がした。
「なに~? 悪いけど、今日はもうこれ以上仕事は──」
「そこに車停めてるし、家まで送ってってやろうか?」
「……へ?」
意外な申し出に、私は思わず間抜けな声を出す。
「え? マジ? いいの!?」
「ついでだからな」
「やったーーー!!! 永月ありがとーーーっ!!!」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶと、永月はチッと軽く舌打ちした。
「ねぇ、それよりさぁ。ちょっと気になる事があるんだけど」
「なんだよ」
「今、私のこと刃金って呼んだ?」
「……だから何なんだよ」
「いや~? 今までずっと『クソ新人』だったのになぁって」
「どうでもいいだろクソ野郎」
チィッ! と永月は不機嫌そうに舌打ちする。
それで私は確信し、にやりと笑った。
「ええ~? なんですか永月パイセン。もしかして、私のこと認めちゃった感じですかぁ~?」
「黙れ」
「照れてんの?」
「んなわけねえだろ」
「ふ~ん? へえ~?」
永月がついにこちらを振り返り、私を指さして怒鳴りつけた。
「調子乗んなバカガキ! それ以上余計なこと喋ったら置いて帰んぞ、このクソ馬鹿野郎!」
「はいはい。じゃ、よろしくね~」
心底不服そうにこちらを睨みつける永月を尻目に、私はすっかり乗りなれた助手席に乗り込んだ。
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