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エナジクト──漆黒のバーサーカーと至高の最弱ヒーロー  作者: ノミオ
第三章──潜入捜査という名の青春、開始
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FAKE SOUL-1

「鵺どのぉ~ただいまでごっざっるぅ~♪ お腹空いてるでござろう? すぐにご飯の支度を……やや? 来客でござるか? って……永月秋人ォ!?!?」


永月を見るなり、額に赤いバンダナを巻き、牛乳瓶のような分厚いメガネを掛けたふくよかな男の人が叫ぶ。永月は一瞬ビクリと身を震わせ、すぐに顔をしかめて睨んだ。


「ほわぁ~!!! 睨んでる顔も美しいでござるゥ~!!! テレビで見てもイケメンでござったが、実物は神々しいほどでござるなぁ~!? さすがは国宝級の美形! カァーーー! まぶCーーー!!!」


その場に膝をつき、わざとらしく眩しがるポーズを取っている男の人を冷めた顔で見下ろし、永月は問いかけた。


「……鳳条ほうじょう、何なんだこいつは」


「こいつはマサ。俺の世話係兼、最高責任者」


「そういやそんな奴がいるって言ってたな……」


「やや!? 鵺どの、もしかして永月秋人と知り合いでござるか!?!?」


「うん。こっちが話してたあきつきながと。それとこの人は、えーと……メガネアイ、ながとの友達だ」


「あはは……メガネじゃなくて、刃金はがねアイで~す……?」


テンションについていけず、私は引きつり笑いを浮かべながら挨拶する。

するとマサさんは立ち上がり、掛けているメガネをくいと指先で持ち上げながら、なんかよく分からない戦隊モノっぽい決めポーズをしてみせた。


「永月殿、刃金はがね殿。刮目せよ。拙者こそが鵺どのからご紹介にあずかったマサ──もとい、犬飼勝いぬかいまさるでござるっ! 鵺どの、もとい『八分儀はちぶんぎゆう』の記念すべきファン第一号であり、彼に最も近しい存在かつ編集者──そう、我こそがこの世で一番幸せな男なのだっ!!」


キリッと効果音が聞こえそうな決め顔でマサさん、もとい、犬飼さんはこちらを見る。

私は笑顔を作ることが困難になってきた。


おお……すごい。なんか……パワフルで個性的な人だな。でも……私にはちょっと荷が重いかも。

っていうか、あれ? 八分儀? 今、八分儀優はちぶんぎゆうって言った? 


「八分儀優って、なんか、聞いたことあるんだけど……」


「小説家だな。それも世界的な」


永月に言われ、思考を巡らせる、そして思い至り、私は思わず声を上げた。


「あー! 私の好きな少女漫画の原作やってた人じゃん!? それ以外にも小説がバンバン映画化してる人!」


「イグザクトリー!! 書くジャンルはラノベからはたまた歴史小説までと多岐に渡り、その全てがメディアミックスを果たし、今や世界中で愛読されている天才小説家、八分儀優はちぶんぎゆう。しかしてその正体は──なんとこちらの鳳条鵺ほうじょうぬえどのなのだぁ!!」


「なっ……なんだってーーーー!?!?」


犬飼さんのテンションが移ってしまったのか、私は思わずそう叫ぶ。「声がでけぇんだよクソが」と永月が隣で睨んだ。


「え、ちょ、めっちゃファンです! あ、あのっあくしゅっ……握手してくださーい!!」


「? うん」


わなわなと震える手を差し出すと、鳳条さんは頭にはてなマークを浮かべながらも握手してくれた。


「わわー! 握手しちゃったぁ~!? あのあのっこれからも作品楽しみにしてます! 頑張ってください!」


「うん。ありがとう」


キャーキャーとテンションMAXの私とは対照的に、永月は犬飼さんを訝しむように睨んでいた。


「お前、犬飼っていったか。八分儀優は徹底的に素性を隠してるはずだ。何故俺達に明かした?」


「はっ!? そうでござったぁ~! 拙者としたことがぁっ! 鵺どのがお友達を連れてくるなんて初めてで、テンションぶち上がってしまって忘れてたでござるぅ~!!」


「……友達?」


永月が鳳条さんを見る。鳳条さんは首を傾げて永月を見た。


「鵺どのが拙者に話してたんでござるよぉ。『学校に面白い奴がいる』って。いつものただの冗談かと思ってばかりいたのに。まさか小説を書くこと以外に一切興味のない引きこもりの鵺どのが、本当にお友達を家に連れてくるなんてっ……拙者嬉しいでござるぅ……うっ……うっ……」


犬飼さんはハンカチで溢れる涙を拭っている。永月は呆然としていた。


「俺と鳳条が……友達?」


「あきつきながと、俺達ってもう友達だよな」


「ともだち?」


「そう。ウィーアーフレンド」


「うぃーあーふれんど……」


永月はうわ言のように呟き、そして何故か顔を両手で覆った。


「どうしたの? 永月」


「今日は帰るぞ、クソ新人」


「え? 今来たとこなのに?」


「そうでござるよ! せっかくだから晩御飯でも──」


「いや、帰る」


顔を手で覆ったまま永月は玄関へと歩いていく。私は仕方なくそれを追った。


「秋人」


靴を履こうとした永月の背に、鳳条さんが声を掛ける。永月の動きがぴたりと止まった。


「また家来いよ。今度は一緒に飯食おうぜ。ついでにトランプも」


鳳条さんの手には私が買ってきたトランプがあった。

永月は振り返らず、靴を履いて玄関の扉を開け、「気が向いたらな」とひとり言のように呟いた。



「鳳条さん、普通にいい人っぽかったね」


「まあな」


「やっぱり永月、鳳条さんの友達なんじゃん」


「知らねぇよ。友達なんか、出来たことねぇし」


「……ねぇ、永月」


「なんだよ」


「もしかして、泣いてる?」


「んなわけねぇだろ。ふざけんなカス」


永月はようやく顔を覆っていた手を離す。気の所為かもしれないけど、その目が微かに潤んでいるように見えた。


「鳳条の素性調査も終わったし、今日は帰るか」


「調査とは一体……?」


「黙れ。早く帰れるんだからありがたく思いやがれ」


「まあ、確かにそうだけ、ど──」


歩いている足を止める。後ろを歩いていた永月も足を止めた。


白い仮面が浮かんでいる。にこりと微笑んだような表情の描かれた、大きな仮面。


私達は息を呑んで仮面を見る。

宙に浮かんで静止したままの仮面は、こちらをじっと見て、そしてニタァと口元を歪ませた。


『ネェ……アソンデ?』

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