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エナジクト──漆黒のバーサーカーと至高の最弱ヒーロー  作者: ノミオ
第一章──どうしようもない現状と、運命の出会い
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ギラギラ-5

「ほら」


「あ……ありがとうございます」


人気のない体育館裏。

石でできた階段に座ると、葛西先生が自販機で買ってきた缶のホットココアを差し出してくれた。


ココアを受け取ると先生も隣に座り、缶コーヒーをカシュッと開けて飲む。私もプルタブを開けて遠慮がちに飲んだ。

甘くてあたたかいココアが喉元を通り、お腹に流れていく。身体がじんわりと温まってホッとした。


「美味しい。ココアなんて贅沢な飲み物……本当に久しぶりです」


「……そうか。このくらいならいつでも奢ってやるから、遠慮なく言えよ」


「あ、あの」


「なんだ?」


「先生は、どうして私に優しくしてくれるんですか? 先生はテランなのに……」


俯きながらもじもじと問いかけると、先生は缶コーヒーをぐびりとあおり、私に肩を寄せる。

急に距離が近づいてドキッとしていると、先生はポケットからスマホを取り出し、画面を見せてきた。


そこには先生と一緒に、小学校低学年くらいの可愛らしい女の子が写っていた。

二人共幸せそうに頬を寄せて、眩しいくらいの笑みを浮かべていた。



「え……先生って……結婚してるんですか?」


確か26歳って言ってたのに。もうこんな大きい子どもが……?


愕然として肩を落としていると、先生が慌てて声を上げた。


「違う違う! 姪だよ姪っ! 俺の姉ちゃんの子ども!」


「え……姪っ子さん?」


「そうそう。アイラっていうんだ。可愛いだろ~?」


「はい……可愛いですね」


「実はこの子、ハーフなんだ」


「え?」


私は改めて写真をまじまじと見た。

髪や肌の色素こそ薄いけど、特に色が異なるところもなく、瞳の色も茶色で、左右同じだ。

首筋にあるはずの『刻印』も無いし。


「え、でもこの子……ハーフの特徴が一つも無いですよ?」


「瞳の色が左右で違ったんだが、矯正したんだ。刻印も手術で綺麗に消してもらった。なんせ今は『名誉テラン』になったからな」


『刻印』とは、ハーフの子どもが生まれた時に施される首筋にある入れ墨だ。

ワイシャツを着ていても見えるような位置にあり、一目でハーフと分かる。

これは生涯消すことも隠すことも許されていない。


「名誉テラン? こんな小さい子が?」


名誉テラン。

最下層の扱いを受けているハーフが、テランとして生きていくことができる称号だ。


「でも名誉テランの称号を得るのって、国が認めるくらいの社会貢献をするか、莫大なお金が必要なんじゃ」


「先月祖父が亡くなってな。その遺産が入ってきたんだ。それと俺の貯金と姉ちゃんの貯金を合わせてなんとか……まあ、おかげで今はすっからかんだけどな」


先生はそう言ってはにかみ、頭を掻いて続けた。


「アイラもな。幼稚園にはハーフとして通ってたんだ。そこで色々な迫害を受けた。お気に入りのワンピースをぐしゃぐしゃにされて帰ってきたり、自分だけ先生にずっと無視されたり、子供達に囲まれて、『お前は俺達の奴隷なんだよ』なんて暴言吐かれながら、殴ったり蹴ったりされたり……そんなことが日常茶飯事だったんだ。まだ小さな子どもなのにな……アイラがよく言ってたよ。『みんなどうして私だけいじめるの? 私は悪い子なの? どうしたら、みんなに優しくしてもらえるの?』って」


悔しそうに顔を歪め、先生が缶コーヒーを握りしめる。私はその横顔を切ない気持ちで見つめていた。


「姉ちゃんがテランで、相手の男がエランだったんだ。男は姉ちゃんに子どもが出来たと知った途端、姿をくらました。まあ、テランとエランのカップルではよくあることだよな。俺達の両親は早くに亡くなってるからな。身寄りの無くなった二人は、今は俺の家に一緒に住んでるんだ……名誉テランになってからのアイラは、本当に毎日楽しそうでさ。『学校でこんな事があった』とか『友達と喧嘩した』とか、そんな他愛もない事を、目をキラキラさせながら話してくれるんだ。俺も姉さんもほぼ無一文になっちまったけど、称号をあいつに与えてあげられて、本当に良かったと思ってるよ」


そう語る先生の横顔は、幸せを噛みしめているようだった。


「だからな、刃金はがね。俺はお前にも幸せになってほしいんだ。俺が刃金はがねにできることなんて、大してないんだけどさ。お前の家の事情も知ってるし……ただ、お前が辛いときは寄り添って話を聞くくらいのことは、できる存在でありたいんだ」


そう言って先生が私に微笑みかける。

私はその爽やかで眩しい笑顔を、重い前髪のカーテンの隙間からじっくりと覗き見て、うっとりとした。


「先生、ありがとうございます。私、葛西先生が担任の先生で……本当によかった」


感謝の言葉を口にすると、先生はくしゃりと子どものような笑みを浮かべ、私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。


刃金はがね。もし良かったらなんだが。これからもたまに体育館裏で話さないか?」

「え?」

「まあ、刃金が嫌じゃなければなんだが──」

「はいっ! もちろんです!」


私は生まれて始めてというくらいの小気味よくて快活な返事をした。

すると先生は一瞬目を丸くし、再び表情を崩して笑った。

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