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エナジクト──漆黒のバーサーカーと至高の最弱ヒーロー  作者: ノミオ
第三章──潜入捜査という名の青春、開始
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愛じゃない-4



「今日は、2年の東上とうじょうさんが私を訪ねてきたよ」


「……そうか」


「?」


放課後、永月の車の中。あまりに気のない返事に思わず顔を見る。

永月は心ここにあらずといった感じで、珍しいくらいにぼんやりしていた。


最近こいつ、様子がおかしいな。何かあったのかな?


「永月、おーい永月!」


呼びかけると、永月はようやく我に返ったようにこちらを向いた。


「なんだよ」


「だから、今日私のとこに東上さんが来たんだって」


「東上が? 一体何をしに」


「なんか東上さん、ソラちゃんの後輩らしくて。『アンタみたいなハーフがどうしてソラちゃんと仲良くしてるわけ?』って問い詰められた」


「東上が宇宙こすもソラの後輩? 東上は2年で宇宙こすもソラは1年だろ。どういう事だ」


私はスマホを操作し、永月に見せる。そこにはソラちゃんがランウェイを歩いている姿が映っていた。


「ソラちゃんモデルの仕事やってるんだけど、東上さんも同じ事務所に所属してるらしいの。ソラちゃんはいわゆるカリスマモデルってやつで、東上さんにとってソラちゃんは、憧れの先輩みたい」


「つまり東上と宇宙こすもソラは繋がってるってことか」


「そういう事になるね。これは可能性の話だけど、もしかしたらこの失踪事件、ソラちゃんが東上さんに何かしらの指示をしてたのかも」


「なるほどな……お前、今週末に宇宙こすもソラと二人で会う予定だったよな」


「うん」


「俺も同席していいか?」


「え? なんで?」


宇宙こすもソラへの事情聴取の許可が出たんだ。手続き関係は吹雪室長がやってくれるらしい」


「……いや、止めといたほうがいいと思う。ソラちゃんはテランの事もだけど、男に対する嫌悪もかなり強いみたいだから。たぶん永月が顔を出したら、怒ると思う。それに警戒して、二度と私と会ってくれなくなるかも」


「じゃあこないだ話してた通り、尾行はさせてもらうぞ。何が起こるか分かんねぇからな」


「うん。お願い……で、永月の方はどうなの?」


「俺のほう?」


鳳条鵺ほうじょうぬえのこと、調べてるんでしょ?」


「……あー、そうだったな」


永月は電子タバコのデバイスを手にし、一服する。ぼんやりと白い煙を吐きながら、ひとり言のように呟いた。


「あいつはまあ……相変わらず変な奴だった」


「はあ? またそれ?」


煮えきらない言葉に思わず問いかける。永月はばつが悪そうにデバイスをダッシュボードに置いた。


「よく分からないんだ、あいつは。学校の資料を漁ったが、明らかに偽装した個人情報が並んでた。書いてある住所に行ってみたが、更地だった」


「個人情報を偽装? じゃあそいつ、かなり怪しいじゃん」


「……さあ、どうなんだろうな」


おかしいな。永月の言葉にいつもの刺々しさと鋭さが無い。っていうか、覇気がない。

まるで魂を抜かれてしまったみたいに、ずっとぼんやりしてる。

やっぱりこいつ変だ。何かあったのかな?


「ねぇ、永月」


「なんだよ」


「あんたさ……大丈夫?」


「何が?」


「……いや、なんでもない」


永月のことは気になるけど、とりあえず私はソラちゃんのことを調べないと。

ぼんやりしたままの永月を残し、私は車を降りた。







「あ、いた」


翌日の昼下がり、いつもの芝生に座っている秋人を鵺が見下ろす。秋人はそれを見上げ、「よお」と返事をした。

鵺が秋人の隣に座る。秋人はほっとしたようにため息を吐き、デバイスを取り出した。一服してる秋人を横目で見ながら、鵺は呟く。


「あきつきながとは、相変わらず不良だな」


「これは煙草じゃねぇよ。副流煙も出ない」


「じゃあそれ何なの?」


「CBD」


「しーびーでぃーって?」


「合法大麻だ」


「合法大麻か。非合法な香りがぷんぷんするな」


「勝手に言ってろ」


鵺はそれ以上何も言わず、ぼんやりと空を見上げた。

授業中の校舎は静寂そのものだ。小鳥のさえずりだけが聞こえる。静かで穏やかな時間が過ぎていった。


「ながとは何が好きなんだ?」


「は?」


「好きなもの、無いのか?」


「好きなもの……あまり考えたことが無かったな」


「煙草か?」


「これは煙草じゃねえっつってんだろ」


「じゃあ、嫌いなものは?」


その問いかけに、デバイスを持つ秋人の指先がぴくりと震える。秋人は表情に嫌悪を滲ませ、答えた。


「……父親」


「父親が嫌いなのか」


「そうだな。つっても、義理の父親だが……もしあのクソ野郎の血が自分に流れてたとしたら、俺は躊躇なく自分の首を掻ききって死んでるだろうな」


「そっか。俺も苦手なんだ、父親。もう会うことは二度と無いだろうけど」


「……お前も色々あるんだな」


「俺達って、似てるのかな」


「さあ、どうだろうな」


どうして俺は、会って数日しか経ってないこいつに自分の事をべらべらと話してるんだろう。

こいつは被疑者なわけだから、あまり仲良くしすぎるのもよくない。でも……なんか、調子狂うな。


煙を吐きながらぼんやりと考えていると、至近距離に気配。見ると鵺が顔を近づけ、こちらをじっと見ていた。

秋人はぎょっとしながら問いかける。


「おまっ急になんだよ」


「俺も吸ってみたいな。それ」


「は?」


「リラックスできるんだろ?」


「……気休め程度だぞ?」


「いい。吸いたい。ネタになるかもしれないし」


「分かったよ……ほら。絶対むせるから、少しずつ吸え」


一応ハンカチで吸い口を拭き、鵺に差し出す。

鵺は細く長い指でデバイスを持ち、思いっきり吸い込んだ。そして当然のようにむせた。


「ごほっ! ごほっ……!」


「馬鹿、一気に吸うなって」


いわんこっちゃないと秋人は鵺の背中を擦る。


「っ……苦しいな。でも、これ、間接キスってやつだよな。そうか。間接キスって……ドキドキするんだな」


「いや、それは肺がダメージ受けたせいで起こってるただの動悸だ」


「……これ、『本物』をしたらどうなるんだろう」


「は?」


「キスだよ。本物のキス」


長い前髪の隙間から、濃色こきいろの瞳が秋人の唇をじっと見つめる。


「……お前……何言って?」


「俺、お前とキスしたい。した事ないからしてみたいんだ。どんな気持ちになるか試したい。ながと……キスしていい?」

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