愛じゃない-3
「え!? 潜入捜査終わってからも曼荼羅高校に通ってもいいの!?」
私は思わず冬華に詰め寄る。冬華は至近距離にある私の目を見つめながら、にこやかに頷いた。
「ほんと? 本当にいいの!?」
「もちろん。だってアイちゃんはまだ15歳。ばりばりの高校生なんだから」
「……ふゆかぁ」
「おいで?」
「ありがとうふゆかぁー!!! 大好きぃ~~!!!」
両手を広げる冬華の胸の中に私は飛びこんだ。おーよしよしと頭を撫でながら、冬華が言う。
「でも、もしずっと曼荼羅高校に通うとしたら、勉強は頑張らないとだね」
「……べん、きょう?」
「今は潜入捜査中だからテストの点数は多めに見てもらえてるけど、本格的に曼荼羅高校に通うなら、結構頑張らないとだと思うよ」
なんてったって国内有数の進学校だしね。
冬華がにこりと告げた事実に、私の顔はさーと青くなった。
やばい。私、マトモに勉強したの中学卒業するまでの一ヶ月間だけなんですけど……。
でもまあいいや。だってほのかちゃんとアキラちゃんとこれからもずっと一緒にいられる。
大変かもしれないけど……まあ、なんとかしてみせる!!
「ほのかちゃん、アキラちゃん! おっはよー!!!」
教室に入るなり高らかに挨拶をすると、声が大きすぎたせいでクラスのみんなが一斉に振り返る。
恥ずかしくなった私は身を縮め、すごすごと自分の席へと向かった。
「おはようアイちゃん。今日はなんだか元気だね~!」
「えへへ……二人とも、昨日は迷惑掛けちゃってごめんね?」
「なんだよ水くさいな。当たり前に堂々胸張っとけ。私達は友達だろ?」
「友達……うん。そうだよね。じゃあ、こういう時はありがとうが正解でいいのかな?」
「そうそう。アイはちょっと自分に自信がなさすぎなんだよなぁ」
「そうだよアイちゃん! アイちゃんはとっても素敵な女の子なんだよ~?」
「ほのかちゃん、アキラちゃん……あのさ、そんな私の素敵な友達の二人に、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なになに~? もしかして、映えるカフェへのお誘い~?」
「それかゲーセン行きたいとかか?」
期待のまなざしを向けてくる二人に、ゴソゴソと鞄から取り出した教科書を見せる。
「非常に言いにくいんだけど……私に勉強……教えてくれない?」
「「え?」」
目を丸くした二人の声が重なる。その時だった。
「刃金アイ」
不機嫌そうな声が私の名を呼ぶ。振り返ると、教室の扉に気だるげに背を預け、ギャルがこちらを見ていた。
金髪白肌で、少しキツイ印象の美人。私はそのギャルに見覚えがあった。
「あなたは……2年の東上さん?」
そう。そのギャルは連続失踪事件の被疑者の一人──東上風未だった。
名前を呼ぶと、東上さんは不機嫌そうに私を睨みつけながらこちらに歩いてくる。
ビクビクしながら見つめていると、目の前で歩いてきて、机をバンと叩かれた。
「ヒェッ!?」
「刃金アイ、アンタさぁ……ソラさんとどういう関係なわけ?」
「へ……え?」
◆
「あ、昨日の不良」
「お前……またサボってんのかよ」
午前の授業中。人気の無い校舎裏の芝生に寝転がった秋人を、鵺が覗き込んだ。
鵺はのそりのそりと歩み寄り、当たり前のように秋人の隣に座る。秋人は気にせず白い煙を吐いた。
「昨日も言ったが、俺は不良じゃない」
「昨日も今日もサボってる。秋月永人は不良だろ」
「永月秋人だ。二度と間違えんな」
「あー、そうだっけか。ながつきあきと……ながつき……なが……あきつき、なが……ながと……長門?」
「秋人だ」
「あきと……秋の人……秋の、と……刀……秋刀魚?」
「秋人だっつってんだろ、このクソバカ野郎」
「そんな怒るなよ。こんないい天気なのに」
鵺が空を見上げる。今日も雲一つ無い快晴だった。秋人も空を見上げながら、ぼんやりと煙を吐いた。
「珍しいな。2日続けて登校してくるなんて」
「んー。なんか、面白いと思って」
「面白い? 学校がか?」
「あきつきながとが」
鵺が長い前髪の隙間から秋人をまっすぐ見つめる。秋人は驚いたように目を丸くして鵺を見た。
「なるほど、それがながとの『珍しい物を見た時の顔』ってやつか」
「はぁ……お前は本当に意味が分からん」
「そうか?」
「お前さ、学校も行かずに家でやってんだ?」
「んー……内緒かな」
「は?」
「内緒にしとけって、マサに言われてるから」
「マサ? 誰だそれ?」
そう問いかけると、鵺は考えを巡らせるようにフリーズする。少し鵺の挙動に慣れてきた秋人は答えを待つ。
少しの間を置いて、鵺は首を傾げながら言った。
「マサは俺の……友達?」
「俺に聞くな」
「友達だと思う。でも俺は、マサがいないと生きていけないし、マサもそう言ってた……やっぱり友達じゃないかも」
「……家族みたいなもんか?」
「分からない。たぶん、そうかも」
「はぁ~……聞けば聞くほど意味が分かんねぇ」
でも、こいつとの会話は何故か嫌いじゃない。よくは分からないが、落ち着く。
このまま日が暮れるまでこいつが隣にいたとして、イライラすることは無いような気がする。
珍しいなと、秋人はぼんやり考える。
だがこいつは失踪事件の被疑者候補だ。気は抜かないようにしねぇと……いや、探りを入れるためにも、こうやって他愛ない会話することも必要か。
ふと鵺が立ち上がる。秋人はその背中に声を掛けた。
「どこ行くんだ? 飲み物買いに行くなら、俺のも頼む」
「そうしたい所だけど、そろそろ家帰んないと」
「は? 今来たところだろ」
「気分転換に抜け出してきただけだから、すぐ帰らなきゃなんだ。少しでも永人と話せて、よかったよ」
「……お前、本当に何者なんだ?」
「あきつきながと」
質問に答えず、鵺が秋人を振り返る。秋人は身体を起こして鵺を見上げた。
髪の隙間から覗く切れ長の瞳は、しっかりと秋人を捉えていた。
「もっとお前と話したいからさ。明日もここ来ていい?」
「……勝手にしろよ」
「じゃあ、また明日」
鵺は背を向け、歩いていってしまった。その背中を眺めながら、秋人は「何なんだよあいつは」と一人呟いた。
↓の★マークでのポイント評価、ブックマーク、感想、いいねなどもらえたら嬉しいです!




