アタシ─3
「ねぇアイちゃんどこ行くー? アタシ、ハーフの子と遊ぶのなんてアイちゃんが初めてっ! ねぇ、どこ連れてってくれるの!?」
「え、えーとぉ。そうだなぁ……」
横からソラちゃんに無邪気にせっつかれつつ、渋谷の街を歩きながら、私は無鉄砲な自分の行動を後悔していた。
誘い出すことには成功したけど、その後のことを全く考えてなかった!
どうしよう。スタビにでも連れてこうか……いや、ソラちゃんお洒落なカフェなんて行き慣れてそう。
うう……とりあえず、話をして時間を稼ごう。
「ソラちゃんさ。今日みたいに他校にこっそり忍び込むの、今までもやってたの?」
「ううん。別のがっこーに忍び込むのなんて今回が初めてだよ~。だって中学ではほのかもアキラちゃんもいたし」
「……そうなんだ」
ううむ。嘘を言ってる感じはしない。それに制服は昨日今日用意してもらったみたいな事も言ってたし……ソラちゃんは犯人じゃないのかな?
「しかしハーフのお友達出来てよかった~っ! アタシさ、ハーフの子に偏見って無いんだよね。だって半分はアタシと同じエランの血が流れてるんだもん。ほぼアタシ達エランと一緒じゃん!」
「あはは……ありがと」
その言葉に関しては、私は素直に信じることができなかった。
さっきの先生への態度もそうだけど、今のハーフが差別されている社会を作っているのは他でもない──ソラちゃんのお母さんなんだから。
「撮影以外で学校サボるの初めてだな~。もう高校生になったんだし、これからはもっと自由に生きなくちゃねー」
ソラちゃんは鼻歌交じりに、私の前を歩いている。
その姿が、やっぱり私には光って見えた。
どう切り出そう。失踪事件のこと。
その話をしたら……少しは反応が変わるかも。
「ねぇ、アイちゃん」
ふと、前を歩いているソラちゃんの足が止まる。私もソラちゃんの華奢な背中を見つめながら立ち止まった。
「ソラちゃん。どうしたの?」
「ちょっと聞いてもいい?」
「う、うん」
「アイちゃんはさ、テラン達について──どう思う?」
◆
午前の授業中。人気の無い校舎裏の青々とした芝生。そこに一人の生徒が壁に背を預け、座り込んでいた。
気だるげに紫煙をくゆらせ、虚空に視線を漂わせているその人物は、現在学校中の、いや、世間の注目の的である人物──永月秋人だった。
「たく……クソみてぇな任務だ」
そう独りごちながらデバイスに口をつけ、青い空を忌々しげに睨みながら白い煙を吐いている。
現在絶賛授業中。そう、つまりはサボりだ。
この潜入捜査に前向きではなかった彼だが、当初は真面目に授業を受けていた。
だが、彼は普通の高校生活を送るにはいささか人気者すぎた。
授業中であるにも関わらず教室内の全生徒がチラチラと秋人を盗み見たり、ただ歩いているだけで後ろにぞろぞろと人が続いたり、挙げ句はトイレで用を足す時に、男性教師がわざわざ隣に並んで視線を送ってくる始末だ。
そんな状況に耐えられず、彼は冬華に何度か抗議した。捜査はちゃんとするから、わざわざ学校に通うなんてクソ無駄な行為を俺にさせるなと。
しかしその度に「あれ? 永月くん……昇進はもういいの?」とキョトン顔で首を傾げられ、黙るしかなかった。
そもそも報道陣のインタビューや雑誌の写真撮影、ひいては乖からの唐突な呼び出しなど。ET駆除が免除になったといえど、彼はまともに授業に出られる時間がそもそも少ない。そして学業に対する意欲もない。
という事で、授業をサボることにしたのだ。
どう考えても俺は潜入捜査には向かねぇだろ。どいつもこいつも、頭にクソでも詰まってんじゃねぇか。
内心毒づきながら、秋人は肺を再び煙で満たす。
彼の苛立ちの原因はそれだけではない。高校に潜入して1週間、捜査がほとんど進展してないのだ。
授業はサボっていたが、捜査は務めて真面目に進めていた。
彼の部下を使って、失踪した生徒の友人に聞き込みをしたり、2年B組の日高友尊。2年C組の東上風未。
被疑者である2人を尾行し、行動を徹底的に洗ったりもしているが、特に怪しい動きはなかった。
新たな失踪者も出てない。奇妙なほど平穏そのものなのだ。
そう、奇妙なほどに。
冬華の言った通り、『6課の永月秋人が転校してきた』ということで、犯人が犯行を控えたということなのだろうか。
新たな被害者が増えないのは喜ばしい事であるが、犯人を捕まえられなければ元も子もない。
3人目の被疑者──鳳条鵺に関しては、一度も登校して来ない。死ね。登校してきやがったら一発ぶん殴ってやる。
「はー……こんなクソみてえな仕事、さっさと終わらせてぇ」
ガサガサ。
ふと側の茂みから音がする。猫だろうかと視線を送る。ガサガサと茂みが揺り動き、そこから現れたのは──人間の顔だった。




