アタシ-1
猫を想起させるような、少し吊り目のぱっちりとした大きな瞳。きめ細かな白い肌。彫りの深い顔立ち。短く改造されたスカートから覗く、すらりとしたスレンダーな体躯。
彼女が動くたびに揺れる、色素の薄いクリーム色のショートヘア。
この子。纏ってる空気が他の人と全然違う。
なんていうんだろう、あまりにも綺麗すぎて場違いというか。いい意味で浮いてるというか。なんか……光って見える。
周囲を見渡すと、全ての人がその子に釘付けになっていた。
「誰だあの子? すっげぇ美人……なんかテレビで見たことあるような」
「やべぇ……もはや女神じゃん……」
「ソラちゃーん! 久し振り~!」
「ほのちゃ~ん!」
女の子がこちらに駆け寄り、ほのかちゃんにハグする。
近くに来るとクラクラするくらいいい匂いがして、キラキラしていて、そしてやっぱり凄まじく綺麗だった。
「ふえ~ん! ソラちゃん全然会ってくれなかったから寂しかったよぉ~!」
「はいはい。今日はその分構ってあげますからね~」
ほのかちゃんが泣き真似しながらソラちゃんに抱きつく。
「まーたイチャイチャしてる」とアキラちゃんが微笑み、ソラちゃんは「おーよしよし」と、まるで小動物にそうするみたいに、ほのかちゃんの頭を撫でていた。
すごい。これが漫画で何度も読んだ女の子同士のじゃれ合い、リアルバージョンか。
と……尊い。
ていうか、この子絶対エランじゃん。やばい。私いない方がいいんじゃ。
エランとテランが友達になるケースは結構あるって聞くけど、エランとハーフが友達になるなんて、どう考えてもあり得ないし。
「あれ? この子は?」
長い睫毛に縁取られたミルクティーブラウンの大きな瞳が私を捉えた。
そのままじっと見つめられる。私はオーラに気圧されて、俯いてしまった。
「ソラちゃん紹介するね。この子は刃金アイちゃん。なんと、入学式の日にお友達になりました~っ!」
「へ~? アイちゃんかぁ。その髪色……もしかしてハーフ?」
「は、はい……すいません……」
「なんで謝るの? 変なの~……あ、そうだ。アイちゃん。これお近づきの印にどーぞ」
「へ?」
ソラちゃんが鞄からゴソゴソと何かを取り出し、手渡してきた。
それはブランドに疎い私でもその存在を知っている。女子に人気のハンドクリームだった。
「え、これ……貰っていいの?」
「うん。この間の撮影でいっぱい貰ったんだぁ~」
「撮影?」
「ソラはモデルやってんだ。有名な雑誌とかファッションショーに出たりもしてるんだぜ?」
「モデル……すごいね」
「へっへーん。まあそれほどでも? 家に余ってるコスメ、今度アイちゃんにも持ってきてあげるね?」
「あ……ありがとう。でもそんな、いいの?」
「当たり前じゃーん! 友達なんだから!」
「え、私、ソラちゃんの友達に……なっていいの?」
恐る恐る問いかけると、ソラちゃんは笑顔を浮かべ、私に手を差し出してきた。
「アタシはソラ。宇宙ソラだよ。これからよろしくね。刃金アイちゃん?」
ぎこちなくその手を握る。華奢で冷たい手だった。
「ソラちゃん、あの……よろしくね?」
そう返すと、ソラちゃんは私の手を包み込むように両手で握り、白い八重歯を見せて無邪気な笑みを浮かべた。
すごい。この子エランなのに、私に普通に接してくれる……天使じゃん。
それにこんなに綺麗なのに陰キャの私に優しくしてくれるなんて……好き……好き!
そこまで考えて、ふと冬華の顔が頭に浮かんだ。
はっ! 違うよ冬華!? 私の中のナンバー1は圧倒的に冬華だから! それは何も変わってないから!
「ねぇお腹すいたよぉ~早くクレープ食べ行こ?」
「もう、ほのかは食いしん坊だなぁ。さ、行こうアイちゃん」
「うん!」
それにしても、ソラちゃん綺麗だなぁ~。
全身が光って見えるというか。目が離せないというか……あれ? この感覚って……もしかして?
「聞いてよ永月! 昨日会った他校の宇宙ソラちゃんって子が、すっっっごい怪しかったの!!!」
「はぁ?」
翌日の放課後、車の中。呆れ顔でこちらを見る永月に、私は事実を叩きつけた。
「第六感ってやつかな!? すぐに分かったの! この連続失踪事件の犯人は……ソラちゃんで間違いないって!」
「……根拠は?」
「だってソラちゃんすごく美人でさ、光って見えたんだって! こう、キラキラ~って! それにクレープ食べる時『ホイップ抜きで』って言ってた! あり得なくない!? そのお店、ホイップ5倍無料なんだよ!? ねぇ、どう思う!?」
「声デケェし話纏まってねぇし根拠ねぇし、クソだなと思った」
「勘だって! 私の勘が絶対間違いないって言ってんの!」
「そいつ他校の生徒なんだろ? それに失踪事件が始まったのは今年の1月から。入学すらしてない生徒が校内に入るなんて不可能だ。そんな奴が一体どうやって校内で生徒を攫うってんだ?」
「……それは」
「それに、そいつはエランの中でも特権階級のやつだ。事情聴取するにしたって、いくつかの機関に申請と許可が必要になる」
「そんなに? ソラちゃんって、一体何物なの?」
「……お前。この国の首相が誰か、知らないのか?」
「へ? 首相? あー……私あんまりテレビ見ないから」
「宇宙セイラ。この国始まって以来初の女性首相だ」
「宇宙セイラ? 宇宙って……え、まさか」
「つまりあいつは、この国の現首相の娘ってことだ」
「ソラちゃんが……首相の娘ぇ!?」
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